優れた組織は、フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスのすべてがカスタマーエクスペリエンスに影響を与えることを理解しています。きめ細かくカスタマイズされた商品を迅速に提供し、顧客とのあらゆる対話を満足に結びつけるには、パートナーも含めた組織各部の連携を図る必要があります。
顧客中心のサプライチェーンの原動力となるのは、可視性、洞察に満ちたデータ、そして顧客に対するコミットメントの共有です。また、設備に過少または過剰投資することなく、望ましいカスタマーエクスペリエンスを提供することによって、顧客の期待と収益性のバランスを取ることを目指します。

顧客中心主義が新たな論点となる

KPMGのグローバル調査によると、顧客中心の企業は、競合他社よりも収益性が38%高い傾向にあります。企業は、ニーズの急速な変化に追随していくだけでなく、これらのニーズに即応し、素晴らしいカスタマーエクスペリエンスを提供できる環境をつくらなければなりません。
ブランド各社は次第に、カスタマイズされた商品、迅速なイノベーション、注文しやすさ、パッケージング、納品と返品のスピードといった要素を約束するようになっています。消費者はブランドに誠実さと信頼性を求めています。配達員の態度など、一見何でもないことが消費者の認識や愛着に影響を及ぼすことがあります。

カスタマーエクスペリエンスの実現に重要な3つの目標

  1. 魅力的な価値提案と対話で顧客とつながる。
  2. 従業員に企業としての約束を果たす権限を与える。
  3. 顧客の拡大に対応するためにフロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスを連動する。

顧客とつながる

これからのサプライチェーンは、次のような課題に取り組むことになります。

カスタマイズされた商品と迅速な市場投入
集約された、低コストの生産拠点で大量生産を行う従来のアプローチは、急速に不必要となりつつあります。現在、顧客はきめ細かくカスタマイズされた商品を、多くの場合は少量で、数時間とは言わないまでも数日で納品することを求めています。これは、3Dプリンティングなどの新しいテクノロジーを活用したマイクロサプライチェーンによって実現する、「作る場所で買う」、「売る場所で作る」という動きを反映しています。

マイクロセグメント
あらゆる段階でサードパーティを一層活用することで、企業は新製品の試験的な導入や、生産規模の拡大・縮小をより効率的に行うことができます。販売実績データを活用して顧客に関するインサイトを得ることにより、ごく短期間での製品の発売、変更、販売中止や、開発継続の決定が可能となります。機械学習や自動化の進化が、こうしたことをさらに容易にします。消費者の要求が厳しくなるほど、マイクロセグメントに対応する能力が必要となります。

イノベーションの加速
イノベーションが、投資の最大のテーマの1つになっており、この傾向はさらに拡大すると考えられます。「商品の配達を迅速化するドローン」、「顧客のニーズを予測するデータとアナリティクス」、「製品性能を測定してメンテナンスの必要性を判定するためや、顧客のフィードバックをリアルタイムに製品開発プロセスに取り込むためのIoTセンサー」など、今後は技術的なイノベーションをサプライチェーンのあらゆるステージに組み込む必要があるでしょう。

信頼の確保
パーソナライズされた丁寧な顧客サービス、納期遵守、持続可能な調達と包装、返品時の迅速な返金、高品質な商品提供、安全な決済プラットフォーム、データのプライバシーの尊重など、基本を忠実に守り、維持することが求められます。サプライチェーンには社内外のさまざまな関係者が関与するため、管理者は、一貫したカスタマーエクスペリエンスを届けられるよう、あらゆる活動を絶えず監視する必要があります。さらに、企業はサプライチェーンの各局面において、顧客データの取得、保存、使用の方法を精査しなければなりません。

チャネルの一貫性
顧客は、商品情報、購入、配送、返品方法にすぐにアクセスでき、いつでもシンプルでシームレスなカスタマーエクスペリエンスが得られることを望みます。さらに、どのチャネルであっても、同じオファーが受けられることを要望します。パートナーやサードパーティ含め、全員がブランドを代表して顧客に対応し、顧客との約束を理解したうえで、顧客の期待を満たせるようにすることが重要です。これからは適切なセグメントに対して、適切なチャネル戦略を構築することが最優先事項となるでしょう。

5つのポイント~顧客のレンズを通してサプライチェーンを再考する

顧客中心主義を成功させるには、次のポイントを考慮して商業的にしっかりと的を絞り込む必要があります。

顧客中心のSC_1

1.カスタマーエクスペリエンスジャーニーを描く
あらゆるチャネルにおける顧客との接点をすべて特定して、カスタマーエクスペリエンスの全体像を詳しく描き出し、サプライチェーン内外の関係者がこのエクスペリエンスにどのように好影響や悪影響を与えるかを分析します。

2.サービス提供コストと収益性を理解する
顧客のマイクロセグメントが増殖し、サードパーティやパートナーがサプライチェーンに加わることで、状況は劇的に複雑になります。この複雑な状況の中で企業は、(コストを押し上げる)過剰サービスと、(カスタマーエクスペリエンスを損なう)不十分なサービスの間の的確なバランスを見いだす必要があります。経済的価値が最大になる「スイートスポット」はセグメントによって異なり、その計算には信頼性の高いアナリティクスが必要です。

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出典:KPMGインターナショナル

3.フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスをデジタル化する
統合されたサプライチェーンは、プロセス間の摩擦を取り除き、適切なデータを生成してサプライチェーン全体を可視化し、意思決定者に実用的な洞察を提供するために、完全にデジタル化する必要があります。直観だけに頼ることは十分ではありません。顧客の行動と考えについてリアルタイムに、明確かつ最新の状態で把握しなければなりません。

4.パートナーを見直す
パートナーやサードパーティを活用して顧客サービスを提供したいのなら、彼らをただの請負業者として扱うべきではありません。彼らに、顧客中心という自社のビジョンに完全に賛同してもらう必要があり、そのための動機づけが重要です。パートナーやサードパーティが組織内の人々と価値観を共有できるよう、そのチームや文化を精査することが求められます。顧客は、彼らをブランドの一部分とみなし、サプライチェーンのどこかで約束が果たされなければ、そのブランドに責任を取らせようとするでしょう。

5.違いを生み出すのは社員であることを忘れない
従業員一人ひとりがカスタマーエクスペリエンスの重要性を認識し、たとえ顧客と直接対面しなくても、自分の役割がブランドの約束を果たすことにつながるのだと理解する必要があります。

従業員や顧客との深いつながりを築くことは容易ではありません。顧客の期待の高まりや新しいテクノロジーに合わせてカスタマーエクスペリエンスが急速に進化してきたのと同じように、従業員の体験も進化しています。エンプロイージャーニーも、少なくとも顧客と同等の基準で計画し、実現する必要があります。変化する仕事の性質、変化する従業員の性質、そしてそれに伴う課題や機会のすべてに対応しなければなりません。

KPMGは、さまざまなフレームワーク、方法論、そしてツールを最大限に活用することで、サプライチェーン機能の見直し、設計、最適化に取り組む企業を支援します。

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