社会やビジネス環境が複雑化し、さまざまな変革を求められる時代。こうした時代の過渡期に、私たちコンサルティングファームはどのような役割を果たすことができるでしょうか。KPMGコンサルティングの代表取締役を務める関穣、田口篤、知野雅彦の共同代表3人が、当社が目指す姿や、コンサルティングサービスのこれからについて語りました。
会社独自の提供価値が重要な時代に
――社会やビジネス環境の不確実性が高まるなか、コンサルティング業界には異業種からの参入なども増えています。コンサルティングファームとしてどのような成長戦略を描いていますか?
関:コンサルティング業界は大きな転換期を迎えています。異業種からの参入や、お客様自身によるコンサルティングサービスの内製化も進んでいます。加えて、生成AIの進化によって、私たちの仕事が代替されていくかもしれないという危機感もあります。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、自社の成長や収益を一番の目的としない点が、KPMGコンサルティングに根付く成長戦略です。
私たちコンサルティングファームは、お客様へ質の高いサービス提供を通じて報酬をいただき、それを基により優秀な人材を獲得し、さらに質の高いサービスを提供していくというビジネスモデルで成り立っており、このサイクルを回す必要があります。そのためには、マーケットにおいて一定の存在感を示すことができるよう、規模を求めていく必要もあると考えており、実現に向けた高い成長目標も掲げています。
一方で、私たちが最も大切にしているのは、あくまでお客様のありたい姿の実現に向けて、総合的かつ本質的にサポートすることです。KPMGコンサルティングが大切にしているのが「顧客中心主義」、すなわち「アカウントフォーカス」や「ファン醸成」という考え方です。2014年の設立以来、経営の思想の中心にあり、今後もKPMGコンサルティングとして重視していく考え方で、差別化要素の1つになると考えています。
KPMGコンサルティング 関
田口:共生や共創の文化も、KPMGコンサルティングの差別化要素の1つです。
KPMGコンサルティングにはリスペクトやコラボレーションを大切にする文化が根づいています。コンサルタントが所属する各部門や、コーポレート部門による垣根を越えた連携によって、新たな価値を生み出すことを得意としています。また共創は社内にとどまりません。スタートアップ・自治体・国・公共機関・アカデミアといった社外のパートナーとの連携も積極的に行っています。KPMGにはグローバルで保有するオフショアのリソースも多数あり、お客様のニーズに応じて各国のチームとの連携も可能です。リスクのマネジメントに関する高度な知見を有しており、その確固たるサービス提供基盤がある点も、監査法人をルーツに持つKPMGコンサルティングの重要なケイパビリティです。
お客様の課題が複雑化・高度化する今、単一のソリューションを提供するだけで問題が解決することはほとんどありません。だからこそ、お客様の課題について表面的ではなく本質の部分を的確に捉え、川上から川下まで本当に必要なサービスを組み合わせて伴走することが重要です。いかなる時もクライアントから信頼され、頼られる「真のパートナー」であり続けたいと考えています。
――コンサルティングサービスは、今後どのように変化していくでしょうか。
知野:テクノロジーの発達で、これまで私たちが手作業で担ってきたプロセスの多くを、AIが瞬時に処理する世界になりつつあります。人手をかけた労働集約的なコンサルティングサービスは今後減少し、コンサルティングファームとして単に規模を追求するという価値も薄まっていくかもしれません。だからこそ、付加価値をどう生み出すかがカギとなります。KPMGコンサルティングならではの差別化要素を研ぎすませることが、一層大切になります。
KPMGコンサルティング 田口
田口:政治、世界情勢、テクノロジー、災害、疫病、気候などの大きな不確定要素とともに生きる時代において、しなやかさや柔軟性が重要なポイントになってくるのではないでしょうか。1つのシナリオだけにフォーカスするのではなく、ウェイトの多寡はつけるにしてもさまざまなシナリオに対応できる体制をとっておき、その時々の状況を踏まえて一歩一歩進んでいく。その繰返しこそが、この時代のあるべき経営の姿だと考えています。
