データドリブン・標準化が重要に!会計システム「2025年の崖」にどう対処すべきか
企業会計(中央経済社発行)2021年4月号の【特集】「DXで「会計」はどう変わるか」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
企業会計(中央経済社発行)2021年4月号の【特集】「DXで「会計」はどう変わるか」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。
Summary
日本企業の会計システムは、グループ各社における経理業務遂行に必要な機能を重視して構築されているため、グループ全体でのデータ活用が進まない。会計システム版「2025年の崖」が存在すると言える。DXによる経理業務の効率化と高度化を阻害する当課題の解決に向けた企業の取組みは多様であるが、グループ経営およびデータドリブンの視点が重要である。
この記事は、「企業会計2021年4月号」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
はじめに
2018年9月に経済産業省が公表した「DXレポート」にて、「2025年の崖」と題して、日本企業の共通課題が指摘された。
「2025年の崖」の要旨は、2025年には、(1) 保守運用の担い手が不在となりシステムトラブル等のリスクが高まる、(2) レガシーシステムをはじめとする技術的負債が足かせとなりシステム維持費がIT予算の9割以上になる、(3) DX(将来の成長・競争力強化のために、データやデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変すること)の実現ができなくなる、等の事象が顕在化することで、近い将来、多くの日本企業のITシステムが立ち行かなくなることを意味している。
本稿では、「2025年の崖」の指摘を踏まえて、日本企業の会計システムに関する典型的な課題とその背景、また、それらの課題の解決に向けた方向性について考察する。一般的な会計システムとして、図表1にあるとおり、販売・購買・生産などの業務システムから財務データを連携して資金取引や経理業務を実行するための「債権管理、債務管理、固定資産管理、原価計算、単体会計(GL)、連結会計、管理会計・意思決定支援、資金管理」等のシステムの総称を指す(広義の会計システム)こともあるが、本稿ではそのうち経理部門のコア業務である「単体会計(GL)、連結会計、管理会計・意思決定支援」のためのシステム(狭義の会計システム)を中心に説明する。
なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをお断りしておく。
I.現状・課題とその背景
1. 「2025年の崖」と会計システム
(1)会計システムの特徴
会計システムの「2025年の崖」を論じる前に、他のシステムとの比較で会計システムがどのような特徴があるのかを考える。
会計システムは、販売・購買等のサプライチェーンを支えるシステムから連携される取引情報を基にして、請求・支払といった資金取引業務や会計仕訳計上(狭義の経理業務)、決算業務を実行する基幹システムであるのと同時に、そのようにして生成された会計情報を蓄積し、経営管理や経営意思決定に利用することが想定される、いわゆる情報系システムでもあると言える。
また、グループ企業の場合、会計システムは、グループ各社の経理・決算業務を行う単体システムとして必要であるのに加え、親会社(グループ本社)としてグループ各社の会計情報を集約し、連結決算業務を行うとともに、連結ベースでの経営管理や経営意思決定に利用されるものである点も特徴的である。
(2)会計システムの「2025年の崖」
日本企業は、欧米のグローバル企業に比べて、グループ経営における親会社(グループ本社)のグリップが弱いと言われており、会計システムの領域にもその影響が表れている。典型的には、グループ各社で利用する会計システムがバラバラであること、かつ、個社最適の視点で仕訳計上や単体決算といった業務機能を重視したシステムとなっていることが挙げられる。これは、各社がそれぞれの業務を遂行するための基幹システムとしての要素を重視し、親会社(グループ本社)として、グループ全体の会計データを蓄積して経営管理や経営意思決定に役立てようとする情報系システムとしての要素を軽視していることを意味する。
会計システムのグループ各社への点在はグループ全体のシステム維持・運用のためのコスト・工数を増加させ、業務の標準化やテクノロジーを活用した業務効率化、グループ経営に必要なデータの活用を難しくするという大きな課題を生じさせている。つまり、会計システムにも「2025年の崖」があるのである。
