自動運転車対応指数2020 - 自動運転車に対する30の国と地域の準備状況分析

KPMGインターナショナルは、2020年自動運転車対応指数の調査結果を発表しました。3回目となる今回は、新たに5つの国と地域を対象に加え、「モバイル通信速度」や「ブロードバンド」などの新しい指標を追加し、国別の自動運転車に対する準備状況や革新的な取組みを進める5つの都市についてハイライトしています。

KPMGインターナショナルは、2020年自動運転車対応指数の調査結果を発表しました。

自動運転車対応指数(AVRI)の結果によると、自動運転車(AV)の普及に対する準備が整っている国または地域のランキングは次の通りです。

国または地域 順位 2020年スコア
2020年 2019年
シンガポール 1 2 25.45
オランダ 2 1 25.22
ノルウェー 3 3 24.25
米国 4 4 23.99
フィンランド 5 6 23.58
スウェーデン 6 5 23.17
韓国 7 13 22.71
アラブ首長国連邦 8 9 22.23
英国 9 7 21.36
デンマーク 10 n/a 21.21
日本 11 10 20.88
カナダ 12 12 20.68
台湾 13 n/a 19.97
ドイツ 14 8 19.88
オーストラリア 15 15 19.70
イスラエル 16 14 19.40
ニュージーランド 17 11 19.19
オーストリア 18 16 19.16
フランス 19 17 18.59
中国 20 20 16.42
ベルギー 21 n/a 16.23
スペイン 22 18 16.15
チェコ共和国 23 19 13.99
イタリア 24 n/a 12.70
ハンガリー 25 21 11.66
ロシア 26 22 11.45
チリ 27 n/a 11.28
メキシコ 28 23 7.42
インド 29 24 6.95
ブラジル 30 25 5.49

2020年のAVRIでは、シンガポールがオランダと替わり総合1位となりました。シンガポールは2019年初頭からAVのテスト、開発、普及を推進するため、道路網の10分の1をテスト走行のために開放するなど、重要な施策を多数実施してきました。また、同国は公共交通およびEVの利用促進、さらに調査研究業務の経済発展への結び付けなど、さまざまな目標にAVを取り込んでいます。
しかし、過去2版のレポート同様、多くの国別スコアは僅差であり、多くの国と地域にさらなる飛躍の可能性が示されています。2019年版で調査対象となっていた25ヵ国のうち、17ヵ国が今回スコアを伸ばしました。

概要:AV革命の実現

今回発行した2020年版AVRIを見ると、昨年1年間、各国がAV革命を実現する上で必要となる重要な政策決定および投資決定に取り組んできたことがわかります。主要な成功要因には、安全性、プライバシー、デジタルインフラストラクチャー、輸送システムへの影響、国境を越えた移動が挙げられます。

安全性
AVの普及によりヒューマンエラーによる交通事故の死者が大幅に減少します。2020年2月、ストックホルムでの路上安全に関する閣僚級会議において、参加者たちは「先進の車両安全性技術があらゆる自動車用安全装置の中で最も有効である」ことを認め、2030年までに販売されるすべての車両に安全性技術を搭載するよう各国に求めました。2019年3月、スウェーデンの自動車メーカーVolvoの最高経営責任者であるHakan Samuelsson氏は、不完全なAVを急いで市場に投入することに対して批判をしました。スウェーデンの安全志向アプローチは他のほとんどの行政機関によって追随されることが確実視されていますが、一方、AVの安全基準を高く設定しすぎるとAVの導入が遅れ、その結果としてヒューマンエラーによってさらに多くの人々が死傷するという結果を招くリスクもあります。

プライバシー
道路利用者のプライバシーをどこまで保護するかについて、現状では国によって大きく異なるため、AVやその他のコネクテッドカーが取得し送信するデータは、国によって大幅にばらつきがあります。データ保護に対する規則が厳格な国々の場合、車両は送信するデータを匿名化、最小化する必要があります。一方それ以外の国や地域では、AVは常に位置を行政機関に通知するように求められます。今後大多数の国で、道路を最も効率的に利用できるように、何らかの形でコネクテッドカーからのデータ収集が進んでいくとKPMGは予測しています。

