Non-GAAP指標の開示上の留意点とトレンド分析

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年3月10日特大号(No.1605)にNon-GAAP指標の開示に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

旬刊経理情報(中央経済社発行)2021年3月10日特大号(No.1605)にNon-GAAP指標の開示に関するあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

ポイント

  • 経営成績に関するNon-GAAP指標を開示する企業が増加している一方で、開示規制も強化されつつあり、その関心は高まっている。
  • Non-GAAP指標開示の有用性および課題を適切に理解し、当該指標を開示する際には「透明性」、「比較可能性」の2つのポイントを押さえておくことが重要である。
  • IFRS基準を適用している日本企業の先行事例や最近の基準動向を通じて、Non-GAAP指標の名称・計算方法・開示をどのようにすべきかを検討していくことが望まれる。

同じ「コア営業利益」でも各社各様

Non-GAAP指標の開示上の留意点とトレンド分析

はじめに

 近年、米欧など主要先進国の上場企業を中心に、Non-GAAP指標の開示の動きが一層拡がっている。わが国においても指定国際会計基準の任意適用企業の拡大とともにNon-GAAP指標を開示する企業が増加してきている。

 Non-GAAP指標の開示に関しては、国際財務報告基準(以下、「IFRS基準」という)の発行主体である国際会計基準審議会(以下、「IASB審議会」という)から2019年12月に公開草案「全般的な表示及び開示」(以下、「公開草案」という)が公表され、「経営者業績指標」( Management Performance Measure:以下、「MPM」という)と呼ばれる新たな概念が導入されることが提案されている。また、わが国でも金融庁から2019年3月に有価証券報告書における開示の拡充に向けた取組みの一環として「記述情報の開示に関する原則」が公表され、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標などの開示を求めている。

 このようにNon-GAAP指標の開示を後押しするような動きがあるなかで、今後もNon-GAAP指標を開示する企業の増加が想定される。本稿では、企業が業績説明のためにNon-GAAP指標を外部に開示するに際して考慮すべきポイントを示すとともに、我が国におけるNon-GAAP指標の開示状況の分析を行う。

 なお、本文中意見にわたる部分は私見であることをあらかじめ申し添える。

Non-GAAP指標とは

 Non-GAAP指標についての明確な定義はないが、世界各国・地域の証券監督に関する原則・指針などの国際的なルールを策定している証券監督者国際機構(IOSCO)の「Statement on Non-GAAP Financial Measures」では「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」(Generally Accepted Accounting Principles:GAAP)で特定、定義または決定されたもの以外の財務指標とされている。

 Non-GAAP 指標には、財政状態、経営成績、キャッシュ・フロー、その他非財務情報を対象とするものがあるが、財務諸表利用者からの注目度が特に高いのは、経営成績のうち純損益計算書を対象とする指標である。また、IFRS基準で新たな概念として導入される見込みであるMPMの定義が、純損益計算書における小計や合計に、収益または費用を加減することにより計算される指標とされている。そのため、本稿では純損益計算書に示される経営成績に関するNon-GAAP 指標を分析対象とする。

 経営成績に関するNon-GAAP指標の具体例としては、企業価値を評価するうえで一般的によく用いられるEBIT(Earnings Before Interests and Taxes)やEBITDA (Earnings Before Interests, Taxes, Depreciation, and Amortization)といった指標のほか、経営者の観点から段階利益に対して特定項目の調整(加減算)が行われた指標である「事業利益」や「コア営業利益」、「調整後営業利益」などの指標が挙げられる。

わが国における会計基準とNon-GAAP指標の開示

 わが国において企業が採用する会計基準は、日本基準とIFRS基準で全体の99%超を占めている。日本基準とIFRS基準の連結財務諸表において開示が求められている業績指標と、Non-GAAP指標の開示に係る取扱いについて整理すると図表1のようになる。