関:一方で、AIの驚異的な進化をはじめ、こうした不確実性は企業にとって「リスク」であるだけではなく、新たなビジネスの機会や価値を創出する「チャンス」でもあります。変化の兆しを捉え、柔軟かつ迅速に対応し、持続可能なビジネスモデルを構築することが今後の成功の鍵となるでしょう。142の国と地域に展開するKPMGのグローバルネットワークやKPMGジャパンの各ファンクションとも連携しながら、これまでに培ってきたナレッジやノウハウをもって、「攻め」と「守り」の両面から、クライアントの課題と向き合ってまいります。
人を「動かす」ことがコンサルタントの存在価値に
――このような変化に対応するため、求められるコンサルタントの資質とはどのようなものでしょうか?KPMGコンサルティングの人材戦略について教えてください。
関:KPMGコンサルティングが求める人材要件として、人を惹きつける、巻き込む、連携させる、鼓舞するといった能力を大切にしています。一言でいえば、「人を動かす」ことに長けている、ということです。
コンサルタントの仕事は、大きく5つのステップに分けることができます。まずは、社会・業界の動向、お客様の社内情報などを「調べる」こと。そこからお客様の課題を解決するための策を「考え」、その結果を「記し」(紙に落とす、資料を作成する)、「伝える」(お客様に理解していただく)、そして、「動かす」です。ただ、4つ目までのステップは、すでにAIに代替されつつあります。
そこで、この先重要になるのが、5つ目の「動かす」です。つまり、お客様やステークホルダーに対して、マーケットの変化や進むべき方向を伝えたうえで、その方向に動くことを促すステップです。AIによって多くの業務がコモディティ化しても、人間には理論では表せない感情や直感、肌感覚、共感性などがあります。
プロジェクトが大きければ大きいほど、巻き込むべき関係者は増え、全員が同じ方向を目指して動く必要が出てきます。こうした他者への働きかけは、今後も人が果たす役割として残っていくはずです。それこそが、コンサルタントが価値を発揮すべき領域だと考えています。並行して、そこにインパクトをもたらすにはテクノロジーと組み合わせることがカギとなります。デジタル・テクノロジー領域に通じた人材の獲得も重視しており、こうした領域のサービスも強化・拡大しています。
知野:同感です。今後、コンサルタントはEQ(心の知能指数)やコミュニケーション力、リーダーシップが特に求められる職業になるはずです。新卒・第二新卒で入社いただいた方を中心に、そうした能力の向上に大きく力を注いでいく必要があります。
たとえばKPMGジャパンには、「KPMGジャパンアドバイザリーアカデミー(KJAA)」という研修プラットフォームがあります。ここでは、コミュニケーション、プレゼン、ライティング、リーディング、ネゴシエーションといったソフトスキルの向上を図る研修プログラムを展開しています。KPMGコンサルティング単体としても、そうした能力開発プログラムを整備しています。
プログラム内容に関しては常に棚卸を行い、アップデートしていきます。KPMGコンサルティングに入社すれば実務経験を積みながら、新時代に求められる能力の向上が可能となります。こうした人材育成基盤は、採用市場における確かな差別化要素となり得ます。
KPMGコンサルティング 知野(KPMGジャパン共同代表、KPMG FAS代表取締役を兼任)
田口:人材戦略におけるもう1つの成長ドライバーは、多様性です。10人が同様の意見を出し合って形成されたアウトプットよりも、10人がそれぞれ異なる視点から意見を提示し、議論を尽くした末に導き出されたアウトプットの方が質的にも優れ、強靭さを備えたものとなります。
社会が今ほど複雑でなかった時代には、類似したバックグラウンドを持つ人材が集まることが、会社組織の推進力として機能していました。しかしながら、現代社会は著しく複雑化しており、そうしたモノカルチャー的な体制では十分に対応しきれない局面が増えています。したがって、採用面でもさまざまなバックグラウンドを持つ人材を迎え入れ、多くの方が活躍できる仕事環境を整えていきます。
ただし、変化にしなやかに対応するためには、多様な価値観や経験を有する人材が共存するマルチカルチャーを強みとするのと同時に、確固たる個の強さも必要です。コンサルタント一人ひとりが、お客様から「この人であれば是非お願いしたい」とご依頼いただけるような、真に信頼されるコンサルタントの育成を目指していきます。
関:KPMGコンサルティングが3人の共同代表制を採っているのも、多様性の1つの象徴かもしれません。三者三様のバックグラウンドを有する私たちは、それぞれの視点を活かしながら、重要な経営課題に対しては丁寧に議論を重ね、より的確な意思決定を行う体制を整えています。一方で、日常的な業務においては明確な役割分担で、意思決定の迅速性を損なわない工夫を凝らしています。このような共同代表制も、独自性を示す強みの1つとしていきたいです。
