Q&A実務 IFRS第16号対応は万全ですか?
本稿は、QA方式にて、IFRS第16号「リース」に関して誤解が生じやすいポイントをピックアップして解説します。
本稿は、QA方式にて、IFRS第16号「リース」に関して誤解が生じやすいポイントをピックアップして解説します。
ハイライト
多くのIFRS適用会社にとって、IFRS第16号「リース」(IFRS16)を適用する初めての期末決算がやってきます。IFRS16に対応したリース台帳を作成し、適用開始日の処理を終え、これですべて安心、あとは台帳から財務数値を拾えば年度末も乗り切れるはず……とはいきません。リースには、一般の固定資産とは違う論点があります。作成が面倒な期末開示も増えています。本稿は、QA方式にて、IFRS16に関して誤解が生じやすいポイントをピックアップして解説します。
目次
Q1.契約の変更(1)それは「条件変更」か?
オフィスの賃借契約を更新する予定です。更新契約の締結日は来期の予定なので、当期末の処理は不要と考えてよいでしょうか?
A1
まず、その契約更新がIFRS16における「条件変更」に該当するかどうかがポイントです。例えば、普通借家契約には(法律で認められた)延長オプションが含まれていると解釈されるため、期間延長の覚書を取り交わすことは「リース期間の再評価」であり「条件変更」ではありません。また、定期的な賃料改訂条項に基づいて新たな賃料が合意された場合も、通常は「変動リース料の見直し」に該当し、その場合も「条件変更」には該当しません。
条件変更とは「当初契約に含まれない事項について、リースの範囲またはリースの対価が変更される」ものを言います。条件変更に該当する場合、その処理は条件変更の発効日、つまり両者が変更に合意した日(一般的には変更契約の締結日)に行いますが、条件変更以外の変更は、内容によっては契約締結日を待たずに処理が必要な場合があり、かつ、その会計処理も変更の内容によりいつの時点の割引率を使うかなど細かい点を含めて異なりますので注意が必要です。
Q2.契約の変更(2)将来の増床
今借りているオフィスの現行契約(延長オプションはない)が来期早々に切れるため、当期のうちに契約を更新しました。賃借スペースが手狭になっているので、同じビルに入居している他のテナントが半年後に退去する予定の別フロアについて、更新後の契約では半年後スタートで追加で借りることを盛り込んでいます。そのフロアが実際に使用できるようになるのは半年後、つまり来期ですが、条件変更が当期である場合、その追加フロアにかかる賃料も当期末に使用権資産・リース負債として計上が必要でしょうか?
なお、賃借スペースの増床に伴うディスカウントなどはなく、年間賃料の増加は増床分の市場実勢価格相当です。
A2
使用権資産・リース負債の認識は、リース開始日、つまり借りてきた資産が使用可能になる日に行うのが原則です。質問のケースの場合、追加で借りるフロアが使用開始となるのは来期ですので、いわゆる先日付のリースです。契約変更日は当期中ではありますが、増床部分が使用開始となる日をリース開始日として、来期になってから使用権資産・リース負債を計上します。
なお、現在借りているフロアについても更新契約が当期中に締結されており、こちらのリース期間が延長されたことによるリース負債の再測定は当期中に処理する必要があります。
※複雑な「リースの条件変更」については、『IFRS第16号「リース」~適用に向けて~』のシリーズ5(PDF:972kb)をご参照ください。
Q3.被取得企業が保有しているリース
当期中に新たに子会社を取得しました。被取得企業が契約しているリースですが、当該子会社の財務諸表に計上されている使用権資産とリース負債について、公正価値と帳簿価額がほぼ等しいとみて、そのまま取得資産・引受負債として企業結合の仕訳に取り込んでいいでしょうか?
A3
IFRS16によりIFRS第3号「企業結合」が改訂されています。被取得企業が保有する(借手)リースは、短期リースや少額資産のリースに該当する場合を除き、取得日現在で新規のリースとみなして測定しなおす必要があります。なお、市場実勢賃料と比較して有利もしくは不利となっている部分は別途調整が必要です。
Q4.使用権資産の減損
使用権資産(ROU)とリース負債が1つの契約に紐づき不可分の関係にあると考えられるため、CGU(資金生成単位)の帳簿価額の算定にはリース負債も含めるべきと思われます。一般的には「使用権資産の帳簿価額<リース負債の帳簿価額」であると想定されるため、新たな資産としてCGUに加えられるネットの帳簿価額はマイナスであり、使用権資産に減損損失は発生し得ないと考えてよいでしょうか?