デジタルインフラストラクチャー
車両対インフラ(V2I)システムでは、集中交通管理システムを使用して、車両がすべてのユーザーの便益のためにどのように動作すれば良いかを調整することにより、地域の高速道路の利用を最適化します。郊外などの道路容量に余裕があるエリアでは、AVは自分自身のシステムにもっと依存すれば良く、都市内部や都市間の主要高速道路などの道路容量に制限があるエリアでは、行政がデジタルインフラに投資し、AVがそのシステムと連動するよう求めることがより重要になります。

輸送システムへの影響
米国ではテクノロジー企業による無人の自家用車やタクシーサービスの開発が盛んになっていますが、チリ、デンマーク、フィンランド、シンガポール、スペインを含む多くの国と地域では、公共交通システムの利便性と普及を向上させる目的でAVバスなどが使用されています。AVバスが実用化されるとバスドライバーの必要性が低下し、労働コストが削減されると、遠隔地域でのサービス価格を抑えられる上、大都市での公共交通の質も向上します。さらに、COVID-19のパンデミックによりAVの普及拡大が予想されます。COVID-19はユーザーに公共車両の利用意欲を低下させましたが、定期的に除菌・清掃された公営AVミニバスは、民間のライドヘイリングサービスの車両よりも優れた選択肢になる可能性があります。

国境を越えた移動
それぞれの国と地域では、AV用のデジタルインフラをどの程度配備しているかに違いがあるものの、AVが他国でも(最低限同じ大陸内で)動作できるようにする国際標準が必要です。欧州連合内では2022年以降、先進運転支援システム(ADAS)を搭載するすべての車両で、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱防止支援など、一部の基本的な自動化機能を搭載することが義務付けられます。これは保険にも当てはまり、英国のAVとEVに関する法案(Automated and Electric Vehicles Act)など、一部の国ではすでに法律によりAVに関連する責任を明確化しています。ただしこのような車両の場合、無人で国境を越えて移動できることから、法律的アプローチにおいて複数の国の間である程度の一貫性を持つことが有効になります。

エグゼクティブサマリー

今回のAVRIは、28項目の指標について30の国と地域を評価し、「政策と法律」「テクノロジーとイノベーション」「インフラストラクチャー」「消費者の受容性」の4つの領域にまとめています。上位5ヵ国の概要は次の通りです。

  1. シンガポール
    シンガポールは、同国西部のすべての公道で実験走行を行えるようAVテストの範囲を拡大し、その距離は約1,000km(620マイル)に及び、国全体の10分の1に相当します。また、2022年から3つの地域でAVバスを走行させることを計画しています。さらに、2040年までに内燃機関車両をすべて廃止することを目標としており、EV充電ステーションの数を2030年までに1,600基から28,000基まで増やし、EV購入のインセンティブも実施されます。KPMGシンガポールのSatya Ramamurthyは、「シンガポールは、EVの予算問題への対応という点で時代を先取りしている」と述べています。

  2. オランダ
    オランダは、「政策と法律」領域の成績は高レベルで、「AV規制」で最高スコアを獲得し、「政府が出資するAV実証実験」でも高い評価を得ています。一連の実証実験が広範で行われているため、人口の81%がAVテストサイトのすぐ近くに住んでいます。また、「インフラストラクチャー」で首位を維持しています。「EV充電ステーションの密度」でもトップとなっており、「道路の質」ではシンガポールに次いで2位となっています。個々のAVインフラに関しては、新たに国内の60ヵ所において、ステータスを無線でAVに送信する交通信号など、スマート道路装置の利用を拡大しました。

