Close-up 3:ポストコロナの働き方 リモートワークの在り方

ワクチン接種が進むなど、世界的に新型コロナウイルス感染症の感染者数がピークアウトする中、リモートワークが中心だった働き方を変えようとする動きが出てきており、特に米国では多くの有名企業がオフィス勤務を前提とする方向へ舵を切っている。

ワクチン接種が進むなど、世界的にCOVID-19の感染者数がピークアウトする中、特に米国では多くの有名企業がオフィス勤務を前提とする方向へ舵を切っている。

一方、同じグループ内でもリモートワークに対して国ごとに正反対の方針を表明する企業が出てくるなど、ポストコロナにおけるリモートワークへの対応は混沌とした様相を呈している。

企業と従業員、双方にとってリモートワークという働き方は何をもたらすのか、ポストコロナを迎えて企業が現在直面している課題と対策を考察する。

コロナ収束=リモートワークの廃止?

コロナ禍で国内でも一気に導入が進んだリモートワークであるが、ポストコロナにおいてもその働き方を継続すべきであろうか。今夏の第5波を乗り越えて以降、感染者数が劇的に減少した日本の企業にとって、早急な意思決定が迫られる経営マターの一つと言える。国内企業においては、コロナ禍でのリモートワークはあくまで時限措置であったとして、その収束をもってリモートワークは撤廃、イコール出社前提の勤務形態に回帰、とする例が多いように見受けられる。

一方で、米国では投資銀行などの金融機関が週3日以上の出社を前提とする働き方にシフトすると声明を発表しているだけでなく、ネットフリックスやアルファベット、メタ(旧フェイスブック)、マイクロソフトなど本来はリモートワークによりフィットすると思われるIT 関連企業でも出社を前提とする働き方への回帰を表明している。海外ではリモートワークの継続の有無や出社の義務付けなどポストコロナの働き方について積極的に自社のスタンスを表明する企業が多い。

このように国内外を問わず出社前提の働き方に回帰しつつある一方で、フルリモートでの勤務やリモートワークを前提に地方への移住を推奨するなど柔軟な働き方をアピールして優秀な人材の獲得やリテンションに注力している企業も登場してきている。

ポストコロナの働き方について、イノベ ションの推進とパフォーマンスの向上、優秀な人材の獲得やリテンションを目指す企業としてはどのようなスタンスでリモートワークと向き合うべきなのか。企業、従業員の複数の視点からリモートワークのメリット・デメリット、 また日本企業が今後、採るべき働き方について内外の事例や調査結果を紹介しつつ、考察する。

イノベーションの観点から見たリモートワーク

米マイクロソフトが2021年9月に発表した自社の従業員約6万人を対象としたリモートワークに関する研究論文によれば、「全社的なテレワークが従業員同士のコミュニケーションに悪い影響を及ぼし、その生産性と長期的なイノベーションを脅かしている」という結果が出ている。

コロナ禍によるリモートワークへの移行前、 米国ではIT企業を中心にオフィスをオープンイノベーションの中心とすべく、様々な部門や機能に属する従業員が意図せず交流できる機会を作り出すためにオフィスのレイアウトを変更するなど工夫を重ねていたが、上記論文はイノベーションを生み出すための対面コミュニケーションの重要性を再確認する結果となっている。

ちなみに、ユニークな人事制度を導入していることで有名であり、同時にイノベーティブな職場環境で定評のあるネットフリックスの創業者兼共同CEOであるリード・ヘイスティングス氏が、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで従業員のリモートワークについて質問された際に「プラス要素はひとつもない」とコメントするなど真っ向から否定的な見解を示しているのは興味深い。

人材育成の観点から考えるリモートワーク

フォーチュン誌が米国で18歳以上の社会人を対象に実施した調査において18~24歳の回答者の43%が、リモートワークを始めて生産性が低下したと感じていることが分かっている。一方で、45~54歳と55~64歳の年齢層で生産性が下がったと回答したのは約25%にとどまっており、ある程度自己の裁量で業務を進められるベテランにはリモートワークがフィットするが、周りを見ながら業務を学び成長していく必要がある若手にとってリモートワークは必ずしも芳しくないという結果となっている。

