2025年7月、米国の関税措置に関する日米協議の結果、日本への輸入に関して非関税措置の見直しが実施されることとなりました。具体的には、「(1)日本の交通環境においても安全な、米国メーカー製の乗用車を、追加試験なく輸入可能とする」「(2)クリーンエネルギー自動車(CEV)導入促進補助金の運用に関して適切な見直しを行う」という2点が含まれています。

これらの制度改定は、世界第4位の新車販売市場である日本での米国メーカーの販売障壁を緩和し、輸入拡大の可能性を高めることを目的としています。とはいえ、現状の新車販売シェアが1%未満※1に留まる米国メーカーが、当該制度の改定のみで大幅に販売を伸ばせるかは疑わしく、乗り越えるべき課題が他にも多くあることは明らかです。

非関税措置の見直しの影響

(1)追加試験の免除によって、米国メーカーは数ヵ月以上にわたる試験準備から型式認証受領までのプロセスを短縮できるため、新型車の市場導入が迅速化できます。また、少ない販売台数では回収が難しかった追加試験費用を低減できるため、日本に導入するモデルのラインナップ拡充も可能になるでしょう。さらに、グローバル共通の仕様が増え、開発や生産等の合理化が図れるだけでなく、不具合の早期発見・対応も可能になるため、米国メーカーにとっては大きなメリットであると言えます。ただし、日本の消費者ニーズや交通環境に合わせた商品開発が引き続き求められることには変わりなく、制度改定による恩恵をどのように消費者へ還元し、ブランドの存在感を高められるかは、各メーカーの戦略次第と思われます。

(2)クリーンエネルギー自動車(CEV)導入促進補助金の運用見直しにより、BEV/PHEVに対する補助金が増額される場合、近年それらのモデルのラインナップを増やしてきた米国メーカーにとっては追い風になるかもしれません。しかし、補助金の対象が米国メーカーの乗用車に限定されるとは限らず、他の地域のブランドも含めたBEV/PHEVの競争激化へ発展する可能性も否めません。加えて、直近の販売状況からも、日本の消費者のBEV/PHEVに対する購買意欲は停滞していることがわかっており、充電インフラの整備など消費者ニーズの解決にも同時に向き合っていく必要があります。一方で、販売台数が少ないFCV(2024年実績ベースでBEV/PHEV合計の約1%※2)の補助金が減額されるだけの制度改定であれば、BEV/PHEV販売への影響は限定的となるでしょう。

EV充電器の補助制度の見直しにも及ぶ場合は、北米基準であるNACS規格の充電器が補助対象になることが予想されています。それに伴い、新たな充電器メーカーの参入などが進めば、充電インフラの拡充につながることが期待できます。また、すでにNACS規格への準備を進めている日本の自動車メーカー等にとっても、グローバルでの充電仕様共通化などのメリットを享受できることになるかもしれません。

【想定される非関税措置の見直しの影響】

<見直し項目1:追加試験の免除>

米国乗用車メーカー 他国メーカーへの影響など
影響 新たな戦略課題
  • 新型車導入のリードタイム・コスト低減
  • グローバル仕様共通化による、開発・生産・部品管理・アフターサービス等の合理化、および不具合の早期発見・対応 など
  • 早期新型車導入やラインナップ拡充など、消費者へのメリット還元
  • 本社のグローバル戦略への反映 など
  • 将来、米国メーカー以外にも当優遇が拡大する可能性

<見直し項目2:クリーンエネルギー自動車(CEV)導入促進補助金の運用見直し>

  米国乗用車メーカー 他国メーカーへの影響など
影響 新たな戦略課題
BEV/PHEVの補助金が増額の場合
  • BEV/PHEV販売機会の増大
  • BEV/PHEV競争力強化
  • 充電インフラ整備等の消費者ニーズ対応 など
     
  • 他国メーカーのBEV/PHEV販売機会増にも及ぶ可能性
FCVの補助金が減額の場合
  • ほぼなし
  • 特になし
  • FCVの販売減の可能性
EV充電器補助制度見直しの場合
  • NACS規格充電器の普及に伴い、北米との充電仕様共通化が可能となり、開発等を合理化 など
  • 米国内の充電ネットワークの日本展開等による、消費者へのメリット還元 など
  • NACS規格の充電器販売の機会増大の可能性
  • 充電インフラ拡充が進む可能性

以上のように、非関税措置の見直しは米国メーカーの日本市場での販売を後押しするものだと考えられますが、同時に他国メーカーへも影響が及び、取り巻く競争環境が変わるきっかけになる可能性を秘めています。そのため、米国メーカーは、今回の制度改定による恩恵をどのように消費者へ伝え、競争力を高めていくかなど、戦略的な対応を迅速に進めていくことが求められています。

次回では、非関税措置以外の米国メーカーの日本での販売拡大に向けた課題について掘り下げます。

※1、2:一般社団法人 日本自動車販売協会連合会や日本自動車輸入組合の情報を参照し、KPMGにて算出

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 大熊 恒平

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