Close-up 2:「トランスフォーメーション型戦略的提携」の加速

ポストコロナにおいても恒常的な成長の実現を目指し、事業・戦略の「変革」を目指す企業が増えている。

ポストコロナにおいても恒常的な成長の実現を目指し、事業・戦略の「変革」を目指す企業が増えている。

M&Aはそのような「変革」の実現に向けた有効な手段の一つだが、特に従来型の買収(完全買収またはマジョリティ取得)とは異なる資本参加型M&Aを活用した「トランスフォーメーション型戦略的提携」が増加傾向にあり、今後、同トレンドは加速すると予想される。

企業の成長戦略において重要な役割を果たし得る「トランスフォーメーション型戦略的提携」の特性及び取り組む際の留意点について解説する。

足元における従来型の買収の回復と資本参加型M&Aの増加

既知の通り、リーマンショック以降の国内M&A市場は堅調に推移し、2019年には過去最多の件数を記録したが、2019年末より発生した新型コロナウイルス感染症の影響を受け、2020年におけるM&A件数は減少に転じた。一方、2021年に入ると経済の不透明性の解消、景況感の向上を背景に多くの経営者が今後の成長に向けて外部との連携・取り込みを視野に入れた事業構造の改善を目指す動きが出てきた。結果、2021年のM&A件数は回復基調に転じつつある。(図1)

【図1】M&A 形態別件数推移(件数ベース)

図1

Source: レコフM&Aデータベース

この回復基調の主な要因は、従来型の買収(完全買収またはマジョリティ取得)の回復と資本参加型M&Aの増加である。

従来型の買収に関する回復基調は、コロナ禍の影響で生じた一部ターゲット企業における割安感を好機と捉え、新市場への展開や既存事業の拡大を通じた競争力の強化を目指すM&Aの増加による影響が大きい。事業環境に大きな変化も生じたことから、ターゲットの過去実績・データに基づく将来的収益貢献の見通しが従前よりも困難となっているが、リモートも活用した詳細なデューデリジェンス、多岐にわたる事業計画シナリオ分析等の工夫をもって各社対処している。 資本参加型M&Aについては、コロナ禍の影響が生じ始める以前より、ターゲット企業のケイパビリティを取得する有効な手段として増加傾向にあった。買手(出資者)目線から見た資本参加型M&Aは他の企業と協力するという点では従来型の買収と類似している一方、ターゲット企業からすれば自社の経営支配権の有無という大きな違いがあり、受け入れ易い側面を有する。結果、資本参加型M&A の成立確度は従来型の買収よりも高くなっており、この傾向は今後更に加速する可能性が高いと予想される。(図2)

【図2】M&A形態別件数割合比較

図2

Source: レコフM&Aデータベース

「変革」と資本参加型M&Aの高い親和性

ポストコロナにおいても、事業・戦略の「変革」を目指して新たな領域への挑戦に臨む企業にとり、トランスフォーメーション型M&Aの果たす役割は大きい。中でも資本参加型M&Aを活用したトランスフォーメーション型戦略提携はこの「変革」との親和性が高い。新たなケイパビリティの獲得を目指す際、非連続的な成長が望めるトランスフォーメーション型M&Aは有効な手段となる訳だが、実行においてはターゲット企業のプロダクトやテクノロジーのみならず、それらを開発・運用・経営する人材も含めたケイパビリティの獲得が特に重要な成功要素となる。トランスフォーメーション型M&Aではターゲットも含めて未知の領域に挑戦することから、双方が成功への確信が持ち難いことは致し方ない。このような状況において、提携内容や出資比率等の柔軟な調整が可能という資本参加型M&Aの特性が活きる。

