KPMGは世界の主要企業のCEOを対象とした調査を毎年実施しています。

第11回目となる「KPMGグローバルCEO調査2025」は、2025年8月に、主要11ヵ国(オーストラリア、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、スペイン、英国、米国)と12業界(資産運用、自動車、銀行、消費者・小売、エネルギー、医療、インフラ、保険、ライフサイエンス、製造、テクノロジー、通信)の企業経営者1,350人に対して、経済およびビジネスの展望、今後の経営戦略などについて調査しました。グローバル企業のCEOが考える経営課題や過年度からの推移に関する分析結果を報告します。

At a glance

KPMGグローバルCEO調査 2025

依然として地政学的・経済的に不安定な状況に直面しているが、CEOは「将来について、慎重ではあるが前向きである」ことが本調査で明らかになりました。 

世界経済の成長見通しに対する自信はパンデミック時の水準まで低下しているにもかかわらず、自社の成長見通しについてはCEOの79%が自信を持っており、AIへの投資(71%)と高い潜在能力を持つ人材の維持・スキル向上(71%)を強く支持しています。

多くのCEO(72%)は、直面している課題に対応するためにすでに成長戦略を見直しており、大多数が今後3年間で売上の増加と雇用の拡大を見込んでいます。AI投資のリターンに対する期待も加速しており、多くのCEOは1~3年で結果が出ると予測しています。これは2024年に予測された3~5年から早まっています。

 私たちの調査結果から明らかなのは、グローバルCEOがテクノロジー、イノベーション、人材への大胆な投資を通じて、混乱の中にチャンスを見出していることです。 イノベーションと責任の間で慎重なバランスが求められていることがわかります。AIに関するCEOの回答はその好例であり、CEOたちはイノベーションを受け入れる必要性を認識しつつ、倫理、規制、人材のスキル向上、そして人材確保に関する課題にも対応しようとしています。 最終的に、マーケットの変化を受け入れ、自社にとって戦略的に重要な分野に投資を集中できるCEOこそが、新たな機会を切り拓き、持続可能で長期的な成長を実現できるのです。

Bill Thomas
Global Chairman & CEO
KPMGインターナショナル

この複雑な環境において、CEOは自社の役割や能力を見直し、成長戦略を適応させる必要があることを認識しています。現在求められているCEOの能力として、より高い機動力と迅速な意思決定(26%)、コミュニケーションの透明性(24%)、そしてリスクを特定し、優先順位を付け適切に対処する能力(23%)が上位に挙げられています。

リスクに関しては、経済の不確実性がCEOの最大の脅威と考えられており、レジリエンス(回復力)は依然として不可欠な要素です。これは、テクノロジー(サイバーセキュリティ、データ保護、AIの倫理的利用)、人材(特にAI分野におけるスキル不足・スキル向上)、ESG(政治的・社会的に分断が進む世界への対応、サステナビリティに関する規制や報告要件の増加)など、複数の領域が当てはまります。

このように状況は複雑でありながらも、CEOは挑戦と組織の成長に向けた意欲を高めている。プレッシャーは大きいものの、リスクに適切に対応しながらチャンスを掴める組織には、大きな成果が期待されているのです。

世界経済の見通し

経済が不確実な状況下でも、CEOは自社の将来に自信を持っている

economic outlook

地政学的に不安定な状況が続くなか、世界経済の成長見通しに対するCEOの自信は1年前の72%から5年ぶりの低水準(68%)となりました。それにもかかわらず、今後3年で2.5%以上の増益を見込んでいるCEO は61%で、自社の将来については依然として前向きです。

リスクを軽減し競争力を確保するために、CEOは「人材」「AI」「M&A」「組織設計」への投資に対して積極的です。92%のCEOが今後1年間で 雇用の拡大を検討しており、69%がAIに予算の最大20%を投じる計画を立てています。さらに、89%が今後3年間で中程度~大きな影響をもたらすM&Aを見込んでいると回答しています。これらの分野におけるレジリエンス(回復力)と的を絞った投資こそが、リスクや変化するビジネス環境に対応する最善の戦略と見なされています。

CEOは、例えば以下のような取組みに注力しています。

  • サイバーセキュリティとデジタルリスクのレジリエンス(39%)
  • 規制遵守と報告対応(36%)
  • AIの業務・ワークフローへの統合(34%) 

