あらゆるクラウド製品にBusiness AIを導入し、ビジネスでの競争力強化やデータドリブン経営の実現を支援するSAPと、単なるシステム刷新ではなく、業務プロセスの見直しを大前提とした業務変革を提供するKPMGコンサルティング。この両社が2024年4月、日本市場におけるアライアンスを締結し、「AIファースト」の業務変革を支援する体制を確立した。両社のシナジーが日本のエンタープライズの変革をいかに後押しできるのか、キーパーソンたちに訊いた。

【インタビュイー】

SAPジャパン
常務執行役員 最高事業責任者 堀川 嘉朗 氏

KPMGコンサルティング
執行役員 エンタープライズソリューション SAP統轄パートナー 黒木 真人

 なぜAI革新に標準化は不可欠?その理由とは_写真1

クラウドのメリットを最大限活用、目指すべきゴールとは

国際政治・経済情勢の目まぐるしい変化や、テクノロジーの驚異的な進化と共に、企業の“変化対応力”はますます重要になっている。その認識はすでに浸透しており、これからの時代に生き残るには柔軟でアジャイルな経営が欠かせないと考える企業は着実に増えている。

これを裏付けるのが、クラウド化の進捗だ。ビジネスを支える基幹システムにおいてもクラウド化は進んでおり、SAP製品を利用している日本のユーザー企業が組織する「ジャパンSAPユーザーグループ」の調査によると、ERP(統合基幹業務システム)としてクラウドベースのSAP S/4 HANA(R)Cloudを使用しているユーザーは2024年時点で全体の43.7%、導入中・検討中の企業も合わせると全体の90.5%に上るという。

「クラウド化があたりまえになった今、そこで問われるのは、クラウド化によって『何をしたい』という目的を明確にできているか、ということです。決して既存のシステムを刷新することがゴールではなく、クラウドのメリットを生かしながら、変化に柔軟に対応できる業務体制をいかに確立するかが重要です」と語るのは、SAPジャパンの堀川嘉朗氏である。

SAPジャパン 堀川氏

SAPジャパン 堀川氏

KPMGコンサルティングの黒木真人は、こう語る。

そもそもトランスフォーメーションとは、「何かを変える」ことだ。「目の前の課題を見据え、『なぜ』『何を』『どのように』変えるかを関連付けながら考えなければ、目的を見失ってしまう恐れがあります。さらに、課題を見極め、解決策を導く思考や行動を促していくという点で言えば、DXは人の“意識変革”や“行動変容”も重要です」(黒木)

DXが掛け声だけに終わったり、思うように成果を上げられなかったりする企業も少なくない。

クラウド化されたシステムは、従来のオンプレミスのシステムに比べて短期間で導入できることや、3ヵ月や半年といった頻度でアップデートできることが大きなメリットである。ビジネスの環境が激動する今、その波に取り残されないように自らの業務体制を変えていくためには、アジャイルな機能追加や、継続的な業務プロセスの改善ができるクラウドのメリットをいかに活用するかが問われている。

 「より上位の概念で考えると、クラウド化を含むDX(デジタルトランスフォーメーション)自体も、目的があやふやな状態で取り組んでいる企業が少なくありません」

KPMG 黒木

KPMG 黒木

この点について、堀川氏と黒木が共に提言するのは「社内の業務を競争領域と協調領域に分けてデジタル化を進めること」

競争領域とは文字通り、伝統的に競合やディスラプターに対して優位性が問われる業務領域だ。この部分については、「ビジネスを成長させるために、最新のデジタル技術を駆使しながら、部門ごとに独自のデータ利活用の仕組みや業務プロセスを徹底追求していくべきです」と堀川氏は語る。

一方、協調領域では、企業や業界の枠を超えた標準化が重要だと堀川氏は話す。たとえば業務プロセスの改善のために、わざわざリソースを割いて独自性を発揮する必要はないだろう。

「協調領域では、いかに円滑にデータのやり取りが行われ、無駄な作業を介在させることなく、業務プロセスを短縮できるかが求められます。その仕組みを短期間で構築するうえで、SAPが提唱するのがFit to Standardです」(堀川氏)

標準化に対する懸念、押さえるべき前提条件とは

SAPが提唱するFit to Standardとは、S/4 HANA CloudをはじめとするSAPのシステム導入において、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせていくアプローチだ。システムをカスタマイズしたり、アドオン開発をしたりする従来的な方法ではなく、業務をシステムの標準機能に最適化していく考え方である。

「SAPは過去50年以上にわたる優良企業へのソリューション提供で得た標準化の知見やノウハウを蓄積しています。当社製品は、そのベストプラクティスに則った標準機能を搭載しているので、これに合わせて業務プロセスを変革すれば、おのずと最適化された業務のあり方が実現可能です」(堀川氏)

一方、Fit to Standardと聞いて、「本当にできるのか」と、懸念を抱く人も少なくない。ここで肝心なのが、先の競争領域と協調領域をいかに明確に区分するかということだ。

