【第5回~TCFDを旅する~】TCFDと欧州サステナブルファイナンス
TCFDを旅する ~サステナビリティを目指して~ 第5回:今回は第4回に続いてTCFDと欧州サステナブルファイナンスというテーマのその3となります。今回はアクションプラン(Action Plan : Financing Sustainable Growth)をご紹介します。
今回は第4回に続いてTCFDと欧州サステナブルファイナンスというテーマのその3となります。今回はアクションプランをご紹介します。
1.アクションプランの3つの目的
アクションプランによれば、欧州が2030年までにパリ協定で合意された気候変動対策目標(温室効果ガス排出を1990年比で40%削減することを含む)を達成するためだけでも毎年1,800億ユーロの追加投資が見込まれています。その額が公的セクターの資金力を大きく上回ることから、欧州域内において持続的成長に対する選好度の高い投資家の資金をサステナビリティに関連するプロジェクトや企業に誘導することが必要と考えられています。
この問題を解決すべくサステナブルファイナンスに関するハイレベル専門家グループ(HLEG)は2018年1月に最終報告書を公表し、サステナブルファイナンスが達成すべき目標は、社会の長期的なニーズに向けた資金を提供することで持続的・包括的な成長に貢献すること、ESG投資の要素を投資家の意思決定プロセスに組込むことで金融の安定性を強化することにあると論じています。これを受けてアクションプランはSDGs、パリ協定の達成を見据えて以下のような3つの目的を設定し、そのための施策を10項目掲げています。
目的1:持続的・包括的な成長につなげるために投資家の資金をサステナブルな投資案件に誘導する
目的2:気候変動、資源枯渇、環境悪化、社会的課題から生じうるリスクを管理する
目的3:透明性が確保され長期的視点に立った金融経済活動を醸成する
2.目的1に関連した5つの施策
(1)分類(タクソノミー)の確立
タクソノミーは分類という意味ですが、アクションプランにおけるタクソノミーはグリーンであること、または環境的にサステナブルであることとはどういうことを指すのか、定義づけすることです。
タクソノミーの確立はアクションプランにおいて最も緊急かつ重要な課題と位置付けられています。それは、ESGに関心の高い投資家にとって、自らの資金がサステナブルな案件に投資されているか否かを確認するためには、どういった活動・案件がサステナブルであるのかが明示されている必要があるからです。タクソノミーは最終的にEUの法令に取込まれることで法的側面からも強制力を持つことが期待されていますが、その設定は難易度が高いと理解されており、第1段階として気候変動その他の環境関連の活動を分類し、第2段階として残りの環境及び社会的側面に関する活動を分類することが予定されています。
(2)グリーンボンド等に関する基準の作成
タクソノミーが設定されたとしてもそれが活用されてどういった金融商品がサステナブルなのか、あるいはグリーン関連なのかが投資家に理解されなければ、投資資金をサステナブルな活動に誘導することはできません。そこでタクソノミーに基づいて金融商品をサステナブル関連であると認定する基準やそれに基づくラベリングが必要となります。
そこでグリーンボンド基準の設定、グリーンボンド発行に際して目論見書に記載すべき事項の検討、ラベリングのフレームワークの検討が求められています。
(3)サステナブルなプロジェクトへの投資の活性化
OECD(経済協力開発機構)によれば温室効果ガス放出のうち約60%がインフラ関連から生じているとされています。欧州委員会は、2018年2月時点でサステナブルなインフラプロジェクトにEFSI(欧州戦略投資基金)を通じて2,650億ユーロの資金を投じています。
こうした流れを受けて、サステナブルなインフラ投資を中心にEU域内国等で実施されるサステナブルな案件に投資する金融商品の効率性等を改善するアドバイス能力の強化が謳われています。
(4)投資アドバイスへのサステナビリティの反映
投資会社や保険の販売業者は投資資金をサステナブルとされる案件に誘導するのに重要な役割を有しており、顧客の投資目的やリスク許容度に応じて金融商品・保険商品を推奨する義務を負っていますが、顧客に投資アドバイスをする際にはそのサステナビリティに関する選好度を十分には考慮できていないと考えられています。MiFIDII(第2次金融商品市場指令)などにおいて顧客のプロファイルに適合した金融商品を推奨するように定められていることから、アクションプランでは顧客のESG選好度を確認しそれに応じた投資アドバイスを行うよう求めており、適合性評価に関するガイドラインの策定をESMA(欧州証券市場監督機構)に要請しています。
(5)サステナビリティに関するベンチマークの開発
インデックスなどのベンチマークは金融商品の価格形成において重要な役割を果たすことになりますが、現状の市場参加者による様々なベンチマークはサステナブル投資の成果を測定するには不適当であり、その役割を十分に果たしていないと認定されました。その原因は透明性の欠如と信頼性の低下であり、グリーンウォッシュ(環境に優しい金融商品であると宣伝しながら実態がそうでない金融商品等)の危険性を排除できていないと考えられていることから、透明性が確保された信頼性の高いインデックスの設定が求められています。
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※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。
執筆者
KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE/TCFDグループ
テクニカルディレクター 公認会計士 加藤 俊治