【第4回~TCFDを旅する~】TCFDと欧州サステナブルファイナンス

TCFDを旅する~サステナビリティを目指して~第4回:今回は第2回に続いて、TCFDと欧州サステナブルファイナンスというテーマのその2となります。

TCFDを旅する~サステナビリティを目指して~第4回:今回は第2回に続いて、TCFDと欧州サステナブルファイナンスというテーマのその2となります。

第2回では、ハイレベル専門家グループ(HLEG)が2018年1月に公表した最終報告書(以下、HLEG最終報告書)のうち8つのKey recommendationsを紹介しました。
今回は、HLEG最終報告書の概要の中から、その他分野に関する2つのOther Cross-Cutting Recommendationsと、市場参加者に対する5つのFinancial Institutions and Sectoral Recommendationsをご紹介します。

1.8つのKey recommendations

第2回でご紹介しています。

2.2つのOther Cross-Cutting Recommendations

(1)ベンチマーク
インデックス投資、それを支えるベンチマークはグローバル金融市場の要となっており、パフォーマンス測定、アセットアロケーションの見直しなどに重要な役割を果たしているという認識の下、マーケットの長期資金をサステナブルな投資案件に誘導する一つの手段として、サステナビリティに関する新たなベンチマークの設定を求めています。

主な提言

  • 規制当局は、ベンチマーク規制の中にサステナビリティやESG要素を取り入れるようにルール設定するべきである。
  • インデックス組成会社は、パリ協定、SDGsを十分に考慮したインデックスを組成するべきである。
  • アクティブ運用・パッシブ運用いずれにおいても、資産運用会社はサステナビリティ、気候変動、それらに関連するベンチマークに対するエクスポージャーを開示し、投資家の理解を促すべきである。

(2)会計基準
IFRS(国際財務報告基準)による金融商品の評価方法が、長期投資を前提とするサステナビリティ投資に整合しているのかを検討する必要があるという問題意識のもと、会計基準の適用対象となる企業・機関投資家の投資姿勢に与える影響を考慮するべきとしています。

主な提言

  • 長期投資の目的で資本性金融商品を保有している場合に短期的な時価の変動による影響を認識するのでなく、別途の方法を検討するべきである。

3.5つのFinancial Institutions and Sectoral Recommendations

(1)銀行
現在の自己資本比率規制は、通常の与信行為に対する資本賦課が大きいという業界の意見があること、SDGs、パリ協定に貢献できるような与信行為に関してはいわゆるgreen supporting factorがあるものとして、資本賦課を軽減することなどにより、グリーンなプロジェクトに対する与信を拡大できる可能性があるとしている。

主な提言

  • 金融当局において、ESG投資やサステナブルなプロジェクトに対する長期の与信に関するベストプラクティスを収集し、銀行業界と共有するべきである。
  • green supporting factorに関しては、実際に資本賦課を軽減するべきリスク管理上の合理的な理由があるか否かを検討する必要がある。

(2)保険会社
保険会社は契約者との契約期間が長期にわたることから気候変動を含む長期のリスクに晒されていること、加えて保険支払は自然災害の影響を受けることから、気候変動リスクは保険業にとって本質的なリスクであると認識している。

主な提言

  • TCFD提言に従ったディスクロージャーの導入を検討する。
  • 金融当局は、気候変動リスクを保険会社の企業行動を評価する際に取り入れる必要性を評価する。

(3)資産運用会社
資産運用会社には顧客に最善の投資結果をもたらす責任があり、顧客のESGに関する選好度を明確に理解したうえで、顧客利益を図る責任があるとしています。

主な提言

  • 資産運用会社は、ESGに関する能力を醸成し、組織の運営原則、報酬ルールを策定する際に長期的な視点を持つ必要がある。
  • 資産運用会社は、機関投資家に対してサステナビリティに関する方針・懸念等がないかを確認し、リテール投資家に対してESG選好度を確認することで、運用方針及び推奨商品に顧客の要望を反映する必要がある。

(4)年金基金
年金基金は、受益者のサステナビリティに関する選好度を確認し投資方針に反映する必要があるとともに、長期にわたって年金を給付する責任を負っており、長期投資となるサステナブルファイナンスの資金供給者に最適であると認識しています。

主な提言

  • 年金基金は、受益者のサステナビリティに関する選好度を確認し、それを投資方針に反映しなくてはならない。
  • 年金基金業界は、ESG投資とディスクロージャーの一貫性を改善し、法令で要求されている内容を超えたレポーティングを行うことでサステナビリティに関するリスクとオポチュニティ、そしてサステナブルな長期投資のもたらす利益を認識するべきである。

(5)格付会社
格付会社には、CRAs(credit rating agencies)とSRAs(sustainability rating agencies)があり、前者は財務情報、後者はESG要素に基づいて格付けするという違いがあるが、両者ともに投資意思決定の際の重要な材料になると認識している。

主な提言

  • CRAsは信用リスクの評価に際してESG及び関連した長期間のサステナビリティを反映するべきであり、EUの金融当局はそうしたルール上のフレームワークを作り、モニタリングを実施することを検討するべきである。
  • 歴史の浅いSRAsを育成するべくサポートしなくてはならない。その際には、明瞭性と透明性を確保する必要がある。

ご紹介:TCFD及びEUタクソノミーに関するKPMGジャパンのサービス等

KPMGジャパンでは、GSDアプローチによるTCFDアドバイザリーサービスを提供しています。
また、EUタクソノミーに関するご相談を受け付けています。
詳細は、ページ内の「お問合せフォーム」もしくは「ご依頼・ご相談 RFP(提案書依頼)」からお問い合わせください。
 

※ GSDアプローチとは、Gap analysis(TCFD最終提言とのギャップ分析)、Scenario analysis(シナリオ分析)、Disclosure analysis(開示内容・手法の妥当性分析)を指します。

執筆者

KPMGジャパン
コーポレートガバナンスCoE/TCFDグループ
テクニカルディレクター 公認会計士 加藤 俊治

TCFDを旅する ~サステナビリティを目指して~