図表1

 日本基準の場合、連結財務諸表等規則において連結財務諸表の書式や内容に係る細かな基準があるため、Non-GAAP指標を連結財務諸表内において開示することは原則としてできず、多くの場合、有価証券報告書の「事業の状況」や決算説明資料、アニュアルレポートなどの連結財務諸表外において開示されることになる。そのため、これらのNon-GAAP指標は会計監査人による監査の対象外となっている点にも留意が必要である。

 一方、IFRS基準の場合、IAS1号「財務諸表の表示」(以下、「IAS1号」という)において当期利益の開示は求められるものの、「営業利益」などの段階利益の開示を求めていない。企業が段階利益を開示することを選択する場合においても、段階利益の定義はIFRS基準において定められておらず、企業ごとに定義される。このように連結財務諸表内における開示方法は企業の裁量がある程度認められており、Non -GAAP指標を連結財務諸表内で開示することも可能である。ただし、連結財務諸表内で開示するNon-GAAP指標の算定方法に関しては、当該指標がIFRS基準に従って認識および測定がされている金額からなる科目で構成されることや、いかなる損益項目も異常項目として連結財務諸表内に表示することは禁止されているため、異常項目を控除した段階損益を開示できないなど、一定の制約が設けられている。そのため、連結財務諸表内で開示するための要件を満たさないNon-GAAP指標を開示する場合には、日本基準と同様に連結財務諸表外で開示することが必要となってくる。

Non-GAAP指標開示の有用性および課題

 Non-GAAP指標は、通常、経営者が自ら企業の実態を最も忠実に表すと考える業績指標として選択される。そのため、情報利用者にとっては、当該指標は経営者が企業の業績をどのようにモニタリングしているか、事業がどのように管理されているか、企業の業績の持続性または持続可能性はあるかなどの理解に資するものであり、有用である。

 一方で、Non-GAAP指標には次のような課題がある。

(1)透明性に係る課題

 Non-GAAP指標は、経営者にとって都合のよい調整がなされる可能性があり、調整項目の内容や調整を行う理由に関する情報開示が乏しい場合、情報利用者に誤解を与えてしまう可能性がある。会計基準による制約がないなかで、経営者にとって都合のよい数字を作ることは、粉飾や利益操作と比べて容易であるうえ、心理的な抵抗感も弱いと考えられる。このため、Non-GAAP指標の開示にあたっては、経営者にそうした調整を行うインセンティブが生じかねないという懸念がある。

(2)比較可能性に係る課題

 Non-GAAP指標は企業ごとに定義されるため、同じ名称の指標でも計算方法が異なる場合や、同一業種・業界の企業間で採用する指標が異なるなど、実務に一貫性がない。このため、情報利用者は、Non-GAAP指標を適切に理解し、企業間で指標を比較することが困難となる場合がある。さらに、毎期継続して同一の計算方法で同一の指標を開示することが、会計基準によって担保されていないため、過去の指標との比較可能性という面でも課題を有している。

Non-GAAP指標開示のポイント

 Non-GAAP指標は企業実態を理解するうえで有用性は認められているものの、指標の計算プロセスの透明性および指標の比較可能性に対する課題から、開示情報の有用性が低下するおそれがある。Non-GAAP指標を開示するうえでは、これらの有用性を低下させる要因を排除する観点から、次がポイントになる。

(1)透明性の確保

 指標の透明性を確保するうえでは、Non-GAAP指標を適切に定義し、計算方法を明示することが必要である。具体的には純損益計算書のどの指標をベースとし、それに対してどのような調整をしているのかを明らかにすることが、求められる。特に、通例でない損益を除外した業績指標を開示する場合には、通例でないものとして特定する項目の選定方法や理由、選定された内容を十分開示することが、透明性の確保につながると考えられる。

また、どのような意図や目的をもってNon-GAAP指標を選定し開示しているのかについても、明示することが必要である。たとえば、当該指標が企業の業績管理方針(中期経営計画やMD&Aなど)と整合する指標であること、業界特有の状況を加味し競合他社と適切に比較するための指標であることなどを説明することが、透明性の確保につながると考えられる。

