近年、多くの不正・不祥事が発覚していますが、類似事例が頻発するような失敗事例が少なくありません。多くの失敗事例には、一定の共通項があります。そこで、本記事では、多くの不正・不祥事の事例にみられる共通の問題・課題とその原因・背景とともに平時から必要な取組みを解説します。

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不正・不祥事の発覚時にありがちな問題・課題

不正・不祥事の発覚時にありがちな問題・課題として、下記の6点を挙げることができます。

1つ目は、発覚直後は事態を軽く見て、後で重大さに気付くことです。不正・不祥事の発覚直後は、得られる情報も断片的なことが多いことから、「大したことがないだろう」「上への報告は後で大丈夫」等の認識をしてしまいがちなケースが少なくありません。

2つ目は、必要以上に過剰反応してしまうことです。冷静な判断をしないまま「世間で騒がれている」「他でも問題視されている」等の認識から主体的なリスク評価をしないで、必要以上の反応をしてしまいがちなことです。例えば、拡散可能性や危害度のない「特定・ごく少数の機微情報を含まない個人情報の紛失」「特定製品で特定先向け製品で安全・品質に影響を与えない故意ではない品質データ誤り」のようなケースでも第三者委員会等の設置ありきで行動するケースも見受けられます。

3点目は、調査の遅延や制約が生じて、適時かつ十分な調査ができないことです。不正・不祥事の迅速な事実調査ができないケースは非常に多い他、不正行為者の調査の協力が得られない(拒否されても対抗できない)ようなケースも見受けられます。

4つ目は、不正調査に莫大なコストがかかることです。主体的なリスク評価等による絞り込みをしないで、外部(第三者)に不正調査を丸投げのような形で依頼してしまい、膨大な範囲の調査を行うことで、結果的に膨大な調査費用となるケースも少なくありません。

5つ目は、不正・不祥事の発覚後の説明の拙さで、社会的な批判を招いてしまうことです。特に、お詫びすること以外に説明責任を十分に認識しないまま、社会部の記者からのいじわるな質問に感情的に対応してしまうケースも見受けられます。

6つ目は、過去にも発覚した同じような不正・不祥事が再発・頻発してしまうことです。この場合には、過去の再発防止策がきちんと行われていなかったのではないかという疑問が生じることは当然です。

不正・不祥事の発覚時に生じる問題・課題の原因・背景

(1)リスクシナリオの想定力の欠如

リスクが発現すると様々なシナリオを経て重大化することが通常です。不正・不祥事の発覚直後の状況では、断片的情報しか得られません。このような場合、少ない情報の中で最悪の事態となり得るシナリオを想定して、最悪の事態に備えることが必要です、「風が吹けば桶屋が儲かる」的な想定力がないと危機管理はできません。

(2) 重要性の判断基準の欠如

社会的な批判・組織管理責任が問われる、基本的な基準は「被害が外部に広く拡散する可能性の有無」「危害度の重大さの程度」「公正さの有無」です。具体的には、「人命・健康・安全の懸念」「財産・権利の侵害」「不公平・不公正な行為による明らかな法令・倫理違反」「会社財産の莫大な損害」「ネガティブ情報の外部露見」などのケースは重大な不正・不祥事になり得るといえます。重要性の判断基準を組織として明確に共有せず、個人の判断に任せてしまったケースが多くの失敗事例の共通項です。

(3)不正・不祥事の対応に備えた危機管理の備えがない

自然災害等のBCPはあっても、不正・不祥事対応の危機管理体制が未確立であるケースはい意外と多いです。重大な不正・不祥事が発覚した際の対策本部の設置判断、時系列別の対策、対策本部の判断基準・運営要綱などが文書化され、訓練されていないケースは多いように感じます。

(4)不正調査に必要な証拠データの未把握

不正・不祥事の事実調査に必要な証拠データの確保や検索が自前ではで着ないケースが少なくありません。その結果、外部(第三者)に調査を丸投げすることになり、データ保全等にも相当の工数がかかるケースが多々見受けられます。これおは、丸投げされた不正調査担当の側からすると、保守的に広範囲のデータを取得しないと安心できないということもあり、前述したような調査費用の高まりにつながります。

(5)危機広報ノウハウの欠如

不正・不祥事の発覚後の説明責任を果たす際に、危機広報マニュアルが未整備で、メディアへの説明の仕方が拙いケースは少なくありません。例えば、統一した立場・考え方・方針を明確にしないまま、多くのQ&Aの作成に走り、想定していない質問に窮する場面は多くの事案で見受けられます。現時点での自社としての立場・考え方等の「ポジション」を明確にして、多様な質問にも対応するための「ポジションノート」の作成の重要性を知らない人は意外と多いように思われます。

(6)原因分析(真因を探る「なぜなぜ分析」)をしないまま安易な対策に終始

不正・不祥事の原因を「コンプライアンス意識の低さ」だけに終始させ、再発防止策は「研修」「チェック強化」などの安易な対策を説明する事例は非常に多いように思います。このような再発防止は、持続可能でないことも多いようにも思われます。十分な原因を追求しないと、再発防止策も原因に見合っていないため、同じ原因を抱える他の拠点・事業の改善にもつながらず、同じような不正・不祥事が発生することにつながりかねません。

不正発覚時の円滑な対応のために平時から必要なこと

不正発覚時の円滑な対応のために平時から実施しておくべきこととして推奨する取組みとして、下記の6つの取組みを推奨したいと思います。

1. リスク評価演習の拡充

リスク評価の「影響度」の評価は、最悪のシナリオを想定して、影響度の大小を評価することが基本となります。そのため、リスク評価を行う際には、必ずリスクシナリオの想定を行うことが基本です。この場合、想定される不正・不祥事が発覚した際に、主なステークホルダーがどのように反応するか想定することからスタートする、複数の関係者が参加したグループワークでの演習などを行うことが望まれます。

