CFOサーベイ COVID-19特別版(テクノロジー・メディア・テレコム業界)

KPMGジャパンは、これまでに経験したことのない試練に直面した企業の戦略の変化などを把握するため、2020年10月に日本の上場企業のCFOを対象に「CFOサーベイ COVID-19 特別版」を実施しました。本稿では、テクノロジー・メディア・テレコム業界の特徴と背景について考察します。

KPMGジャパンは、2020年10月に「CFOサーベイ COVID-19 特別版」を実施し、本稿では、テクノロジー・メディア・テレコム業界に絞って、特徴と背景について考察します。

1. CFOサーベイ概要

KPMGジャパンは、これまでに経験したことのない試練に直面した企業の戦略の変化などを把握するため、2020年10月に日本の上場企業のCFOを対象に「CFOサーベイ COVID-19 特別版」(以下、本 サーベイ)を実施しました。
本稿では、テクノロジー・メディア・テレコム業界に絞って、本サーベイ結果に見られた特徴と背景について考察します。

2. テクノロジー業界

COVID-19によりかつてない危機に見舞われ、これまでにない変化を求められました。その影響の大きさは、「コロナ禍を受け対応の必要性が高まった項目」として、テクノロジー業界のCFOの94%が「変化や危機に対する柔軟な対応」を挙げたこと、その比率が全業界のなかでも最も高かったことが示しています。

COVID-19による影響の特徴は、自然災害と異なり、生産設備の損害は被らなかったものの、国境を越えた人の移動が制約され鎖国状態となり、経済活動に負の影響を及ぼしていることです。
COVID-19による制約が長期化するなか、テクノロジー企業は2つの課題に直面しています。

第1の課題は、地政学的な観点も含めたグローバルサプライチェーンの最適化です。本 サーベイでも「中国 への 集中 を改め、他のアジアへシフトを検討」する動きが 見られました(図 表 1参照)。中国 はCOVID-19の流行源である一方、調達や生産の依存度が高く、生産・サプライチェーンの寸断による影響を受けたためです。

ただ、この動きが即「脱中国」となるわけでもないとも考えます。あくまで中国への過度な依存をリスクととらえ、過度な部分を複数購買、複数拠点生産などBCP的な観点から中国以外に 振り向け、「適正な依存」に最適化する取組みと見るのが適切です。

国を跨いだ最適な生産拠点網・サプライチェーン構築のためには、調達・生産・物流効率のみならず、各種規制や税制(特に移転価格税制)などの検討も行う必要があります。生産・サプライチェーンの再構築までは行わない場合でも、感染症や地政学的リスクの顕在化などの自然災害以外の事由で人やモノの移動が制約を受けた場合の影響分析とBCPプランの検討は必要です。

第2の課題は、海外マネジメントの遠隔管理・リモート化と、現地化をいかに進めていくかというものです。

従来、日系企業の多くは、日本からリージョン本部や各現地法人に日本人メンバーを赴任させ、マネジメントを行ってきました。

COVID-19により人の流れが制約を受ける状況下でも、機動的に現地ビジネスを進め、本社が必要なコントロールやガバナンスを発揮するには、日本からの間接統治を可能とするビジネス基盤と意思決定を支援する各種プラットフォームの整備が必要となります。その必要性は、本サーベイにおいて経理財務業務のなかで実行中・検討中の施策として「グループ統一のシステム導入」を挙げたテクノロジー企業のCFOが42%と、他業界の約 2倍に達したことからもうかがえます(図表1参照)。

図表1

このテーマは過去数十年にわたって言い古されてきたテーマでもありますが、海外拠点、特に買収会社などへの徹底は優先劣後して取り残されてきました。決算早期化の障壁要因として認識はされながらも、手処理で何とか対応してきたというのが現実だったのです。しかし、人による手処理に頼りにくくなったCOVID-19の影響により、今後はシステムのグローバル共通化などの経営管理基盤のデジタル化、DX化が一層進展すると思われます。テクノロジー企業における「DX化の進展」には2つの意味があります。1つはテクノロジー企業自らがDX化を進めること、もう1つは、他業界に対してDX化を進めるためのツール・ソリューションを提供するイネーブラーとなることです。

従来、テクノロジー企業のライバルは同業のテクノロジー企業であり、幅広い分野にR&D投資を行い、自前で揃えた総合的な製品・ソリューションのラインナップで競争を行ってきました。

ところがデジタル化の進展により、R&Dや製品上市への障壁が下がった結果、テクノロジーはテクノロジー企業の専売特許ではなくなり、GAFAのような非テクノロジー企業がテクノロジーをもって特定の市場を席捲するようになりました。テクノロジー企業のライバルは、もはやテクノロジー企業だけではないのです。

このような競争環境のもと、他業種とのオープンイノベーションを促進し、イネーブラーとしての立ち位置を築くことは、テクノロジー企業として勝ち抜くための戦略の1つとなるでしょう。

3. メディア業界

コロナ禍にあって、ネットを用いたコンテンツビジネスは好調な一方、映画やライブなどのリアルビジネスは不調という二極化傾向にあります。そのようなメディア業界にあって、本サーベイでは以下の3つの特徴が見られました(図表2参照)。

  1. 新規事業開発やM&Aへの取組み意向が高い
  2. ノンコア事業売却の動きが見られる
  3. リーダーではなく実務スタッフが不足

新規事業開発やM&Aへの旺盛な取組み意向は、リアルビジネスを抱える伝統的メディアを中心に生き残りをかけた構造変革への必要性を、メディア企業自身が認識していることの表れでもあります。あわせてノンコア事業売却への意向も顕著に見られますが、これは構造変革の原資確保の動きであるとも推測されます。

人材不足については、「リーダーではなく実務スタッフが不足」との回答が他業界の3倍に達しているのも特徴的です。これは、従前からの人手による創作・制作活動・スキル等に課題があることを示唆しています。構造変革の主なテーマとなるであろうリアルビジネスのDX化、特に疑似体験化(VRなど)等を担うデジタル人材の確保が急務といえるでしょう。

図表2

4. テレコム業界

COVID-19による短期的な影響として、通信事業においては携帯端末の売上が減少し、先行きの不透明感にみまわれました。

Withコロナ・Afterコロナの世界において、リモート化やオンライン化のさらなる進展が予測されることはプラス要因です。

一方で政府からの圧力等を背景とした価格競争の激化による携帯通信事業のトップライン減少は避けらないとも予測されることから、今後は5G等の巨額投資が必要なインフラを競合他社と共用にするなどの投資効率の向上やコスト削減による利益率向上への取組みが求められます。

非通信事業では、ペイメント事業を中心としたグループ企業による経済圏拡大や新事業モデルへの変換を図る必要があります。

そのようなテレコム業界にあって、本サーベイでは以下の3つの特徴が見られました(図表3参照)。

図表3
  1. 業務の可視化への取組み意向が高い
  2. 事業再編、新規事業拡大に向けた人材が不足
  3. 人事考課の見直し機運が高い

新しい取組みの推進や事業モデルの実現のためには、まず新旧複数事業を効率的に管理可能な業務のデジタル化が必要です。またデジタル化に際しては、現状業務の可視化も不可欠です。そのうえで新しい事業を支える人材確保への取組みが求められます。従来ビジネスで求められるコアコンピタンスのみを基にした人事評価や処遇を見直し、市場価値の高い人材を獲得可能な競争力のあるものとしていく必要があります。

執筆者

KPMGジャパン
テクノロジー・メディア・通信セクター
パートナー 山根 慶太
シニアマネジャー 木暮 公彦
ディレクター 和田 智(CFOサーベイ担当)