(2)比較可能性の確保

 指標の比較可能性を確保するためには、同一業種・業界においてどのようなNon-GAAP指標が採用されているか、どのような方法で計算されているのかを確認することが必要である。この点、後述の開示事例分析が参考になると考えられる。
また、一度開示したNon-GAAP指標については、合理的な理由がない限り継続するとともに、変更する場合はその理由を明示することが必要になると考えられる。

 近年、Non-GAAP指標の開示拡大に伴い、各国・地域における証券監督当局が、規制の見直しやガイドラインの策定などを通じて、企業によるNon-GAAP 指標の開示への対応を強化している。その共通する内容としては、利用者に誤解を与えることのない適切な名称を付すこと、Non-GAAP指標を会計基準に準拠して計算された指標より目立たせて表示することの禁止などが挙げられる。このように、開示にあたっては、規制当局の動向に留意することもポイントとなる。

最近のNon-GAAP指標の開示状況分析

 前述のとおり、日本基準では連結財務諸表等規則により段階利益が開示されるため、Non-GAAP指標が開示されている例はまだ多くない。一方、IFRS基準では、純損益計算書上、最終利益である当期利益のみが最低限の開示要求事項であるが、IFRS基準を適用している約9割の日本企業は、連結財務諸表において段階利益である「営業利益」を開示している。ただし、特定の損益項目を異常項目として表示することは禁止されているため、「営業利益」のなかに一時的要因が含まれてしまい、その結果「営業利益」が大きく変動する可能性がある。そのため、持続的な業績を測る利益指標として、企業独自の業績指標を財務諸表外で開示する事例が増えつつある。また、直近においては、新型コロナウイルス感染症に関連する影響をNon-GAAP指標に加味しているのかも気になる点である。

 そこで、IFRS基準を適用している日本企業におけるNon-GAAP指標の先行事例を通じて、IASB審議会による公開草案の内容も踏まえつつ最近の開示動向をみていくこととする。

Non-GAAP指標の名称

 IFRS基準適用企業が、「営業利益」以外に企業独自の業績指標として、どのようなNon-GAAP指標を開示しているのだろうか。日本取引所グループが集計している、わが国の2020年12月31日現在のIFRS基準適用企業217社を分析対象として、同日までに公表されている各企業の決算短信におけるNon-GAAP指標の開示状況をみてみると、85社(39%)が企業独自のNon-GAAP指標を開示していた。しかし、採用しているNon-GAAP指標の名称は各社各様である。Non-GAAP指標の名称内訳を図表2に示しているが、使用頻度が高い名称としては、「事業利益」や「コア営業利益」が多く、主要な事業活動の経常的な業績を示す端的な名称として好まれているものと考えられる。

図表2

 また、図表3に示した東証業種別分類で区分した業種別の企業数をみてみると、サービス業、医薬品、食料品、化学で企業独自のNon-GAAP指標を開示している社数が多い。たとえば、サービス業と医薬品とでは図表4に示すとおり、採用している指標名称の傾向が異なっており、医薬品は「コア営業利益」を多くの企業で採用していることがわかる。このように業種によっては同じ指標名称を使用する傾向があることも踏まえ、競合他社の動向を参考にすることは、比較可能性の観点や投資家のニーズから有用と考えられる。

図表3
図表4

 さらに、同じ指標名称であっても、その計算方法は各社で異なっているため、比較可能性のみならず透明性にも留意して計算方法を明確に開示することが重要であると考えられる。たとえば、前述した「コア営業利益」をNon-GAAP指標としている医薬品の企業では、その計算方法のパターンは図表5に示すように4通りあることが確認された。

図表5

 このように、Non-GAAP指標の名称や計算方法にばらつきがあることを踏まえ、公開草案でも指標の具体的な計算方法やGAAP指標との調整表、その指標が企業の業績に関する有用な情報をどのように伝えるのかについての開示要求が提案されている。

