インド事業の撤退に関する要点解説
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、各社は全世界レベル・地域レベルで業務の見直しを進めており、今後の見通しも踏まえ、事業継続か縮小・撤退が検討されています。今回は、インド事業の撤退に関する要点解説を実施します。
COVID-19の影響で、各社は全世界レベル・地域レベルで業務の見直しを進めており、今後の見通しも踏まえ、事業継続か縮小・撤退を検討。今回は、インド事業の撤退に関する要点解説を実施
インド事業の継続、および、縮小・撤退に関する検討要素
COVID-19の影響で、各社は全世界レベル・地域レベルで業務の見直しを進めており、今後の見通しも踏まえ、事業継続か縮小・撤退が検討されている。それぞれの検討要素としては、以下が挙げられる。
事業継続の要素
- 影響が限定的
- 営業利益を確保
- 中・長期的には回復見込政策の後押し
- グループ全体として注目している市場
事業縮小・撤退の要素
- インド市場での業務拡大が見込めない
- 営業損失が継続する見込
- 業界の回復が見込めない
- グループ全体の利益の貢献が小さい
- グループ全体として注目していない
インド撤退に関するオプション
債務超過時の典型的なオプション
(1)インド破産・倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code,2016)に基づく破産
- 事業が商業的に存続不可能
- 事業運営のための資金が限定的
- 企業側から破産申し立てを行うことができ、破産管財人に引き継がれる
(2)インド会社法(Companies Act,2013)に基づく解散
- 会社法審判所(NCLT:National Company Law Tribunal)により清算人が任命され、NCLTによる監督のもと解散手続が開始される
支払能力がある場合のオプション
(3)インド破産・倒産法に基づく任意清算
- インド破産・倒産法に基づく任意清算により、支払能力のある企業は清算後のさまざまなリスクを最小化した上で撤退することが容易になる
(4)インド会社法に基づく会社登記抹消
- 2年以上にわたり事業活動、登録、訴訟などがない企業に適用可能
事業存続が可能な場合のオプション
(5)他のグループ企業との合併
- グループ内の他の事業体と合併
- 抱えているすべての債務および訴訟は当該合併の取得企業へ移転される
(6)事業の売却
- 売上の下落はありながらも事業の継続を前提とした事業売却
- 残った事業体を清算
各オプションの長所・短所
オプション
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長所 | 短所 |
(1)インド破産・倒産法に基づく破産 |
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(2)インド会社法(Companies Act, 2013)に基づく解散 |
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(3)インド破産・倒産法に基づく任意清算 |
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(4)インド会社法に基づく会社登記抹消 |
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(5)他のグループ企業との合併 |
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(6)事業の売却 |
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破産および解散は、負債が資産を超過している債務超過の状態にある企業で、親会社も当事業への資金注入サポートに消極的な場合のオプションである。そのような状況下では債権者が債権回収額を減額せざるを得ず、日系企業では、風評リスクを恐れ、破産および解散オプションは、あまり採用されない。
合併と事業の売却は事業が存続可能な場合に適用可能で、両オプションとも利害関係者の利益を守りながら撤退できるが、過去の問題が解決されるわけではない。
会社登記抹消、および、任意清算のオプションは支払能力がある会社にのみ適用可能であるが、任意清算は、過去の問題を一掃し、将来起こり得る申し立てに対する力強い抗弁を持つため、日系企業では検討される状況である。
以降、日系企業で検討されている任意清算について、詳細を述べる。
任意清算時の留意点
任意清算時の留意点としては、以下が挙げられる。
- 資産の処分:時期/売却価値の最大化と税務戦略
- 未払金の清算:仕入れ先や従業員への支払い
- 残存契約義務履行:既存契約のレビューと履行
- コンプライアンス関係:関連法規への準拠
- 労使関係の対応:労働組合との交渉など
- 事業所閉鎖:営業の中止と、閉鎖の実行
- 課税関係:所得税/GST等の申告、登録の整理など
- 規制当局の承認:NCLT申請/プロセス
- 剰余金の分配:余剰資金の株主への送金
