【第14回~TCFDを旅する~】EUの新サステナブルファイナンス戦略構想 その1
ECが公表した“CONSULTATION ON THE RENEWED SUSTAINABLE FINANCE STRATEGY”(新サステナブルファイナンス戦略に関するコンサルテーション)をご紹介します。
ECが公表した“CONSULTATION ON THE RENEWED SUSTAINABLE FINANCE STRATEGY”をご紹介します。
今回は、EC(欧州委員会)が公表した“CONSULTATION ON THE RENEWED SUSTAINABLE FINANCE STRATEGY”(新サステナブルファイナンス戦略に関するコンサルテーション)をご紹介します。
1. はじめに
当該CD(CONSULTATION DOCUMENT、2020年4月8日公表、同年7月15日まで意見募集)は、2018年3月に公表されたアクションプラン(以下、現アクションプラン)をリニューアルするに際して、主に専門家を対象にしたアンケートとなっています。その内容は、COVID-19の影響やTCFDによる気候変動リスクなどを含む今後のサステナビリティに関して、市場関係者をはじめとしたステークホルダーが検討するべき論点、課題を含んだものとなっています。
今回は、下記2.(第1のフォーカスエリア)に関する6つの調査項目のうちはじめの3項目を概説します。
現アクションプランの概要については、当連載の「第5回 TCFDと欧州サステナブルファイナンス」、「第6回 TCFDと欧州サステナブルファイナンス」をご参照ください。
また、昨年12月に公表されたEUグリーンディールの一環であり、今回のCDなどを経て2020年秋に新サステナブルファイナンス戦略が確定するスケジュールとなっています。
2. 新サステナブルファイナンス戦略の3つのフォーカスエリア
以下の3つをフォーカスエリアにすると宣言しています。
第1のフォーカスエリア
サステナブルファイナンスを可能とするツールやストラクチャーを利用したサステナブル投資の基盤強化
第2のフォーカスエリア
強化された基盤によってビジネス機会を創出し、個人、金融機関、企業のサステナビリティにポジティブインパクトを及ぼすこと(グリーンへのファイナンス finance green)
第3のフォーカスエリア
気候及び環境リスクは十分に管理され、金融機関及び金融システム全体に統合される必要があること(ファイナンスのグリーン化 greening finance)
3. 第1のフォーカスエリアに関する主な調査項目の概要
(1)情報開示と透明性の確保
EUではEUグリーンディールにおいて非財務情報の開示充実を一つの目標としており、非財務情報開示指令(NFRD)の改正作業を進めています(「第12回 EUの非財務情報開示規制の改正動向」ご参照)。非財務情報の開示に際してはEUタクソノミー(「第8回 TCFDと欧州タクソノミー」ご参照)との関連性を重視するとしています。またESGデータに関する共通データベースの構築も進める方向となっています。
こうした背景から下記のような調査項目となっています。
Q:EUは、企業がNFRDに準拠して開示した非財務情報、関連するESG情報に誰もが無料でアクセスできる共通データベースの開発をサポートするべきか。
Q:回答者の企業は、現在EUタクソノミーが定義する環境目的に実質的に貢献できるような経済活動を行っているか。
(2)会計基準
投資対象となった資本性金融商品が会計上どのように取り扱われるのかは、投資意思決定において考慮すべき項目の1つです。サステナブルファイナンスでは長期投資・長期保有を推奨することになります。そこで長期投資・長期保有に相応しい会計上の取扱いを検討する必要があるとECは考えています。現状のIFRS(国際財務報告基準)では、資本性金融商品に長期投資している場合で、その公正価値の変動を資本の部(その他の包括利益)で認識することを選択している場合には、それを外部売却したとしても売却損益を純損益に計上せず、資本の部の中で処理を継続することになっています(いわゆるノンリサイクリング処理)。そこでECはIASB(国際会計基準審議会)に対して、資本性金融商品に長期投資していた投資家がそれを外部売却等によって処分した場合の取扱いについて、上記のノンリサイクリング処理を見直すことができないか検討を求めています。
こうした背景から下記のような調査項目となっています。
Q:気候・環境リスクの適時適切な認識に対して障害となっている現行のIFRSはあるか。
(3)サステナビリティに関連したリサーチと格付
サステナビリティに関連した様々なデータプロバイダーや格付会社等が活動していますが、ECは開示企業と投資家をつなぐ役割を果たしている格付会社等の利益相反、透明性の確保などに関する研究結果を2020年秋に公表する予定です。
こうした背景から下記のような主な調査項目となっています。
Q : ESG格付やデータ市場の集中度に関する懸念はあるか。
Q : サステナビリティプロバイダーから市場で入手できるESGデータの比較可能性、品質、信頼性をどの程度評価しているか。
Q : 市場で入手できるESGリサーチの品質と関連性をどの程度評価しているか。
Q : E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のそれぞれ、もしくはESG一体としてのESG格付の投資意思決定に際しての品質と関連性をどの程度評価しているか。
ご紹介:TCFD及びEUタクソノミーに関するKPMGジャパンのサービス等
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※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。
執筆者
KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE/TCFDグループ
テクニカルディレクター 公認会計士 加藤 俊治