2. 日本企業の現状とその原因
上述した日本企業の会計システムの「2025年の崖」につき、実際に生じている影響と原因を、さらに考察していきたい。
(1)グループ各社にシステムが点在
前述の通り、日本企業ではグループ経営が弱いことに起因して、会計システムがグループ各社に点在しているケースが多いと考えられるが、この点を少し掘り下げて考えてみたい。
日本企業では、グループ各社に一定の自治を認める考え方が強く、それゆえグループ各社の業務は各社の責任で完結させる意識が強い。他社を買収してグループ会社とする場合も、PMI(Post Merger Integration)において、被買収先企業の業務・システムの変更を求めないケースが多く、そもそも買収企業側がグループ共通の会計システムを有していないため、会計システムの統合がPMIのテーマにならないケースが多い。
また、親会社側もミドルマネジメント主導の機能別組織で、各機能に適したシステムを構築してしまう傾向が強い。
つまり、日本企業では、会社単位・機能単位でシステムを作る癖がついてしまっており、サイロ化されたシステムが点在するという結果につながっているのではないだろうか。
(2)データが標準化されていない
日本企業では、グループ内で、勘定コード、品目コード、仕入先・得意先等のマスタが統一されておらず、同じ意味を持つデータであっても、システムごとにバラバラに定義・管理されているケースが非常に多い。異なるマスタ間の関係性を定義した「変換マスタ」を設けてデータを統合し、分析などに活用しているケースも見受けられるが、対応関係が一意に決まらなかったり、マスタ更新のたびに見直しが必要になったりで、通常は大きな困難さを伴う。データが標準化されていない点は、日本企業が、グループ全体で保持するデータを十分に利用することができない最大の原因と考えられる。
この点は連結決算業務に典型的に表れている。多くの日本企業は、グループ内で勘定科目が統一されておらず、連結決算に当たっては、各社の決算データの勘定科目を連結決算用の勘定科目に変換して報告させている。グループ内で勘定科目は共通言語となっておらず、連結数値を詳細に分析しようとしても、グループ各社の勘定科目の残高内訳には到達しないという状況になっている。
会社ごと機能ごとのニーズに合わせてシステムを開発してきたことが原因であることは間違いないが、これに加えて、システムの作り方として「機能ドリブン」となっていて、「データドリブン」の視点が薄いことも大きな原因と考えられる。ここで「機能ドリブン」とは、経費精算、単体決算といった業務処理の視点で、それを実現するシステム機能を重視してシステムを開発するアプローチを指し、「データドリブン」とは、データの視点でシステムを開発するアプローチを指す。「機能ドリブン」が過剰であるため、本来業務機能横断で利用するマスタデータについても、業務機能ごとに開発してしまうという弊害が生じている。単体決算と連結決算はいずれも決算データを扱うが、別の組織で実行される別の業務機能であるため、別のシステムとしてしまい、決算データの基礎をなす勘定科目すら統一されないのである。また、先に述べた通り、会計システムは基幹システムであると同時に経営管理や経営意思決定などに利用する情報系システムでもあるので、本来的には、各社・各機能の業務処理で生成されたデータが、後続の管理・分析などの業務でどのように活用されるのかを考慮して開発されるべきものであるが、「データドリブン」が希薄なため、その実現は難しい。
(3)ERPの本来の使い方ができていない
ERPシステムは多くの日本企業で利用されているが、ERPが2つの意味で本来の利用方法になっていない点も日本企業の特徴である。
1点目は、ERPの標準機能をそのまま使わず、多くのアドオン開発をする点である。システム導入に当たっては、現場の機能単位での効率的な業務遂行の実現が重視され、ERPの標準機能は既存業務プロセスに変更を迫るために効率性を阻害するものとして現場に受け入れられず、標準機能以外の機能をアドオンで大量に開発してしまう。近年ではSaaS(Software as a Service)型のシステムを採用することによりアドオンを抑止する動きもあるが、基幹システムについては道半ばの状態である。
