学校法人の計算書類の見方 第1回:事業活動収支計算書

平成27年度の学校法人の計算書類の様式変更における、事業活動収支計算書について解説します。

平成27年度の学校法人の計算書類の様式変更における、事業活動収支計算書について解説します。

書類を書くビジネスマン

事業活動収支計算書の見方のポイント

見方のポイントは3つあげられます。

  1. 区分経理の考え方が取り入れられ、消費収支計算書では把握しにくかった、活動区分ごとの収支状況が明確化され、学校法人の活動内容を把握しやすくなっています。
  2. 「教育活動収支差額」、「教育活動外収支差額」、「経常収支差額」、「特別収支差額」、「基本金繰入前当年度収支差額」、「当年度収支差額」の段階的な収支差額が明示されることになりました。
  3. 施設設備等の取替えや更新を自前で調達する必要がある私立学校においては、教育研究活動を将来的に維持していくために必要な資産を基本金として自己資金で確保することが求められています。このため、設備投資活動により固定資産が増加する場合、基本的には基本金組入額が発生し、当年度の収支差額より控除されます。当該処理は学校法人特有の処理のため、学校法人の計算書類を見るにあたっても考慮する必要があります。
事業活動収支計算書

消費収支計算書から事業活動収支計算書へ

消費収支計算書は基本金組入額を控除した収支差額の均衡状態を明らかにすることを目的としており、人件費や経費等に充てることのできる収入全体を把握するため、総額表記され、活動ごとの区分は設定されていませんでした。一方で、近年の臨時あるいは教育研究事業以外の活動の増加および教育活動以外の重要性の増大に伴い、学校法人の経営状態を把握する上で、「経常的なもの」と「臨時的なもの」の区分や本業の「教育活動」によるものかそれ以外かを把握する必要が生じたため、企業会計における損益計算書のように区分経理の考え方が取り入れられた事業活動収支計算書へ変更されています。

1)教育活動収支(教育活動収支差額)

本業である教育活動の収支の状況を把握することができます。当該収支を分析することにより、以下のようなことが把握できます。

  • 教育活動収支差額
    本業である教育活動の収支を表す指標。但し、基本金組入額を控除前の収支差額のため、継続的にマイナスになっている場合は、学生数の減少等による収入不足及びコスト削減の対応遅れによる支出超過状態と考えられます。
  • 人件費依存比率
    人件費の学生生徒等納付金収入に対する割合。学校の経費に占める割合が高く、固定費的性格が強いため、当該比率割合が高いと収支が悪化する恐れがあります。
  • 学生生徒等納付金比率及び経常補助金比率
    経常収入(教育活動収入計+教育活動外収入計)に対する学生生徒等納付金及び教育活動収支の補助金の割合。学生生徒等納付金比率が低く、経常補助金比率が高い場合には、学生数減少等による収入不足、補助金の依存度が高い経営になっている恐れがあります。

2)教育活動外収支

経常的な財務活動及び収益事業に係る活動による収支状況を把握することができます。財務活動とは、資産の運用収入及び資金調達活動(借入金・学校債等)の利息等が含まれます。

  • 借入金等利息比率
    借入金等利息の経常収入に対する割合。借入金等利息比率が高い場合には、学校法人の収入に対し、借入金等の負担が過大になっている可能性があります。

3)経常収支差額

特殊な要因(特別収支)を除いた収支差額。基本金組入額を控除前の収支差額のため、プラスになることが想定されます。

4)特別収支(特別収支差額)

当年度の特殊要因(資産売却、有価証券評価減、デリバティブ取引の解約損等)を把握できます。
但し、特別収支に含まれる項目は、「学校法人会計基準の一部改正に伴う計算書類の作成について(通知)」(25高私参第8号)で記載されている以下の項目とされています。
(特別収支項目)
資産売却差額、施設設備寄付金、現物寄付金、施設設備補助金、資産処分差額、過年度修正額、災害損失、デリバティブ取引の解約に伴う損失又は利益、退職給与引当金特別繰入額

  • 企業会計上の特別損益との相違
    学校法人にとっては特殊要因であっても、特別収支としては扱われない点は留意が必要です。

5)基本金組入前当年度収支差額

当年度の収支均衡を見るための指標(従来の帰属収支差額)。基本金組入額を控除前の収支差額のため、継続的にマイナスになる場合、外部から厳しいと評価される可能があります。

6)当年度収支差額

長期的な収支均衡を見るための指標。教育活動を将来的に維持していくための基本金組入額を控除した収支差額。多額の設備投資を行う場合、経営状態が良好であっても、基本金組入額の影響でマイナスの収支差額になることも想定されます。

  • 企業会計上の当期純利益との相違
    当該収支差額は、設備投資活動等による基本金組入額の影響を受けるため、企業会計における損益計算書の当期純利益と意味合いが違う点に留意する必要があります。
  • 第2号基本金の設定
    学校法人が将来多額な固定資産を取得しようとする場合、取得年度に多額の基本金組入れが集中してしまうため、基本金組入れの平準化を図る目的の制度として、第2号金があります。第2号基本金を設定した場合、取得年度に先行して、段階的に基本金を組入れることにより、取得年度に基本金組入れが集中することを避けることができます。このため、将来的に多額な設備投資計画を予定している場合には、第2号基本金の設定を検討する必要があります。

7)翌年度繰越収支差額

収支差額の累計。設備投資活動による基本金組入が多額に発生した場合、マイナスになることが想定されますが、教育活動収支差額(経常収支差額)で将来的に解消できる範囲であれば、経営状態は悪化していないと判断できます。

  • 経営状態の判断
    翌年度繰越収支差額がマイナスの場合には、発生原因が問題となります。教育活動収支差額(経常収支差額)のマイナスが原因の場合には、経営状態が悪化していること想定されますが、設備投資活動による基本金組入が原因の場合、将来的に解消できる範囲であれば、経営状態は悪化していないと判断できます。

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