A4
そんなことはありません。減損テストの実施においては、通常、CGUの帳簿価額にリース負債を含めると同時に、回収可能価額にもリース負債を反映する必要があります。その結果、使用権資産(及びリース負債)を含むCGUから減損が生じることもあります。なお、算定されたCGUの減損損失はリース負債を加味せず、CGUに含まれる資産(使用権資産を含む)に配賦されます。
前提:回収可能価額として使用価値を使う
(1)CGUに含まれる(使用権資産以外の)資産の帳簿価額に使用権資産の帳簿価額を加算し、リース負債の帳簿価額を減算(CGUの帳簿価額)
(2)リース負債の支払いキャッシュ・アウトフローを含めないベースで算定した将来キャッシュ・フローの現在価値から、リース負債の帳簿価額を減算(CGUの使用価値)
(3)上記の差額として算定された減損損失は、各資産に配賦
Q5.使用権資産の表示
使用権資産も投資不動産も原則は財政状態計算書での別掲が要求されています。では投資不動産である使用権資産はどちらに含めて表示するのが適切でしょうか?
A5
投資不動産である使用権資産は投資不動産に含めます。
Q6.使用権資産の公正価値
使用権資産が投資不動産に該当する場合、IAS第40号「投資不動産」により公正価値の開示が要求されています。使用権資産のリース期間に対応する期間のサブリース収益(固定リース料などリース料総額の定義に該当するもの)の割引現在価値を開示すればいいでしょうか?
A6
使用権資産の公正価値は、リース契約の公正価値にリース負債の帳簿価額を加算した値として算定されます。ここでリース契約の公正価値は、一般的な割引キャッシュ・フロー(DCF)法による場合、使用権資産から将来的に見込まれる期待キャッシュ・インフローから、リース契約に基づき将来的に支払いが見込まれる期待キャッシュ・アウトフローを控除した現在価値として算定されます。これらの将来キャッシュ・フローは、IFRS16におけるリース期間やリース料総額による制限を受けず、「市場参加者が想定するリースの継続期間」及び「変動・固定を問わずリース契約に基づき支払いが想定されるあらゆるキャッシュ・フロー」が反映されますので注意が必要です。
Q7.貸手の開示
サブリースの処理を除いて、IFRS16による貸手会計への影響はほとんどありませんでした。開示についてもIAS第17号時とほぼ変わらないと考えてよろしいでしょうか?
A7
IFRS16で開示は大きく拡充され、貸手も例外ではありません。まず、リース期間終了時に回収する残価のリスクをどう管理しているかの開示が新たに必要となりました。ファイナンス・リースだけでなくオペレーティング・リースも対象になります。
また、従来のオペレーティング・リースのコミットメントは解約不能期間分のみが開示対象と考えられていましたが、今後はこの対象がリース料総額まで広がります。固定リース料だけでなく一定の条件を満たす変動リース料なども含まれ、かつ解約不能期間にとどまらずリース期間にわたっての回収スケジュールが必要になります。「オペレーティング・リースだからリース期間の精緻な見積りは実務的には不要」「貸手はどうせ発生時に収益計上するのだから、変動リース料の種類を判断する必要はない」という従来の考えでいると、期末に開示が作れないという状況に陥ります。リース料(ファイナンス・リースの場合はリース債権)の満期分析も「1年内」「1年~5年」「5年超」の3区分でなく、直近5年間については1年ごとの細分化が必要となります。
さらに、有形固定資産のうちオペレーティング・リースに供されている資産については、IAS第16号「有形固定資産」の開示上、自己使用資産と区分して開示することも新たに要求されるようになりました。新たな注記に対応するための情報収集が十分か、再確認する必要があると思われます。
執筆者
有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
パートナー 植木 惠