2点目としては、グループ内の各組織の自治意識やサイロ化が災いし、ERP導入対象の会社・機能が限定されてしまう点である。たとえば、ERPのうち会計モジュールを親会社のみに導入するようなケースである。ERPは本来、エンタープライズワイド、すなわち企業グループ全体で経営資源を最適配分するためのシステムであり、また各業務プロセスにおけるベストプラクティスを適用するための標準機能を搭載したシステムである。企業グループ全体の業務プロセス・データを統合的に扱うことによって、基幹システムで重視される効率的・効果的な業務遂行と、情報系システムで重視される適時・的確な意思決定を1つのシステムで両立させることを目的としている。日本企業のシステムは、会社・機能単位、機能ドリブンで開発されるケースが多く、ERPを導入する場合でも、アドオン開発が多く、かつ部分的な導入となるため、ERP導入の効果を十分に享受できていないケースが多い。会計システムだけがERPとなっていても、ERP本来の効果の発揮は難しい。
3. あるべき経理財務機能実現のために課題克服が急務
日本企業の会計システムで起きている「グループ各社にシステムが散在」、「データが標準化できていない」、「ERPの本来の使い方ができていない」という状況が、会計システムの「維持・運用に多大なリソースが割かれる(会計システムを高度化するためにリソースが割かれない)」、「データ活用ができない」という「2025年の崖」で指摘されている問題につながる。
競争の激化、人口減少、働き方に対する考え方の変化など、企業経営を取り巻く環境を踏まえると、日本企業の経理財務機能は今後、財務数値作成のための定型業務は、標準化、集約化、自動化によって、“効率化”させて、貴重な人材の投入を減らし、経営に付加価値をもたらす将来予測分析などの”高度化”された業務へ投入するリソースの割合を増やしていくことが必要である。
経理財務機能の効率化と高度化を推進するために、レガシー化した会計システムの問題(上記の3点)の解消が必要である(図表2)。
II.日本企業の取組みパターン
ここまで、「DXレポート」が示した「2025年の崖」は日本企業の会計システムについても該当することを確認した。続く本章では、日本企業がこれらの課題に対してどのように対応しているのか、事例を基に企業の取組みについて取り上げる。
日本企業では、90年代以降にERPの導入が盛んに行われたが、上述したように、業務プロセスは標準化されず、また、生成されるデータの標準化や共有も進まなかった。
多くの企業ではその反省を踏まえ、経営層のリーダーシップのもとDXを推進し、上記の問題の解消を図ろうとしているが、日本企業による解決方法にはいくつかのパターンがある。以降でその特徴に触れていく(図表3)。
1. グローバルERP
(1)目的・対象範囲
DXによる全体最適を強力に推進することを目的として、グループ内の世界全拠点を対象に、統合されたシングルインスタンスのERPを導入する方法である。経理業務のみならず、販売・購買などのサプライチェーンに係る基幹業務も対象とするとともに、情報系と呼ばれる分析やレポーティング領域も含む。
(2)主な特徴
グローバルERPの導入は通常、グループ全体で、業務プロセス、システム機能、ITインフラ、そしてデータまでを標準化する、全社レベルのDXと位置付けられて推進される。個社レベルの要件への柔軟な対応は望めないが、全社レベルの標準化のメリットは大きく、購買や支払、経理、情報システム管理などの業務については、定型オペレーションの集約・SSC(Shared Service Center)化による効率化や専門性・知見を結集したCoE(Center of Excellence)による高度専門サービスの提供などが期待でき、グループ全体として業務の効率化と高度化の追求が可能となる。
また、グループ全体で一つのERPを利用するということは、事業部門による日々の活動・取引に係るデータやそれらに基づき生成される会計データなど、すべての企業活動がリアルタイムに、標準化されたデータとして記録され、一元的に蓄積されて全社的に共有されるシステム基盤を有するということである。従来は、膨大な明細データを利用するには基幹システムから高速処理が得意なDWH(Data Warehouse)へとデータ転送する必要があったが、昨今の技術革新により、ERP内のデータベースで明細データの高速な分析処理などが可能であり、事業部門、経理部門などの管理部門、経営者までがリアルタイムにデータを活用することができる。さらには、クラウドとERPを融合させることで、急速に増加するデータ量・処理量にシステムリソースを対応させることはもちろん、日々進化する技術・サービスを、APIを介して利用することもでき、環境変化へのレジリエンスを高めることも可能である。経営視点でDXを推進し、グローバルERPを導入することは、前述した会計システムの「2025年の崖」の3つの問題をクリアする上でも理想的と言える。