持分法による投資損益の扱い

 分析対象企業のうち、企業独自のNon-GAAP指標があり、持分法による投資損益を財務諸表本表で開示している企業(65社)を分析した。日本基準では、持分法による投資損益は営業外損益に含まれるため、企業独自のNon-GAAP指標を日本基準の営業利益(「売上総利益-販売費及び一般管理費」)と同等の計算方法によって設定しているような企業は、Non-GAAP指標に持分法による投資損益を含めていないものと見受けられる。一方で、23社は企業独自のNon-GAAP指標に持分法による投資損益を含めていた(図表6)。これは、主要な事業活動と関係性が高い投資先がある場合に、当該投資先の損益を業績管理指標に織り込むことで、「事業活動の真の成果」を投資家へ示すことを意図している表れでもあると考えられる。

図表6

 なお、公開草案では、関連会社および共同支配企業(以下、「関連会社等」という)から生じる損益を主要な事業活動と不可分のものと不可分でないものに区分するように提案されている。そのため、今後は関連会社等が企業の主要な事業活動と不可分のものなのか、不可分でないものなのかを判断するプロセスを設けなければならなくなり、Non-GAAP指標の計算方法にも影響を及ぼす可能性も想定されることから、今後の動向に注視する必要がある。

通例でない損益の扱い

 分析対象企業のうち、Non-GAAP指標の計算プロセスで非経常的ないし一過性の項目を「通例でない損益」として調整している企業について、さらなる分析を実施した。まず、通例でない損益として調整している項目の例示は図表7のとおりである。

(図表7)医薬品の企業における「コア営業利益」の計算方法

内容
固定資産(のれん含む)の減損損失
固定資産売却損益
リストラ関連費用
買収・事業再編関連損益
係争案件損失
災害損失
株式報酬費用

(出所)2020年12月31日までに公表されている各企業の決算短信をもとに筆者作成

 調整項目の内容をみると、日本基準で特別損益項目として開示されているものが多い結果となった。なかには新型コロナウイルス感染症に関連する影響として、政府からの助成金や一時休業に伴う固定費などを調整項目としている企業も9社確認された。しかし、何をもって通例でない損益に該当するのか、あるいは、通例でない損益にどのような項目を含めるのか判断が難しいケースも想定される。

 この点、公開草案では、通例でない損益を「予測価値が限定的である収益及び費用」として定義し、将来の複数事業年度について発生することが合理的に予想されないかなどの観点で評価することを求めている。そのため、公開草案で提案されているように、過去の実績だけではなく将来の複数事業年度における発生可能性も考慮に入れたうえで、通例でない損益に何を入れるのか恣意性や偏りがないように分類することが、透明性や比較可能性を確保するうえで重要となる。

 分析対象企業のなかには、「恒常的な事業の業績を測る観点から、一時的要因を一定のルールに基づき判断する」など、具体的な調整項目とともに社内に一定のルールを設けている旨の開示をしている企業もあった。公開草案を踏まえると、今後、このように年度によって異なる判断とならないように、調整項目の取捨選択基準を工夫して設定することが必要になると考えられる。

おわりに

 近年、財務情報と非財務情報を連携させた開示へのニーズも高まっており、IFRS基準の適用企業のみならず日本基準適用企業でも、さまざまなNon-GAAP指標を開示する場面が一層増えている。企業にとっては厳密なルールがないなかで開示するため作成上の困難も想定されるが、企業がどのような意図をもって定義した指標なのかを、これまで述べてきた透明性や比較可能性などの観点を踏まえて利用者に適切に伝えることで、開示の意義がより一層高まることを期待する。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
ディレクター 熊倉 彰宏

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
シニアマネジャー 大杉 卓史

有限責任 あずさ監査法人
アカウンティングアドバイザリーサービス
マネジャー 金井 健一

本記事は、「旬刊経理情報2021年3月10日特大号」(通巻No.1605)に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

熊倉 彰宏

アドバイザリー統轄事業部 ディレクター

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