2. 重要性判断基準の明確化と共通化

人事処分、内部通報、インシデント報告、事故報告、ヒヤリハット報告など、様々な「異例報告制度」に共通する重要性の判断基準を明確にして、各種報告で具体化することが必要です。そして、その重要性判断基準はグループで共通の基準とすることが肝要です。人により重要性の判断が異なることは避けなければなりません。

3. 重要な不正・不祥事の対応のための危機管理体制

外部専門家が提供するBCPの雛形ではなく、不正・不祥事対応にも対応できる危機管理の基本規程・基準の他、対策本部の設置判断、時系列別での対策本部の判断基準・運営要綱(対策本部の事務局関係者の個人レベルでの行動基準を含む)などの文書化を行い、関係者で演習することが肝要です。

4. 主要データの状況の把握と取り出しの演習

会計システム、受発注システム、電子メールなどの各種のデータのアーカイブデータの保存状況、保存期間、区分管理、保存媒体などの状況を把握し、いざという時に必要な範囲のデータを適時に取り出せるか検証してくことが必要です。このようなデータの保存状況の確認作業を不正発覚時に外部に委託することは高額な費用につながることを覚悟しなければなりません。

5. 危機広報マニュアルの整備

前述した危機管理の運営要綱とともに、危機広報マニュアルを整備し、その訓練の過程で「ポジションノート」の作成の演習を行うことが有効です。また、お詫び広告等の文書雛型は複数パターンは準備しておくことも有効です。そして、不正等の際の記者会見のスポークスマンは、社長ありきというよりも、社会部の記者から責められも「我慢強い人」がお勧めといえます。

6. 原因分析(真因を探る「なぜなぜ分析」)に基づく再発防止策の検討の徹底

原因に見合った再発防止策の検討・実行を徹底することが不可欠です。この再発防止策には、「当面の対策」と「抜本的な対策」をうまく使い分けることが肝要です。重大な不正・不祥事ほど、短期間で改善することはありません。再発防止策は、すぐに「済」マークをつけたがる気持ちはわかりますが、ぐっと我慢して再発防止策が日常業務で定例化して、持続可能な対策になったことを見届ける姿勢が肝要です。

このように6つの取組みを説明しましたが、不正・不祥事が発覚した企業について、社会的な批判が高まるケースとそうではないケースとを対比して考察すると、その重要性がより理解できると思います。

社会的な批判が高まるケースの1つ目は、責任の所在が不明確なケースです。経営層がペナルティを受けないケースやすぐに経営層が辞職して拙速に収束を図ろうとするケースが典型例です。2つ目は、定着化させるための取組み(リスク管理・コンプライアンス活動)を未検討・未実施のケースです。ただし、経営管理・事業管理等とかけ離れたリスク管理・コンプライアンス活動に終始した場合、例えば押込み販売の会計不正の真因が「商品力の弱さ」にある場合、再び無理な販売に起因する不祥事が再発する可能性があり、形だけのコンプライアンス活動では解決は難しいようなケースです。3つ目は、真因を追究しないまま定番の再発防止策(教育、通報、監査等)するも再発するケースです。この他、実行不可能な背伸びしすぎた再発防止策や外部の知見がないまま内部で再発防止策を考案した場合にも批判が集まることもあります。

逆に、社会的批判がほぼなくなったケースの1つ目は、経営層が早期にペナルティを受ける等、責任の所在を明確化したケースです。2つ目は再発防止策の公表後に緊張感持った定着化対策として、リスク管理・コンプライアンス活動を継続・実行したケースです。この場合、経営管理・事業管理等と一体化したリスク管理・コンプライアンス活動がより有効です。なお、「商品力が弱い」場合には、形だけのリスク・コンプライアンス活動だけでは不十分で、商品力を高める、あるいは事案に係る事業を撤退するという選択肢も検討していくことが必要といえます。3つ目は、真因に見合った再発防止策を徹底したケースです。再発防止力が高まると、事案が起きても早期対応が可能になります。そして、事案に関する対策を契機に、組織全体でのリスク管理・コンプライアンス活動の取組みでリスク管理能力を高めていくことが理想です。

最後に

不正・不祥事は、発覚した企業やその関係者を不幸に陥れる事態ですが、不正・不祥事を起こしてしまった本人も不幸に陥ることになります。人間には誰しも出来心があります。人に罪を作らせないためには、不正をしようとしても不正ができない仕組みにしておけば、人が罪に陥いることにはならないはずです。特に、株式会社は他者の資本を預かり商売する組織ですので、常に説明責任が生じます。性善説・性悪説を超えて、組織的な不正対策を講じることが必須であると理解すべきです。

また、緊急時対応は、平時の準備で勝負の8割は決まるといわれています。平時から重大な不正・不祥事が発覚した際の備えをしてくことが必要です。

そして、繰り返しとなりますが、再発防止策の基本は「原因に見合った対策」が基本となります。そして、再発防止策は日常業務にまで定着化させることがかんようですが、併せて業務負荷の軽減が必要となることが多いことに注意すべきです。今の多くの企業の現場は疲弊しがちです。現在の業務状況に再発防止策を追加するだけでは持続可能にはなりません。現在の業務のムリ無駄をなくしつつ、新たな有効な再発防止策を導入することが肝要です。業務負荷の軽減を目指した持続可能な再発防止策を追求する姿勢が肝要です。

解説動画

【解説動画】 有事対応の勘所
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