(3)アプローチ
通常のアプローチは経営者の考えを標準業務モデルとして落とし込み、末端業務まで行き渡らせるものであり、余程の事情がない限りは個別のカスタマイズは認められない。そのため、既存の業務・システムを前提とした「リプレイス」ではなく、抜本的な業務改革を伴う「リビルド」として、経営陣が主導する大掛かりな取組みとなるケースが多い。
(4)コスト・期間
グローバルERPは、グループ内の全拠点の業務プロセスを担う基幹システムであり、また、グループ経営戦略の立案と実行を支える情報系システム、またはデータ活用基盤でもある。
全社での利用を想定した標準業務モデルの策定と適用を始め、取組みの難易度は極めて高く、要件定義、構築、展開に多大な作業が必要となり、時間・コストも相応に掛かることとなる。適用する業務や展開するグループ会社の範囲にもよるが、3~5年を要することもめずらしくない。
2. 2層型ERP
(1)目的・対象範囲
グローバルガバナンスと各拠点・現場レベルの迅速なサポートの両立を目的として、親会社および主要拠点に導入するフルスコープのERP(1層目)と、当該ERPと親和性が高く、短期間かつ低コストで導入可能な基本機能を備えたERP(2層目)とを連携させ、組み合わせて導入する方法である。対象業務領域は「グローバルERP」と同様である。
(2)主な特徴
ERP(1層目)は、親会社や主要拠点で広範かつ複雑な業務プロセスに対応できるように必要なカスタマイズが施されることから、効率的なオペレーションが期待できる。
ERP(2層目)は、中小規模の拠点またはM&A等による新規進出拠点での利用を想定しており、原則としてパッケージ標準機能をそのまま利用する形で運用させることが多い。そのため、現場レベルの業務ニーズへの柔軟な対応は難しいが、標準化されたオペレーションを迅速に立ち上げられるメリットがある。
ERP(1層目)とERP(2層目)の間で高頻度のデータ連携を行うことにより、システムに起因するタイムラグを許容可能な水準に抑えていくことが可能である。両階層間で標準化されたデータを活用することで、たとえば地域統括会社(主要拠点、1層目を利用)と傘下の各国子会社(2層目を利用)の間で経営情報を共有できるなど、業務高度化への寄与が期待できる。
(3)アプローチ
親会社および主要拠点が利用している既存ERPは、自社業務ノウハウ・データが蓄積された資産であるという考えに基づき、次世代システムへと「コンバージョン」(一部領域は「リビルド」を伴う場合がある)して1層目と位置付けるとともに、迅速かつ低コストで最新機能を利用できるSaaS型ERPを2層目に採用するアプローチが主流である。
各拠点へのERP(2層目)導入は、親会社や主要拠点が主導してグローバルテンプレートを開発し、業務影響や展開順序などを判断しつつ、無用な追加・修正がなされることのないように注意を払いながら実施される。
(4)コスト・期間
既存システム資産の有効活用とSaaS型ERPの組合せで、「システムに業務を合わせる」方針を堅持することにより、「グローバルERP」と比較すればリーズナブルなコストかつ短期間で構築することも可能である。ただし、グローバルに展開した全社で導入するシステムであることに変わりはなく、導入プロジェクトは広範かつ大規模となることから、難易度は決して低くはない。また、ERP(1層目)に係る保守・運用コストやERP(2層目)に係る利用料などのランニングコストには留意が必要となる。
3. 会計システム+α
(1)目的・対象範囲
各拠点の会計システムは維持しつつ、親会社(グループ本社)によるグループ経営管理およびガバナンスの強化を目的として、各拠点から親会社へのデータ連携を充実させるとともに、本社経理にてグループ業績管理機能が充実した経営管理システムを導入したり、データ分析機能を含む最新の会計システムもしくはデータ分析基盤を導入したりする方法である。
(2)主な特徴
各拠点からの目的にかなうデータ収集が可能であることを前提として、親会社(グループ本社)によるグループ経営高度化にフォーカスした実現性の高い取組みである。各拠点単位の業務プロセスのために最適化されたシステムには手を加えず、各拠点からグループ横串で管理すべきデータを収集し、親会社(グループ本社)側でこれらを管理・分析するための業務・システム改善を行うのである。グループ業績管理を強化するために親会社(グループ本社)で経営管理システムを導入し、各拠点から予算・予測情報などを収集し、また会計システムから実績情報を連携して業績管理に利用するケースや、子会社の会計数値のモニタリングを行うために会計仕訳や取引明細データを収集して分析を行うようなケースが考えられる。
