国・地域ごとに注意すべき法務のグローバル管理体制の構築
法務のグローバル管理体制を築くうえで注意すべき点や日本との相違点について、贈賄事案を例に解説します。
法務のグローバル管理体制を築くうえで注意すべき点や日本との相違点について、贈賄事案を例に解説します。
「新常態時代の企業法務」第19回。法務のグローバル管理体制を築くには、国や地域ごとの実情を踏まえたうえで検討することが重要です。贈賄事案を例に挙げ、日本とは異なる注意点について解説します。
本連載は、日経産業新聞(2020年9月~10月)に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
スイスのビジネススクール「IMD」による2020年版世界競争力ランキングで、日本は全63の国・地域中過去最低の34位となった。個別領域ではビジネスの効率性は55位にまで落ち込んだ。背景にはデジタル化の遅れに加え国際経験の不足が挙げられており、法務対応でも日本とは異なるグローバル管理体制を築く必要がある。
日本企業が安価な労働力確保を求めて進出する新興国では、一般に給与の上昇率が高い。たとえば上海では法定最低賃金が1993年の導入時からほぼ毎年引き上げられ、27年間で約12倍になった。海外子会社の拠点長は、拠点単位での利益の責任を持つことが一般的で、子会社での法務・コンプライアンス(法令順守)体制を整える際の重要な要素となる。
3~4年で帰任する駐在員が海外拠点の日常的な運用にまで関わることは難しく、勤務歴が長い現地スタッフが担うことが多い。そうしたキーパーソンは頼りになる半面、業務がブラックボックス化しやすく、コンプライアンス上の懸念がある事案も散見される。親会社のガバナンス(企業統治)上の法的責任が厳しく問われるようになっており、属人的な取組みからの脱却が急務となっている。
日本で法律対応で最も頼りになるのは弁護士である。ところが、国・地域によっては、歴史的経緯や資格制度などの違いから、必ずしも専門性や社会的地位が高くなく、日本と同じ水準を期待しにくいこともある。たとえば、インドネシアでは、裁判官への贈賄事案で日系企業の日本人社長が逮捕・訴追され実刑を受けたことがあるが、その贈賄の仲介役を担ったのは弁護士だった。このように、弁護士との契約や品質管理でも、日本とは異なる注意を払わねばならない。
世界の汚職を監視する非政府組織(NGO)トランスペアレンシー・インターナショナルの2017年の調査では、アジア太平洋地域で公共サービスを受ける4人に1人以上が賄賂を支払い、中でもインドではその割合は10人中約7人に上っている。さらに賄賂の支払先の公共サービスを種類別に見ると、なかでも警察と立法機関で最も汚職が進んでいる。
インドネシアでも、先ほど述べた日本人社長が逮捕・訴追された裁判官への贈賄事案のほか、最高裁判所の長官が収賄で逮捕されるなど司法の不信につながる事件が発生している。国・地域によって公的機関に対する信用度・付き合い方の前提が大きく異なる可能性に留意する必要がある。
国際的な法務・コンプライアンスの取組みを進めるにあたり、多くの当局担当者、専門家が主張する言葉がある。それは「1つですべてをまかなうことはできない」である。法務の管理体制を築くには各国の実情を踏まえた丁寧な検討が求められる。
IMD世界競争力ランキングでのアジア主要国・地域の順位 |
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1位 シンガポール 5位 香港 11位 台湾 20位 中国 23位 韓国 27位 マレーシア 29位 タイ 34位 日本 |
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 酒井 太郎
日経産業新聞 2020年10月13日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日本経済新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。