収益認識基準の年度末開示における事前準備の留意点

旬刊経理情報(中央経済社発行)2022年1月10日・20日合併増大号に「強制適用後初の本決算を前に 収益認識基準の年度末開示における事前準備の留意点」に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2022年1月10日・20日合併増大号に「強制適用後初の本決算を前に 収益認識基準の年度末開示における事前準備の留意点」に関するあずさ監査法人の...

この記事は、「旬刊経理情報2022年1月10日・20日合併増大号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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ポイント

  • 年度末の開示として、重要な会計方針の注記および収益認識に関する注記のうち、四半期(連結)財務諸表では開示対象外であった「収益を理解するための基礎となる情報」および「当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報」が初めて開示対象となる。
  • 収益認識基準の適用前は「収益」に関する開示は限定的であったが、収益認識基準の適用によって企業が開示すべき事項が拡大し、負担が増加することが想定されるため、事前の準備が重要であると考えられる。
  • 年度末の開示で初めて開示対象となる注記のなかでも、事前に準備ができる注記があるので、必要な開示情報を収集できる社内体制を早めに構築する必要があると考えられる。

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はじめに

企業会計基準29号「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」という。また、企業会計基準適用指針30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識適用指針」という)をあわせて、「収益認識基準」という。なお、同基準の項番号を引用する際は、「基準〇〇項」、関連する収益認識適用指針の項番号を引用する際は「指針〇〇項」という)は、2021年4月1日以後開始する会計年度(本稿では連結会計年度および事業年度の両方を指すものとする)の期首から適用されている。

3月決算の企業にとっては、収益認識基準を早期適用している場合を除き、2022年3月末の期末決算における開示が収益認識基準の適用による最初の年度末開示となる。本稿では、収益認識基準を初めて適用する場合の年度末の開示の論点に焦点を当てて解説する。

なお、本稿の意見に関する部分は私見であることをあらかじめ申し添える。

収益認識基準に基づく年度末開示の全体像

収益認識基準に基づく年度末の開示においては、重要な会計方針の注記(図表1の1)および収益認識に関する注記(図表1の2)が求められている。顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の事項を注記する必要がある(基準80-2項)。

(1)企業の主要な事業における主な履行義務の内容

(2)企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)


顧客との契約から生じる収益に関する情報を注記するにあたっての包括的な定めとして、開示目的「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること」が設けられている(基準80-4項)。また、この開示目的を達成するための収益認識に関する注記として、次の事項を開示することが求められている(基準80-5項)。

(i)収益の分解情報

(ii)収益を理解するための基礎となる情報

(iii)当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報


四半期(連結)財務諸表においては、会計方針の変更に関する注記を除き、収益認識基準の注記事項としては、(i)「収益の分解情報」の注記のみが求められているため、(ii)「収益を理解するための基礎となる情報」および(iii)「当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報」は年度で初めて開示されることになる。

前記の重要な会計方針の注記に関連して、収益認識に関する注記として、収益認識基準の適用における重要な判断を記載することが求められる。具体的には、重要な会計方針として主な履行義務について履行義務を充足する通常の時点を記載するとともに、一定の期間にわたり充足される履行義務については、収益を認識するために使用した方法が財またはサービスの移転の忠実な描写となる根拠の記載、一時点で充足される履行義務については、充足時点を評価する際に行った重要な判断の記載が求められることになる(基準80-18項)。

取引価格の算定に関しては、取引価格の算定方法について理解できるように取引価格を算定する際に用いた見積方法、インプットおよび仮定に関する情報の記載が求められる(基準80-16項)。また、取引価格の履行義務への配分額の算定方法について理解できるよう、取引価格を履行義務に配分する際に用いた見積方法、インプットおよび仮定に関する情報の記載も求められている(基準80-17項)。これらの注記や、一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識するために使用した方法の注記は、見積りの要素を含んでおり、2020年3月31日に公表された企業会計基準31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」にも関連するため、同基準に沿った開示もあわせて検討することに留意が必要である。

図表1 収益認識基準の注記(基準80-2項、80-5項)

図表1 収益認識基準の注記(基準80-2項、80-5項)

(出所)有限責任あずさ監査法人編『図解 収益認識基準のしくみ<改訂版>』をもとに筆者作成。以下の図表も同様。

収益を理解するための基礎となる情報(図表1の2(2))

収益認識基準の注記のうち年度末開示ではじめて注記が求められるものの1つが、収益を理解するための基礎となる情報である。企業が認識する収益を財務諸表利用者が理解するための基礎となる情報として、会計処理のステップ1~5のそれぞれについて、次のような注記を行うことが求められている。

1.契約および履行義務に関する情報(ステップ1およびステップ2)

収益がどのような契約から生じているのかを理解するための情報を注記することが求められており、「履行義務に関する情報」と「重要な支払条件に関する情報」とに区分したうえで、それぞれについて記載する。

履行義務に関する情報については、基準上、以下が例示されている(基準80-14項)。

(履行義務に関する情報の例示)

  • 企業が他の当事者の代理人として行動する場合の履行義務の内容
  • 返品、返金およびその他の類似の義務の内容
  • 財またはサービスに対する保証および関連する義務