前述の2つの類型のような抜本的・全体的なDXの取組みではなく、各拠点の会計システムを始め、多くの既存システムがレガシーとして残り、業務の標準化も期待できない。一方で、前述の2つの類型よりも安価かつ短期間でグループ経営管理を強化できる。また、近年目覚ましい進化を遂げている統合データ管理ツールやデータ分析技術を採用し、経理部門などの利用部門のデジタル・リテラシー向上策にも取り組むことで、付加価値の高い業務へシフトさせていくことも考えられる。
(3)アプローチ
親会社(グループ本社)では、自社グループの経営管理に必要なデータとして、勘定科目、事業セグメント、組織、サービス分類、商品等の項目・コードをグローバルで統一した形で定義する。また、データ収集については、各拠点でそれらのデータを提出することを前提として、ローカルシステムに項目を追加するなどの改修を実施させるとともに、各拠点から親会社(グループ本社)へのデータ転送時にコード変換を掛ける仕組みを構築するのが一般的である。
(4)コスト・期間
各拠点システムは現状維持か小さな改修にとどまるが、親会社(グループ本社)におけるデータ連携システムおよび経営管理システムやデータ分析機能の導入コストがかかる。システム自体の構築の難易度は前の2類型よりも低いが、必要となるデータの品質が良くない場合は、その対応に係る工数増加・長期化などの影響も否定できない。
また、各拠点に残るレガシーシステムに係る保守・運用コストの問題は解消されない。
III. 今後の会計システムに求められること
今、多くの企業で、在宅勤務対応のための経理業務のデジタル化やその先を見据えた会計システムの見直しが進められているが、それらの内容は多様である。取組みの内容にかかわらず、これからの会計システムを考えるにあたって、重要と思われる点を挙げて、本稿の締めくくりとしたい。
1. データの活用を念頭に置く
機能ドリブンによるシステム開発が、DXを阻害する様々な障害の要因になっていることは述べた。今後のシステムは、各業務機能により生成・利用されるデータが、その業務以外の様々な用途で利用されることを前提として、すなわちデータドリブンで構築されることが重要である。このことは会計システムに限らず、むしろ上流工程にある営業領域のシステムやサプライチェーン領域の基幹システムでより重要となる。
2. そのためにデータを標準化する
データが全社的に利用されるためには、データが標準化されていることが重要となる。業務プロセスが各拠点によって異なるため、システム機能をカスタマイズする場合でも、生成されるデータは標準化されているべきである。
会計システムでは、勘定科目コードの統一の必要性などは論をまたない。
3. 上記の点はグループ全体を対象とする
日本企業の多くは成長市場を求めてグローバル展開を加速させており、グローバルなグループ経営の必要性は高まる一方である。M&Aにより海外会社や自社にとって新しい事業をグループ内に取り込んで成長へとつなげるケースもますます増加するであろう。買収した子会社の経営を買収時点からガラス張りにしておくことは非常に重要である。
会計データは経営管理に不可欠であり、標準化された会計データが全社的に利用できること、買収した子会社からもすぐに収集できることが必要である。会計システムに係るデータ標準化の取組みは、常にグループ全体を対象として行われることが重要である。
4. システム基盤を分ける必要性を検討する
会計システムには経理業務の遂行を支援する基幹システムの側面と生成・蓄積した会計データを利用して経営管理や意思決定を支援する情報系システムとしての側面があることは前述した。別の表現をすると「記録するためのシステム」(SoR:System of Record)と「洞察を得るためのシステム」(SoI:System of Insight)の両側面である。日本企業の会計システムは前者が重視されてきたが、データ活用の有用性が認識され、企業の競争力を左右する要素ともなりうる今後は、後者の側面がより重要となる。
SoRには正確性・安定性や効率性が、SoIにはデータ処理・分析の能力・柔軟性やスピード、人間の思考を助け促進するような力が求められる。
昨今の技術革新は目覚ましいものがあり、その多くはクラウド上で利用できる。それらの活用は重要であるが、最先端の技術はSoIで有用な場合が多い。
経理業務を遂行するSoRとしての会計システムの基盤と、会計データやその他のデータを収集して分析などに利用するSoIとしての会計システムの基盤は分けて構築することも検討が必要であろう。