CEOは、自身の役割がますます困難になっていることも認識しています。59%のCEOが「この5年間で期待値と業務の複雑さが大きく変化した」と感じており、約4人に1人(23%)が、AIやデジタルリテラシーの向上がCEOにとって不可欠なスキルとして挙げています。さらに、80%のCEOが「企業の 長期的な成長を確保するプレッシャーが増している」と回答しています。とはいえ、これは1年前と大きくは変わっていません。混乱が続く中でも、CEO たちは「継続的に混乱する環境」に対応する準備ができていると感じています。変化と挑戦は「新たな常態(ニューノーマル)」となり、CEOたちはその状況に果敢に立ち向かっているのです。

テクノロジー・生成AI

CEOはリスクに対応しながら、AIへの投資と導入を積極的に進めている

technology and AI

リスクとバランスをとりながら、CEOはAIとテクノロジーへの取組みをさらに強化しています。71%のCEOが、AIが投資の最優先事項であると答えており、これは前年(52%)から大幅に増加しています。3分の2 以上(69%)が、AI関連支出に予算の10~20%を割り当てていると回答しています。さらに、「投資から価値が生まれるまでの期間(Time-to-Value)」に対する自信も高まっており、67%が1~3年で投資回収(ROI)を見込んでいるとしています。1年前には63%が「ROIは3~5年かかる」と考えていたことから、大きな意識の変化が見られます。

AIに対する期待は高く、74%のCEOが「自社はAIの急速な進化と、それに伴う導入・運用・ワークフローへの影響に対応できる」と考えています。また、89%のCEOが「ビジネス成長を促進するために先進技術の導入を適切に導く体制が整っている」という自信を持っています。

AIに対する期待は高く、74%のCEOが「自社はAIの急速な進化と、それに伴う導入・運用・ワークフローへの影響に対応できる」と考えています。また、89%のCEOが「ビジネス成長を促進するために先進技術の導入を適切に導く体制が整っている」という自信を持っています。

Steve Chase
Global Head of AI and Digital Innovation
KPMGインターナショナル

CEOは、AIの導入を拡大するうえで「実験」が重要なステップであると考えています。84%のCEOが、あらゆるレベルの従業員による実験的な取組みが鍵であり、全員が積極的に参加することが推奨されるべきだと考えています。また、AIに関する透明性とオープンな対話が不可欠であることも、CEOたちは認識しています。約半数(46%)のCEO が、AIが業務や役割に与える影響について従業員と率直にコミュニケーションを取っていると回答しています。さらに、AIの進化のスピードを示す兆候として、過半数のCEO(57%)が、生成AIと並んで「AIエージェント(自律的に行動するAI)」が自社に大きな影響を与えると予測しています。

しかし、まさにこの変化のスピードこそが、新たな課題を生み出しています。CEOの76%が「自社は強固なガバナンス体制を通じてAIの統合に対応できる」と考えている一方で、以下のような重要な課題にも対処する必要があることを認識しています。

  • 倫理的な課題(59%)
  • データの準備(52%)
  • 規制の欠如(52%)

規制は、CEOにとって極めて重大な関心事となっています。69%のCEOが「規制が技術革新のスピードに追随できないことが、成功への障壁になる」と考えています。

人材

AI人材の獲得競争がCEOの重要な関心事になっている

talent

CEOは、AIによる生産性向上を実現するうえで「人材」が中心的な役割を果たすと認識しており、新技術の導入を従業員主体で進めることに強いコミットメントを示しています。

企業のCEOたちは、AIを組み込むために、人材教育・採用・職務設計の見直しを急速に進めています。77%のCEOが人材育成を課題として挙げ、今後3年間の企業の成長に影響を与えると考えています。

しかし、AI人材の数が限られていることから、これは大きな競争課題でもあります。70%のCEOが「AI人材の獲得競争が、自社の成功を左右する可能性がある」と認識しています。79%のCEOが、「AIの登場によって、従業員の育成・研修のあり方を見直すことになった」と回答しています。71%が「将来有望な人材の維持とスキル向上」に注力しており、61%は「AIや広範なテクノロジースキルを持つ新たな人材の採用」に積極的です。