例えば買手による取得持分が不十分な資本参加の場合、ターゲット目線では相手のコミットメント不足から共有するケイパビリティが制限される(出し惜しみされる)可能性が高まる。買手としても本来目論んだ「変革」の実現が困難となり得る。一方、買手による過度な持分取得はターゲットにおける キーパーソンの離反などのリスクが生じる。資本参加型M&Aを活用したアライアンスであれば、提携内容や出資比率の調整を通じ、双方が納得するバランスでの合意が望める。そして何よりもその後のアライアンス状況・進捗に合わせて、継続/前進(追加出資・買収)/後退(解消・各社独立)と何れの選択も取り易い。

意欲的な事例は増えている

ここで幾つかコロナ禍において成立したトランスフォーメーション型戦略的提携事例を紹介したい。

まず一つ目がユニ・チャームによる子育てDXを推進するベビーテック企業であるファーストアセント社への出資案件である。本件を通じ、ユニ・チャームはデジタルを活用した本格的な新商品開発への足掛かりを得ており、ファーストアセントは獲得した資金を活用したサービスの拡充・事業拡大への道筋が開けた。

二つ目はKDDIによる料理宅配大手のmenu社への出資案件である。KDDIはかねてより金融を中心とした非通信事業の拡大を進めてきたが、本件を通じてコロナ禍において急速に需要が高まった料理宅配市場への参入を実現する。KDDIは自社の決済サービスの利用拡大と共に、消費行動の入口となるリアル接点の強化を目指すこととなる。一方、menuの親会社レアゾンHDは本件で得た資金を活用し、グループ会社及び新規事業への投資が可能となった。

最後の事例として日本郵政による楽天への出資案件を挙げたい。本件を通じて日本郵政は楽天が先進的に進めるDXノウハウを取り込み、競争力の強化を図る。加えて、日本郵政の至上命題である宅配事業強化に向け、日本有数のEC荷物の荷主である楽天との関係強化は望むところである。一方、楽天は物流網の強化に加え、携帯事業に要する多額の投資資金を得る。

何れの事例も買手による目的に合致したターゲットに対するコミットメントと配慮のバランスが取れた事例であり、今後の各アライアンスの行く末が注目される。

成功には初期段階が特に重要

最後に、買手目線でトランスフォーメーション型戦略提携に取り組む際の留意点を挙げたい。

自社にない対象会社の有する新たなケイパビリティの活用を目指すトランスフォーメーション型戦略提携では相応の「工夫」が求められる。特にターゲットにアプローチする以前の、以下の点に関する周到な準備が案件の成功並びに目指す「変革」の実現に向けて重要である。

1.成長戦略・ストーリーの策定

  • 何故、何を目的に実施するかを十二分に整理
  • 中長期的な時間軸で目指す姿・ゴールを策定し、そこから「逆算」し、具体的かつ明確なストーリーの策定

2.適切なスクリーニング

  • ゴール達成に貢献し得るケイパビリティ、成長戦略への親和性等、従来よりも多いスクリーニングクライテリアの設定
  • 描いたゴールの達成に資する適切なターゲットの発見・選定

3.慎重なアプローチ戦略の策定

  • アプローチ段階から提携後のPMIも見据えたアプローチ戦略・ストーリー・メッセージの深掘り

トランスフォーメーション型戦略提携は従来型M&Aよりも複雑性が増すが、柔軟な設計が可能であることから不透明な環境下における新たな挑戦との相性は良い。その特性を十分に理解した上で、各社が積極的に取り組み「変革」を実現することを期待する。

太田壮一

KPMG FAS 執行役員パートナー

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執筆者

株式会社KPMG FAS
パートナー 太田 壮一

2019年、KPMG FASに入社。大阪事務所にて関西以西のクライアントを中心に国内・海外案件のM&Aフィナンシャル・アドバイザリー(FA)業務を担当。KPMG入社以前は日系大手証券、外資系投資銀行にてFA業務及びエクイティ・デット引受業務に従事。前職は会計系アドバイザリー会社にてドイツに駐在し、EMEA 地域における日系クライアント向けFA業務に従事。