また、重要な支払条件に関する情報を注記するにあたっては、基準上、たとえば次を記載することが求められている(基準80-15項)。

(重要な支払条件に関する情報の例示)

  • 通常の支払期限
  • 対価に変動対価が含まれる場合のその内容
  • 変動対価の見積りが通常制限される場合のその内容
  • 契約に含まれる重要な金融要素の内容

2.取引価格の算定に関する情報(ステップ3)

この項目では、「契約および履行義務に関する情報」を踏まえ、取引価格をどのように算定したかを理解するために取引価格を算定する際に用いた見積方法、インプットおよび仮定に関する情報を記載することが求められている(基準80-16項)。

(取引価格の算定に関する情報の例示)

  • 変動対価の算定
  • 変動対価の見積りが制限される場合のその評価
  • 契約に重要な金融要素が含まれる場合の金利相当額の調整
  • 現金以外の対価の算定
  • 返品、返金およびその他の類似の義務の算定

3.履行義務への配分額の算定に関する情報(ステップ4)

企業が複数の履行義務を含む契約を有しており、履行義務への取引価格の配分に関連して、収益の金額、時期および不確実性に重要な影響が生じる場合には、「取引価格の算定に関する情報」と同様に、その配分に用いた方法、インプットおよび仮定に関する情報を注記することが求められている(基準80-17項)。

(履行義務への配分額の算定に関する情報の例示)

  • 約束した財またはサービスの独立販売価格の見積り
  • 契約の特定の部分に値引きや変動対価の配分を行っている場合の取引価格の配分

4.履行義務の充足時点に関する情報(ステップ5)

企業が履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)をどのように判断し、どのように会計処理しているのかに関する情報を注記することが求められている。この項目では、例示ではなく、具体的な記載内容が次のとおり示されている(基準80-18項)。

(i)履行義務を充足する通常の時点(または収益を認識する通常の時点)

(ii)一定の期間にわたり充足される履行義務の収益認識の方法およびその方法が財またはサービスの移転の忠実な描写となる根拠

(iii)一時点で充足される履行義務について、約束した財またはサービスに対する支配を顧客が獲得した時点を評価する際に行った重要な判断


「履行義務を充足する通常の時点」と「収益を認識する通常の時点」とが異なる場合は、「収益を認識する通常の時点」を注記する。たとえば、一時点で充足される履行義務の代替的な取扱いを適用し、出荷時点で収益を計上する場合は、「収益を認識する通常の時点」である出荷時点を注記する必要がある(基準163項)。なお、前期(i)については、重要な会計方針として注記することとされている。

5.収益認識基準の適用における重要な判断

収益認識基準を適用する際に行った判断および判断の変更のうち、顧客との契約から生じる収益の金額および時期の決定に重要な影響を与えるものについては、注記することが求められている。

当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報(図表1の2(3))

収益認識基準の注記のうち年度末開示ではじめて注記が求められるもののもう1つが、当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報である。当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、図表1の2(3)に記載のとおり、契約資産および契約負債の残高等および残存履行義務に配分した取引価格の記載が求められている。

1.契約資産および契約負債の残高等(図表2)

契約資産および契約負債の残高等の注記では、履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係についての理解に資するため、次の定量的および定性的な情報の注記を行う(基準80-20項)。

(i)顧客との契約から生じた債権、契約資産および契約負債の期首残高と期末残高(これらを財務諸表に区分して表示している場合には不要)

(ii)期首時点の契約負債残高のうち、当期に認識された収益の額

(iii)当期における契約資産および契約負債の残高の重要な変動の内容

(iv)履行義務の充足時期が通常の支払時期にどのように関連し、それらの要因がどのように契約資産および契約負債の残高に影響するのかの説明

(v)過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務について、当期に認識した収益の金額(例:前期に充足されている履行義務について、取引価格の変動によって当期に認識した収益の額)


なお、(iii)については、実務上の負担等を考慮して、残高の変動のうち「重要な変動」について注記するものとし、また、必ずしも定量的な情報を含める必要はないとされている。開示される残高の変動としては、次が例示されている(指針106-8項)。

  • 企業結合による変動
  • 進捗度の見積りの変更
  • 取引価格の見積りの見直し(取引価格に含まれる変動対価の額が制限されるのかどうかの評価の変更を含む)
  • 契約変更等による収益に対する累積的な影響に基づく修正のうち、対応する契約資産または契約負債に影響を与えるもの
  • 対価に対する権利が無条件となるまでの通常の期間の変化
  • 履行義務が充足されるまでの通常の期間の変化

図表2 契約資産および契約負債等の開示例

図表2 契約資産および契約負債等の開示例

2.残存履行義務に配分した取引価格(図表3、図表4)

残存履行義務に配分した取引価格の注記では、当期末における未充足の履行義務に配分された取引価格は、翌期以降に収益認識されることから、企業の将来の収益予測に有用であるため、それらの金額と収益認識時期に関する次の情報を注記する(基準80-21、80-22項)。

(i)当期末時点で未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額

(ii)(i)の金額を、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるか(次のいずれかの方法により注記する)