互いの違和感を認め、創造のタネにしていく
――KPMGコンサルティングが目指す世界観として、「Business Biotoping」を掲げています。その成り立ちと意味するところを教えてください。
田口:企業規模の拡大やビジネス環境の変化により、改めてKPMGコンサルティングの存在意義を整理し、社内外に示すことの必要性が高まりました。コロナ禍を契機に、社員一人ひとりが参画してコーポレートアイデンティティについての議論を重ねるなかで誕生したのが、「Business Biotoping」(ビジネス・ビオトーピング)です。
ビオトープは、さまざまな生物が共存している空間ですが、それは人の手によって自然が整備・保全されることによって生み出されます。私たちが掲げる「Business Biotoping」も、あらゆる存在がリスペクトし合い、ともに繁栄できる世界です。私たちKPMGコンサルティングが携わることにより、クライアントや社会全体の健全な繁栄に貢献していきたいという想いが込められています。
ここでも、やはり多様性が重要なカギとなります。各人が抱える“違和感”も含めた個性や特性を尊重し、それらを相互に活かし合うことで新たな価値の創造が可能となります。また、ビオトープという概念に照らせば、活動が単発的なものではなく、循環性を持ち、持続可能であることが求められます。
この考え方をコンサルティング業務に置き換えるならば、私たちのサービスの提供を通じてお客様がどのように変化し、その変化が社会全体にどのような影響を及ぼし、最終的に価値がどのように循環していくかまで見据えたうえで、ソリューションを構築していく姿勢が重要であるという解釈にもなります。
関: 「Business Biotoping」はKPMGコンサルティングが考える理念や価値観に共感いただける多様なプレーヤーと共生する、他とは区分けされた空間であると言うこともできます。そこでは、各プレーヤーがそれぞれの特性を活かし合いながら新たな価値を創出し、持続的な繁栄を生み出していきます。私たちは、この世界をさらに拡張することで、社会全体の発展に貢献していきたいと考えています。
これを実現するには、お客様をはじめとする多数のプレーヤーの存在が欠かせません。私たち自身が一人ひとりと誠実に向き合い、KPMGコンサルティングのファンになっていただけるように努めなければなりません。
――コンサルティングファームとして、社会課題とどのように向き合っていきますか?
関:コンサルティング業界においては、お客様とのワン・トゥ・ワンのビジネスモデルが主流でした。しかし、社会課題の解決に取り組むにあたっては「社会」という概念をいかに定義し、その枠組みのなかで持続可能な収益構造を構築していくか、模索していかなければなりません。すでに国や地方自治体では、民間企業が提供する公共サービス支援の成果に基づき、たとえばがん患者の減少数や、それに伴う医療費の削減額に応じて報酬を決定するモデルが、一部で導入され始めています。こうしたプロフィットシェア型の報酬体系も、今後検討すべき有力な選択肢の1つであると考えられます。
田口:そもそも会社とは、事業を通して世の中をより良くすることを使命とする存在であり、コンサルティングファームは、お客様の業務や活動を支援することによりその使命を果たしています。したがって社会課題の解決といえども、従来のビジネスと峻別するのではなく、あくまで相対するお客様に対して誠実に貢献していくことが基本となります。
知野:私たちKPMGが社会的な使命から長年従事し、同時に収益を得てきた監査業務と同様に、社会課題の解決においても、企業の活動を多角的な観点で評価する「バランススコアカード」的な視座が肝要であると感じています。各方面に対してバランスよく価値を分配しながら、社会にプラスの影響を及ぼし、私たちも成長を遂げていくという在り方です。
それには、「共生」という関係性に加えて、「共鳴」という考え方が重要だと感じます。お客様や他のプレーヤーのなかには、社会的使命の追求と利益の追求の双方に対する思いがあり、それは私たちも同じです。各プレーヤーが互いの思いや立場を理解し、共鳴し合うことにより、使命と収益のいずれかに偏ることなく、また特定のプレーヤーばかりが優遇されるわけでもなく、バランスよく価値観が分配され、社会全体が繁栄していく…そのような世界観が求められるのではないでしょうか。
AIをはじめとする技術の進展が著しい現代において、このような「共鳴」を生み出していくことこそが、私たちの真の価値であると考えます。これからも長期的な目線で、企業や社会の変革とイノベーションに寄り添っていきます。