  3. ノルウェー
    ノルウェーでは、内燃車両や燃料に対する課税水準が高く、またEVに対する補助金もあることから、2019年に導入された乗用車の56%がバッテリー式またはプラグインハイブリッド車という結果になりました。また、ノルウェーは2019年にAVの利用を拡大したことから、現在オスロ市では複数のバス路線がAV走行になっており、無人車両の速度制限も16km/hから20km/hにまで緩和されています。

  4. 米国
    米国は、「テクノロジーとイノベーション」領域で2位となっており、この調査で追跡した企業の44%に当たる420のAV企業が米国に本社を置いています。Appleなど米国のテクノロジー企業や、General MotorsやFordなどの自動車メーカーが、AV開発を牽引しています。GMのCruise部門はライドシェア専用AVのOriginを発表しています。また、AV導入に対する行政府の取組みは州や都市レベルに集中しています。デトロイトやピッツバーグに見られるように州や都市による取組みはより迅速で、地域の環境に合わせられますが、標準化の度合いは低くなる可能性があります。

  5. フィンランド
    フィンランドは政府に対する評価が高く、「AV規制」および「異議申立てにおける法制度の効率性」において最高の評価を得ています。また道路網全体がAV試験に開放されています。地域の行政機関や政府は、環境への影響や自家用車の使用を減少させるための手段としてAVを推進しています。ヘルシンキおよび隣接するエスポーは、公共AVバスサービスを展開しており、エスポーでは全天候型車両が使用されています。フィンランドは5Gなどのテクノロジーを積極的に活用し、また多くの優れた人材を確保しています。有能なエンジニアの多くが、多国籍通信テクノロジー企業Nokiaでの知識や経験を活かして活動しています。さらに、デジタルスキルやライドヘイリングサービスの活用に関するAVRI指標で同国が世界トップになっていることから、テクノロジーへの親和性があることもわかります。

注目の都市

中国:北京
中国は、2020年までにインテリジェントコネクテッドカーの独立した研究開発システムおよび生産能力を確立するという、国家レベルの目標を掲げており、北京は中国の都市の中で主導的な地位にあります。北京は2017年12月に公道におけるAVのテストを認可し、2019年12月には乗客が乗ったAVテストの許可も開始しています。2019年は、13の中国企業が北京の路上で77台のAVを走らせ、総距離は104万kmとなりました。これは、2018年に8社が走らせた総距離153,600kmから増加しました。また、2022年冬季オリンピック・パラリンピックでは、AVも大きな役割を果たすことになっており、100平方kmのテスト区域の開発に5,000万ドルの投資が行われています。

米国:デトロイト
デトロイトは同市の経済復興を果たすために、AVを利用してきました。AVベンチャーのArgo AIやMay Mobility、自動車メーカーのFord、Googleの姉妹企業Waymoなど、複数の企業が現在同市でAVをテストしています。また、さまざまなAV関連ベンチャー企業が、大手の米国自動車会社と提携することを目的に、世界中からデトロイトに進出してきています。デトロイトはモーターシティとしての遺産を活用して、AV製造におけるグローバルリーダーになっています。Waymoは車の廃工場を再生し、世界初のAV専用製造工場を開設しました。またFordとGMも、AVやEVを製造・開発するための拠点をデトロイトに設けるために大規模な投資を行うと発表しています。

フィンランド:ヘルシンキ
ヘルシンキは、スマートシティムーブメントにおける世界的なリーダーであり、2035年までに同市がカーボンニュートラルになることを目標に、MaaSやAV、EVの統合を通じて、交通分野のトレンドセッターになるべく、包括的なアプローチをとっています。市が所有するイノベーション企業Forum Virium Helsinkiは、交通革命プロジェクトやオープンデータ、スマートモビリティに取り組み、企業や大学、その他の公共セクター組織、住民と協力しています。ヘルシンキはForum Viriumの取組みの一環としてヨーロッパの他の6都市と共同で開発プログラムを推進し、既存の都市公共交通システムと自宅や職場を結ぶためのAVミニバス使用に向けて、体系的な概念実証を実施することを目指しています。なお、フィンランドの規制下では、さまざまな輸送形式における多様なAV走行テストを実施できるようになっており、テスト許可の取得や行政機関とのやりとりも容易になっています。

