「記述情報の開示に関する原則」の理解を深める
2019年3月に、金融庁が有価証券報告書における開示の拡充に向けた取組みの一環として公表した「記述情報の開示に関する原則」のうち、特に適切な理解が必要と考えられる点に焦点を当て、KPMGジャパンが2014年から毎年行っている統合報告書に関する調査等で得られた経験などを踏まえ、解説しています。
「記述情報の開示に関する原則」のうち、特に適切な理解が必要と考えられる点に焦点を当て、KPMGジャパンが統合報告書に関する調査等で得られた経験などを踏まえ、解説しています。
Article Posted date
30 July 2019
I.「記述情報の開示に関する原則」について
背景と位置付け
2018年6月に、金融庁金融審議会から、「ディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)報告 - 資本市場における好循環の実現に向けて - 」が公表され、企業開示の充実に向けた提言がなされ、それを踏まえた取組みの一環として、2019年3月に、金融庁が「記述情報の開示に関する原則」を公表しました。
日本企業の従前の開示に対する指摘
II.「記述情報の開示に関する原則」の理解を深める
前提として理解しておきたい3つのポイント
記述情報の開示の充実を、制度対応にとどめず、企業の説明力向上を通じた適切な企業評価の獲得につなげるために、まずは以下のポイントを理解しておくとよいでしょう。
- 記述情報は、財務情報の説明力を高めます
財務情報と記述情報の整合性、論理的一貫性は不可欠です。
記述情報は財務情報の背景を伝え、財務情報は記述情報の信頼性を高めます。 - 単に、ESG情報を考慮せよということではありません
記述情報はESG情報だけではありません。知的財産、ブランド、人材、顧客基盤などの非財務情報も含みます。
これらは、企業の価値や評価に大きく影響を及ぼすものであり「重要」です。 - 企業価値は、財務諸表に表れる数値だけでは説明がつかなくなっています
組織の持続的成長のためには、財務諸表に表れない「見えざる資産」の価値が一層重要となっています。
ゆえに、財務的な成果だけでは表現できない価値が、企業評価にも影響するのです。
III.これからの企業報告の方向性
これからの企業報告は、ある時点の財務情報に留まらず、過去から現在に至る過程や、将来の価値向上にむけた戦略や資源配分等の意思決定の論拠等について、経営者が語るものとなっていくことが期待されます。
コーポレートレポーティングの旧秩序 | コーポレートレポーティングの新秩序 |
---|---|
説明が長く、雑然としている | 簡潔であり、マテリアルな事項のみを説明 |
ひな形的な説明に留まっている | 有効なコミュニケーションとして機能する |
回顧的で短期的 | 将来思考でより長期的 |
複雑でわかりにくい | シンプルで探すのが容易 |
汎用的 | 読み手のニーズに敏感に対応 |
株主向けの財務業績にフォーカス | 組織とそのステークホルダーの価値創造にフォーカス |
規則に従った限定的な開示 | 個々の状況に即した透明性の高い開示 |
財務資本を重視 | 組織が影響を受ける、または影響を与えうる財務以外の資本も等しく重視 |
固定されており、ドリルダウンなどは不可能 | 最新技術を取り入れ、動的に利用することが可能 |
出所:「SDGs・ESGを導くCVO - 次世代CFOの要件」東洋経済新報社(原書を参考に、本冊子向けに、再翻訳)
執筆者
KPMGジャパン
統合報告センター・オブ・エクセレンス(CoE)
有限責任 あずさ監査法人
監査プラクティス部