これに関連して、コロナ禍において新入社員の離職が増えたという話も周りでよく聞くようになった。特に入社時点からオフィスに出社せずにリモートで勤務し、同僚や上司と日常的にコミュニケーションが取れる機会が少ないと新たな人間関係を構築するのは難しい場合も少なくなく、組織への帰属意識は育ちにくいということなのだろう。

従業員はリモートワークを希望しているか

企業の方は出社を前提とする働き方に回帰しているが、従業員はこの傾向をどう思っているのだろうか。

筆者がSNS上で企業に勤める従業員約680名を対象にアンケートを取ってみた結果、「フルリモート」と「出社+リモート」のハイブリッド型で約8割の回答者が基本的にはリモートワークを継続したいと考えているという傾向が見えた。(図1)

【図1】アフターコロナの希望の働き方は?

図1

Source: 筆者によるSNSを使用した独自調査

ただし、従業員といっても属性によって傾向に違いが生じており、特に単身者は自宅でのリモートワークに快適さを感じつつも、他人と会話する機会自体が激減してしまったことで孤独を感じてメンタルを病んでしまうケースが多数報告されている。

一方で、扶養家族(子供や両親)と同居する従業員では、リモートワークの方が家事や育児などで比較的柔軟な対応ができて良いという意見も多い。

リテンション施策としてのリモートワーク

優秀な人材のリテンションという観点からもリモートワークという働き方は非常に有効だと考えられる。そもそも優秀な人材というのは自律的に業務ができる人材であることが多く、リモートワークという働き方にフィットするため、こうした人材のリテンションのためにはリモートワークを積極的に活用すべきである。

ポストコロナの働き方はジョブ型をベースとしたハイブリッド型へ

ここまでリモートワークのメリット・デメリットについて述べてきたが、日本におけるポストコロナの働き方は出社とリモートワークを組み合わせたいわゆる「ハイブリッド型」が主流になると考えて間違いない。

フルリモートはジョブ型雇用の企業や自律的に働ける優秀人材など一部の従業員に限られるであろうし、一方でオフィススペースの削減に踏み切った企業も少なくないため、週5日フル出社という働き方もまた現実的ではなくなっているからだ。

とはいえ、「ハイブリッド型」と一口に言っても複数のタイプが存在するため、まずはどのようなタイプがあるのか見ていきたい。

1.出社/リモートワークの比率指定タイプ

週3~4日は出社、週1~2日はリモートのように出社とリモートワークを組み合わせ、その範囲で従業員が選択できるスタイル。

アルファベットやメタなどがすでに出社メインとする働き方の導入を公表しており、国内でも楽天が週4日の出社を原則とする方針を打ち出している。このスタイルでも個別事情などにより例外的にフルリモートを認める運用となっている

2.企業指定によるタイプ

どの部門の従業員がどの程度リモートワークをするか、出社するかを企業側が指定するスタイル。

コーポレート部門はリモートワーク中心、営業部門はオフィス勤務中心というように部門や職種によって分けることが可能であり、メンバーシップ型の雇用形態が中心の日本企業に最も適合するタイプといえる。

3.従業員による自由選択タイプ

出社するか、リモートワークをするかを従業員が日数の制限なく自由に組み合わせることができるスタイルであり、従業員がそれぞれのニーズに合わせて柔軟に勤務形態を選べるため、従業員としては最も望ましいタイプといえる。

このタイプは業務内容が明確であり、プロセスではなく成果で評価が可能な自律的に働ける従業員が多い企業では効果的であるものの、当然ながらすべての企業に適しているタイプではない。

お問合せ

基本的には、企業は上記3つの中から自社に合ったタイプの導入を検討すべきと考えるが、 その際の検討のポイントとしては右記の項目を参照頂きたい。

最後に、「ハイブリッド型」勤務形態を定着させていく上で何よりも留意すべき点について述べたい。それは、多くの日本企業に強く根付いているメンバーシップ型を前提とした業務の進め方のままではリモートワークにより効率性が落ちてしまうという点だ。この点を改善していくために業務内容や責任の明確化を見直していく中で、企業はメンバーシップ型からジョブ型への移行という雇用体系を根本的に見直すテーマについても真剣に向き合わざるを得ないであろう。

つまり、新型コロナウイルス感染症は、近時緩やかに進みつつあったメンバーシップ型からジョブ型への雇用体系の変化を強く促す影響を日本企業にもたらしているといえるのではないだろうか。

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