米国:ピッツバーグ
現在、米国のライドヘイリング企業Uber、米国のAVベンチャー企業Argo AIやAurora、アイルランドのAVテクノロジー専門企業Aptivなどがピッツバーグに拠点を置いており、カーネギーメロン大学のAI研究およびロボット工学研究がその基盤になっています。2019年3月、ピッツバーグは同市でのAVテストに対する目標と予想を設定する行政命令を出し、市のモビリティとインフラ部門内にAV部門を設置しています。また、2019年のAVに対する意識調査において、回答者はAVとの共存について「特に気にとめない」や「特記することはない」などと回答しており、半分以上の回答者が路上でこのような車両と遭遇したことがあると述べました。このことは、AVとの共存がごく普通のことで、都市生活の一部として受け入れられていることを示しています。

韓国:ソウル
2019年6月、ソウル市は西部にあるSangam Digital Media Centerに、世界初の5GコンバージェンスAVテストベッドが完成したと発表しました。これに伴い、西部地区では通常の路上においてAVが5GモバイルネットワーキングおよびV2X(車とモノの通信)テクノロジーを使用できるようになります。このAVテストベッドに対する計画は5GとV2X間のコンバージェンスを推進することで、V2V(車車間)、V2I(路車間)、V2P(車歩行者間)の通信もこれに含まれます。またソウル市は、2020年5月にスマートモビリティプロジェクトの一環として、サンアムの実際の路上において、AVバス3台、車両4台、配送ロボット3台の使用を開始しました。これらの車両は非接触カーシェアリングや自動駐車、通常の車両が入れない場所への配送などのために使用される予定となっています。
 

ユビキタスへの道

AVRI第3版で紹介している最も興味深い発展のほとんどは、地域レベルで発生したものであり、都市や自治体、州などがこれを主導しています。タクシーやバスを含む公共交通機関については、多くの場合国ではなく地域行政府の責任が伴うため、AVのユビキタス(偏在する)を実現するには、国だけでなく、地域レベルでのサポートも必要となります。

国の政府および地域行政府向けの主なインサイト

  • 公共のAVバンおよびバスは、自家用AVと同じくらい重要かもしれません
    ノルウェーのオスロや、スペインのランサーローテなど多くの地域がAVマイクロバスの利用を優先しています。このテクノロジーは成熟しつつあり、地域の行政府がより迅速にこのようなテクノロジーの実運用に移行できるようになっています。

  • AVを利用することで、地域の輸送を変革させることができます
    COVID-19のパンデミックの結果、都市や自治体の行政府は、AV(バス等)の利用拡大等、住民に対し移動手段の変更を推奨するようになりました。また、貨物輸送や、工業地域、港湾地域、鉱業地域などの閉鎖的環境におけるAVの利用が拡大するきっかけにもなっています。

  • AVのセーフティケースはますます強まっています
    2019年6月にウィーンで発生したAVミニバスの事故からは、AVの安全性に関して有益なインサイトが提供されています。どのような輸送手段でもリスクを完全に排除することはできませんが、AVを利用することによって、世界中の行政府は道路を著しく安全な場所に変えることができます。

  • 地域行政府と国の両方が、AVを普及させるよう注力および支援する必要があります
    シンガポールやオランダのようにAVRIの上位にある国の多くは国家主導型ですが、デトロイトやピッツバーグなどは都市主導型で成果を上げています。しかし理想は、中央と地方の行政府が協力してAVに取り組むことであり、国の政府がそれを可能にする政策を用意し、都市側が有効で革新的な新サービスを提供することによって公共の受容性を向上させることです。
     

英語コンテンツ(原文)

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