 (イ)残存履行義務の残存期間に最も適した期間による定量的情報を使用した方法

 (ロ)定性的情報を使用した方法

次の場合には、上記の注記に含めないことができる。

(a)契約の当初に予想される契約期間が1年以内である場合

(b)請求する権利を有している金額で収益を認識する容認規定(指針19項)を用いて収益認識している場合

(c)売上高または使用量に基づくロイヤリティである場合

(d)完全に未充足の履行義務(または、一連の別個の財またはサービスに含まれる財またはサービス)に配分される変動対価である場合


これらの条件のいずれかを満たすために注記に含めなかった場合には、どの条件に該当したために注記に含めなかったかおよびその履行義務の内容を注記する必要がある。加えて、前記(c)または(d)に該当したために注記に含めなかった場合には、次を注記する(基準80-24項)。

(イ)残存する契約期間

(ロ)注記に含めなかった変動対価の概要(例:変動対価の内容およびその変動対価がどのように解消されるか)


なお、変動対価の見積りの制限等により、取引価格に含めないと判断したため、この注記に含まれていないものがある場合には、その旨を注記する必要がある。

図表3 残存履行義務に配分した取引価格の注記に関するフローチャート

図表3 残存履行義務に配分した取引価格の注記に関するフローチャート

図表4 残存履行義務に配分した取引価格の注記の開示例

図表4 残存履行義務に配分した取引価格の注記の開示例

※あくまで開示例であり、実際の注記に際しては、各企業の置かれた状況や実際に即して記載する必要がある。
(出所)公益社団法人 財務会計基準機構「有価証券報告書の作成要領(2021年3月期提出用)」をもとに筆者作成。

収益認識基準に基づく開示における特に留意すべき事項

前述のとおり、四半期(連結)財務諸表においては、会計方針の変更に関する注記を除き、収益認識の注記事項として要求されているのは収益の分解情報のみであったが、年度末の開示においては、それに加えて多くの注記が求められている。特に留意すべき項目として、図表1の2「収益認識に関する注記(3)当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報」について以下で解説する。

1.注記が必要なのは財務諸表の内訳情報だけにあらず

収益認識に関する注記は、前述のとおり、開示目的として、「顧客との契約から生じる収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること」(基準80-4項)とされている。そのため、ただ単に財務諸表の内訳情報を開示するのではなく、財務諸表利用者が当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報を注記する必要がある。

2.契約資産および契約負債等の注記

収益認識に関する注記では、履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるように、顧客との契約から生じた債権、契約資産および契約負債の残高(区分表示していない場合)を記載することが求められている(基準80-20項)。ここで特に留意が必要なのは、当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、顧客との契約から生じた債権、契約資産および契約負債の期首残高の注記が求められていることである。

収益認識基準の適用初年度において、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用している場合(基準84項ただし書き)であっても、期首残高の注記は適用初年度の年度末における注記を構成することになるため、省略はできない。そのため、期首残高の数値に関する情報収集を年度末の決算が本格化する前に実施することは、決算作業の効率化に資すると考えられる。

また、契約資産および契約負債等の注記では、過去の期間に充足(または部分的に充足)した履行義務から当期に認識した収益(たとえば取引価格の変動)の金額の注記も必要となる(基準80-20項)。こちらも年度末の決算が本格化する前に情報収集することで、決算作業の効率化に資すると考えられる(図表2参照)。

3.残存履行義務に配分した取引価格の注記

当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、残存履行義務に配分した取引価格の注記が求められている(基準80-21項)。一般に、経営管理目的で受注残を把握しているケースは見られるが、収益認識基準の開示規定に準拠するためには、数値の集計方法を見直すべき場合がある。たとえば、残存履行義務に配分した取引価格の集計対象は、収益認識基準のもとで契約の定義を満たすものに限られるが、現状管理されている受注残のなかにはそうでないものが含まれている可能性があるため留意が必要である。

また、有価証券報告書の第2【事業の状況】 3【経営者による財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況の分析】、「生産、受注及び販売の実績」において、受注残高に関する情報が記載されているが、当該情報と残存履行義務に配分した取引価格の注記との整合性についても留意が必要と考えられる。両者は必ずしも一致するとは限らないが、差異がある場合にはその理由を把握し、差異の内容を確認することも必要になると考えられる(図表3、図表4参照)。

4.年度末の開示に向けての社内体制の構築

収益認識基準が公表されるまでは、工事契約等の一部の定めを除き、直接「収益」に着目した表示や注記の要求事項は明確には定められていなかった。収益認識基準の適用によって、企業が開示すべき事項が拡大するため、負担が増加する可能性がある。また、前述のとおり、四半期(連結)財務諸表の注記と比較して、年度末で開示すべき注記項目は格段に増えるため、事前の準備が重要になる。そのため、年度末の開示に向けて、開示すべき内容を改めて確認し、事前に準備できる開示情報を収集し、決算スケジュール内に必要な注記を作成できるよう、社内体制を構築する必要があると考えられる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
マネジャー 公認会計士
今中 裕貴(いまなか ゆうき)

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