欧州委員会が企業のサステナビリティ報告に関する指令(案)を公表
2021年4月21日、欧州委員会は、企業のサステナビリティ報告に関する指令の提案(Corporate Sustainability-information Reporting Directives、「CSRD(案)」) を公表しました。
欧州委員会が、企業のサステナビリティ報告に関する指令の提案を公表しました。
2021年4月21日、欧州委員会は、現行の法制(Accounting Directive、 Audit Directive、 Audit Regulation、 Transparency Directive)を改定するパッケージの内、非財務情報の報告に関する改定案(Corporate Sustainability Reporting Directive、以下「CSRD(案)」) を公表しました。今回の改定案は非財務情報の報告に焦点をあてています。EUでは、従来、Accounting Directiveを加除修正する非財務情報開示指令(NFRD:Non-Financial Reporting Directive 2014/95/EU)によって非財務情報の報告を規制していました。今回のCSRD(案)は、非財務情報に関する報告の有用性、比較可能性、信頼性等の向上を図ることを目的としています。
1.CSRD(案)の概要
(1)対象企業
CSRD(案)の適用対象企業は、大規模企業※1 及びEUの規制市場に上場をしている企業です。
大規模企業とは、以下の3つの基準値のうち、2つ以上の基準値を超えている企業を指します。
- 従業員250名(事業年度平均)
- 売上高4,000万ユーロ
- 総資産2,000万ユーロ
また、親会社が日本などEUにとって第三国に所在する場合、その親会社がCSRD(案)もしくはCSRD(案)と同等のサステナビリティ報告基準に基づいてサステナビリティ情報を報告し、第三者保証を受けている場合には、EU現地法人はCSRD(案)に基づくサステナビリティ情報の報告が免除されます。その場合には、親会社の名称と登記上の事務所および免除措置を適用した旨を開示することになります。
※1非上場であっても大規模企業は適用対象となります。
(2)報告事項
CSRD(案)では、NFRDのダブル・マテリアリティ(企業が環境や社会に与えるインパクト及びサステナビリティ事項が企業に与える影響)の考え方は維持され、これを考慮にいれてサステナビリティ情報に関する報告をすることが要求されます。
また、CSRD(案)ではNFRDで求められている報告事項に加えて、追加で報告が求められる事項がありますが、そのうち、主なものを以下の表にて列挙しています。
NFRD | CSRD(案)で追加に報告を要求される事項 | |
---|---|---|
報告事項 | ・ 環境保護 |
・ダブル・マテリアリティ(企業に影響を及ぼすサステナビリティ関連リスク(気候変動関連を含む)および社会及び環境に対する企業のインパクト)を考慮にいれた報告 |
(3)CSRD(案)の適用時期
欧州委員会は、CSRD(案)に基づいたサステナビリティ情報の報告は、2023年1月に開始する年度から適用としています。上記(2)の報告事項について開示すべきサステナビリティ事項や報告領域を具体化させた、サステナビリティ情報の報告基準の第1弾(各業種に共通)を2022年10月31日までに採択、また2024年1月に開始する年度から適用される補足的な情報および業種固有の報告すべき情報を規定するサステナビリティ情報の報告基準の第2弾を2023年10月31日までに採択することを予定しています。
(4)報告形式
CSRD(案)では、サステナビリティ情報の開示は、年次報告書のマネジメントレポート内に開示すると明記されています。またサステナビリティ情報を含むマネジメントレポートは、財務情報とともに一つの電子フォーマット(XHTML)により提出することが要求されます。
(5)サステナビリティ情報に関する第三者保証
CSRD(案)では欧州委員会により採用されたサステナビリティ情報報告に関する保証基準に加え、各国の保証基準や要求等に基づく第三者保証を要請しています。当面は限定的な保証業務が予定されていますが、限定的保証業務の範囲には、EUタクソノミーや報告事項を特定するためのプロセスも含まれます。なお、限定的保証業務の実務への適用が進んだ後に、合理的保証業務の必要性が指摘されており、将来の導入に向けた議論が今後、具体的に進んでいくと考えられます。
2.日本企業への影響
現行のNFRDの適用対象は主に社会的に影響度の高い大規模企業であることから、現時点でNFRDの規制対象となる日本企業のEU現地法人は多くありませんでした。しかし、CSRD(案)において適用対象が拡大※2 されています。欧州委員会のプレスリリースによれば、EU全体の適用企業数は、NFRDの規制下においては約11、000社であるのに対し、CSRD(案)が適用されると約50、000社に増加するとされています。従って、日本企業のEU現地法人の中にもCSRD(案)の適用対象となり得る企業が少なからず含まれるものと想定されます。
仮にEU現地法人がCSRD(案)の適用対象となり得る場合には、以下のような検討事項があると考えられます。
- CSRD(案)への対応にむけた責任者と担当部署はどこか。また、責任者および担当部署は、対応可能な知見を有しているのか。本社との連携体制はどうするか。
- EU現地法人において、報告が求められている要素について、現状でどの程度まで報告が可能か。また、それらの要素は、企業全体のビジネス上、どのように(時間軸、インパクト度合い、ステークホルダーの観点等)関連しているのか。
- 報告が不可能な場合、どの程度の時間軸で対応が可能とみられるか。その場合のコストはどの程度か。
- 求められている報告内容の信頼性を担保できる体制が構築されているか。構築されていない場合、対応のためにどの程度の時間とコストがかかるか。
- 定められたタイミングまでにCSRD(案)に基づく報告が不可能とマネジメントが判断した場合、取りうる対応策はあるのか。個々の対応策について、企業価値、競争優位性、ビジネスモデル等の経営上の意思決定をどのように行うのか。
- 日本本社との報告との一貫性や整合性をどのように実現するのか。
※2 主にNFRDでは適用対象外であった非上場の大規模企業を指します。
3.おわりに
今回公表されたCSRD(案)は、サステナビリティ情報の充分性、信頼性、比較可能性やアクセスの容易性を向上し、報告書の利用に対してより有用な情報提供をすることを目的としています。また、サステナビリティ事項が企業に及ぼす影響と、企業の環境や社会へのインパクトについて、企業にアカウンタビリティをもたせて報告させることは、ビジネスと社会の関係性を強め、2019年12月に定めたEuropean Green Dealの達成を可能とする一つの手段として位置づけられています。
現在、非財務情報報告の有用性を高め、グローバルなレベルで非財務報告の基準を統一化させる動きが加速している中で、国際統合報告評議会とサステナビリティ会計基準審議会が2021年6月に合併を予定しており、IFRS財団も今年の秋に向けて、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を検討しています。また米国SECもESG情報の開示の強化を協議しています。このようなグローバルの動きと歩調を合わせながら、CSRD(案)で求める欧州のサステナビリティ情報報告基準も策定されることが想定されます。
日本企業においては、環境や社会的な事項を考慮にいれ、グローバルなレベルでビジネスの競争力を維持・発展させるためには、今後ともガバナンス体制や適切な内部統制の構築をし、より有用なサステナビリティ情報を報告することが可能となる取組を継続することが望まれます。
執筆者
KPMGジャパン
コーポレートガバナンス センター・オブ・エクセレンス(CoE)