この移行期において従業員を巻き込むことは極めて重要ですが、CEOはそのためには集中した取組みと支援が必要であることも認識しています。63%が「AIが企業文化に与える影響を懸念している」と答えており、さらに3分の1(33%)は、「一部の従業員が新技術の導入や変化への適応に消極的であることが課題である」と認識しています。

経営者たちが人材に関して懸念している要素は、AIだけではありません。労働市場の変化や人口動態の変化―特に高齢化―は、88%のCEOが、採用・定着・企業文化に中程度~大きな影響を与えると考えています。約3割(30%)のCEOは、将来必要とされるスキルに関して世代間ギャップが拡大していることを懸念しており、4人に1人(24%)は、退職する従業員の増加と、それを補うスキルを持った人材の不足を懸念しています。このように、多世代が共存する職場のマネジメントは、新たな戦略課題となっています。

AIを日々の業務で活用する最前線にいるのは人材であることから、必要なスキルの習得支援や研修の強化は、非常に重要な焦点となっています。同時に、AIスキルを持つ人材の獲得競争は今後さらに激化すると見られています。このようななかで、人を中心に据えた魅力的な従業員価値提案(EVP)が引き続き重要な鍵となります。なぜなら、人材を惹きつけるのは「人間的な要素」だからです。そして、この価値提案を世代間で広がる多様な価値観に響かせることも、CEOや人事責任者たちが直面している重要な課題となっています。複雑化する世界において、これはますます戦略的な対応が求められるテーマです。

Sandy Torchia
Global Co-Head of People
KPMGインターナショナル

ESG

目標達成に向けたCEOの自信が高まっている

ESG

CEOは引き続きサステナビリティへの強いコミットメントを示しています。地域によってESGに対する姿勢は異なるものの、大多数のCEOは依然としてサステナビリティ目標に熱心に取り組んでおり、その達成に対する自信も高まっています。特に、61%のCEOが「2030年のネットゼロ目標に向けて順調に進んでいる」と回答しており、これは1年前の51%から大きく上昇しています。この背景には、企業が気候変動に関する目標を見直し、より現実的かつ自社の中核戦略と整合性のある形に再設定していることがあると考えられます。

ネットゼロや、同様の目標達成に向けた最大の障壁として、CEOはサプライチェーンの脱炭素化の複雑さ(25%)、および解決策を効果的に実行するためのスキルや専門知識の不足(21%)を挙げています。一方で、コストは比較的小さな課題と見なされており、1年前とほぼ同水準の、11%のCEOが懸念を示すにとどまっています。

また、AIが脱炭素化やサステナビリティの取組みを支援することに対する期待も高まっており、以下のような場面で期待が寄せられています。

  • サステナビリティ関連のデータ品質と報告の改善(79%)
  • 資源効率化の機会の特定(79%)
  • 排出量の削減とエネルギー効率の改善(78%) 

困難なマクロ経済環境にもかかわらず、CEOたちがESG課題に引き続き力強く取り組んでいることに、私は勇気づけられています。ネットゼロに対する自信の高まりは前向きなシグナルであり、脱炭素化という共通の目標達成に向けた勢いを生み出す可能性があります。 CEOは地域社会との連携を引き続き重要視していますが、そのアプローチはより繊細で複雑になりつつあります。83%のCEOが、「政治情勢の変化、紛争、そして気候変動が地域社会に与える短期・長期の影響に対応するためには、地方分権的なアプローチと中央集権的なアプローチのバランスがますます重要になっている」と認識しています。

John McCalla-Leacy
Head of Global ESG
KPMGインターナショナル

「KPMGグローバルCEO調査2025」について

11回目となる今回の「KPMGグローバルCEO調査2025」は、2025年8月5日から9月10日に企業の経営者1,350人を対象に実施し、経済およびビジネスの展望、今後の経営戦略などについて調査しました。

年間売上5億米ドル以上の企業を対象とし、3分の1は年間売上が100億米ドルを超えています。本調査は、主要11ヵ国(オーストラリア、カナダ、 中国、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、スペイン、英国、米国)と12の業界(資産運用、自動車、銀行、消費者・小売、エネルギー、医療、インフラ、保険、ライフサイエンス、製造、テクノロジー、通信)の企業経営者を対象としています。

注:四捨五入のため、数字の合計が100%にならない場合があります。