任意清算のスケジュール
1.初期的評価プロセス
- 必要コンプライアンス・清算手続の理解
- コンプライアンスの障害となるリスク評価
- 後工程について、To doリスト化
2.初期的評価を踏まえた清算準備プロセス
- 撤退に向けた営業規模縮小
- 営業面、コンプライアンス面、財務面での整理
- 資産負債清算マネジメント
- クレームマネジメント
- 法的な報告手続
3.清算手続プロセス
- 清算申請
- プロセスマネジメント
- 清算命令の取得
全プロセスを通じて、法務、鑑定人、銀行家などの専門家、すべての利害関係者と調整が必要。
任意清算のケーススタディ
1.物流会社のインド撤退 - ケース1
背景
- ロジスティクス業界の日系企業のインド現法(完全子会社)。インド進出後、8年経過
- 日系顧客からの価格へのプレッシャーも含めた厳しい市場競争に直面
- インド地場のビジネスプラクティスが強く絡むため、価格競争への対応が難しく損失が発生。また、税務・事業上の係争が存在
- 売上状況が思わしくない中、運営コストも増え、本社も含め検討し、撤退の判断に
検討事項
- 事業運営・コンプライアンス準拠の現状検証、および撤退手順への影響の把握
- 事業上の観点、およびコンプライアンス・法規定の観点をふまえて複数ある撤退オプションの検証
- 資産の現金化・債務整理:資産の売却と債務返済の整理
- 従業員関係:雇用解消時の補償パッケージ、契約書面の整備も含めた人員削減の手順全体の確認
- 事業上の契約書類や係争:既存契約の解約、債務返済、係争案件の解決
- 税務・法規定のコンプライアンス対応状況の確認と非準拠事項への対応、申告手続き等の対応、および税務当局からNOC(同意書)取得
- 撤退手続き全般において、係争含む各種リスクを確認・軽減
- 各種ステークホルダー(銀行、弁護士、当局等)とのやり取り、および、余剰金の返還に関する本社とのやり取り
特筆すべき点
清算手続:全体を通した包括的なプロジェクト管理 – 清算人・高等裁判所とのやり取りや書類整備に加え、登記局や税務・各種法規定の関連当局といった種々の当局とのやり取り。
- 会社清算:2年間にわたる準備・手続きを通じて高等裁判所の正式な承認を受領
- 会社清算後:インドの税務当局側の都合で、清算後も5~6年の間にわたり、税務当局から通知が届いたため、高等裁判所とのやり取りも含めて随時対応の上、「適切な手続きを踏み、税務も含めた債務完済の上で会社を清算済であること」を証明し、追徴を回避
2.設備管理サービス会社のインド撤退 - ケース2
背景
- 工場設備管理サービスを行う日系企業のインド現法(完全子会社)
- 特定のプロジェクトを完了後、当該インド法人の清算を決定
検討事項
- 事業運営・コンプライアンス準拠の現状検証、および撤退手順への影響の把握
- 事業上の契約における義務・債務事項、および過去の親子間の輸入取引に対する税務影響の観点をふまえて複数ある撤退オプションの検証
- 資産の現金化・債務整理:資産の売却と債務返済の整理
- 税務・法規定のコンプライアンス対応状況の確認と非準拠事項への対応、申告手続き等の対応、および税務当局からNOC(同意書)取得。あわせて、親子間での事業上の取引があったため、本社側にとってのインド税務リスクも検証
- 撤退手続き全般において、係争含む各種リスクを確認・軽減
- 各種ステークホルダー(銀行、弁護士、当局等)とのやり取り、および、余剰金の返還に関する本社とのやり取り
特筆すべき点
清算手続き:全体を通した包括的なプロジェクト管理 – 清算人・NCLTとのやり取りや書類整備に加え、登記局や各種当局とのやり取り
会社清算:NCLTの正式な承認を受領。
KPMGによる支援
コロナ禍で生じた追加業務の中でも、特に専門性の高い業務はプロフェッショナルファームへ依頼することにより、自社のみで対応する場合と比較して、業務効率化を図り、本業にリソースを集中させることが可能になると考えます。
弊社では、以下のステップで撤退支援を実施しています。
初期:現状分析の上、取り得る撤退オプションを検討
影響試算:各撤退オプションの影響、メリット・デメリットを確認
実行プラン:選択した撤退オプションの実行プランを策定
実行:実行プランと進捗をモニタリングしながら、遅滞なき実行を推進
主な提供サービス
項目 | 内容 |
撤退オプションの検討
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任意清算の準備支援
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任意清算の実行支援
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その他関連領域
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※上記に限らず、個別のご要望等に応じ、ご提案させて頂きますので、随時お問い合わせください。情報交換等も、随時実施させていただきます。
執筆者
KPMGインド
Deal Advisory
Director 空谷 泰典