「標準化すべき部分は徹底的にすべきですが、すべてに当てはめる必要はありません。競争領域で無理に標準化を進めれば、逆にシステムでは処理できない作業を手作業で行うといった無駄な作業が生じることもあるでしょう。システムの刷新を行う前に、標準化すべき範囲と、そうでない範囲をしっかりと分ける必要があります」

KPMGコンサルティングの黒木は、こうアドバイスする。

そうした適用範囲の区分や、競争領域と協調領域、それぞれに最適化されたシステム構成の青写真づくりまで支援するのが、KPMGコンサルティングのDXソリューションである「KPMG Powered Enterprise」だ。ただしこれは、単に企業のシステム導入を支援するためだけのソリューションではない。

「最終的なゴールとして目指すのは、業務変革です。最初からシステム導入ありきではなく、KPMGコンサルティング独自の『KPMG Target Operating Model』(TOM:業務改革・DX検討時の模範解答となる標準業務モデル)に基づいて設計します。TOMによって包括的な観点から業務変革やDX推進が可能です」(黒木)

TOMは業務プロセス、人材、サービス提供モデル、テクノロジー、パフォーマンス・インサイト&データ、ガバナンスの6項目で構成されている。TOMには目指すべきオペレーティングモデルが定義されており、KPMGコンサルティングが持つ業界への知見との掛け合わせによって、変革を求める企業のビジネスに伴走することが可能だという。

【KPMG Target Operating Model(TOM)~模範解答となる標準業務モデル】

なぜAI革新に標準化は不可欠?その理由とは_図表1
業務プロセス 先進事例・内部統制などを考慮して最適化された業務機能一覧やプロセスフロー
人材 目指すべき業務プロセスを運用するうえで必要となる従業員のスキルセット、責任と権限など
サービス提供モデル 業務プロセスを最適に運用するための組織の構造や役割定義など
テクノロジー TOMを具現化するための、あるべきテクノロジーの全体構成など
パフォーマンス・インサイト&データ KPIと、それらをモニタリングするために必要なレポートやダッシュボード
ガバナンス 業務プロセスに存在するリスクとそれらに対する統制活動(規程・承認ルールなど)

システム導入ありきではなく、業務変革を支援するという考えは、SAPの思想にも通じるものがある。

「SAPでは、お客様の『会社としてのありたい姿』や『大義名分』を『北極星』と呼んでおり、それを目指すための要素として、『組織』『プロセス/ルール』『人』『データ』『システム(IT)』を五位一体として、最適化のご支援をしたいと考えています。KPMGコンサルティングのアプローチは、この当社の考え方と非常に親和性が高く、両社がケーパビリティを融合させれば、お客様の業務改革やDXの成果を最大化する価値が創出できると確信しています」とSAPジャパンの堀川氏は語る。

図表_2

最後発ならではの柔軟性、新製品やソリューションを積極導入

AIを活用するうえでは、意思決定に必要なデータはもちろん、業務プロセスを属人化させることなく見える化し、標準化すべき業務範囲はきちんと標準化することが不可欠だと、堀川氏と黒木は口をそろえる。この前提があってこそ、AIを最大限活用した革新的な業務変革において、SAPの五位一体のアプローチ、KPMGコンサルティングが持つ“模範解答”であるTOMが生きてくる。

顧客企業の業務変革やDXに対する思いを1つにする両社は、2024年4月、正式にアライアンスを締結した。KPMGコンサルティングがSAP PartnerEdgeプログラムに参加し、SAPのサービスパートナーとして、同社製品の戦略的コンサルティング、システム設計、ソリューション統合などのサービスを提供する。

SAPジャパンの堀川氏は、「当社は日本で33年にわたって事業を展開しており、支えてくださるパートナー企業は500社近くに上ります。KPMGコンサルティングは最も新しいサービスパートナーですが、だからこそ、今の時代に合ったご提案をしていただけるのではないかと期待しています」と語る。

SAPの製品や、その導入方法、活用方法は、常に進化している。SAPでは、2024年を「ビジネスAI元年」と位置付け、同社のすべてのクラウド製品にBusiness AIを導入してきた。「Joule(ジュール)」はSAPクラウドソリューションのすべてに標準で実装され、ビジネスを正しく理解しているアシスタントとして、一般的なAIチャットbotとは一線を画すユーザー体験を提供する。

さらに2025年には、「AIエージェント」のリリースも予定している。AIエージェントは個別のタスクを処理するだけではなく、目標に向かって課題を解決するタスクを自身で計画し、さらにAIエージェント同士で協調して、自律的に実行される。

堀川氏は、「SAPは、世界有数のビジネスアプリケーションと、比類ないビジネスデータ、そして最新のAI技術を組み合わせることで、お客様のビジネス変革をさらに加速させていきます」と語った。

なおKPMGコンサルティングでは、こうしたSAPの新しい製品やソリューションを、自らも積極的に活用している。その1つが、システムの導入コンサルティングやデリバリーの生産性を上げる「SAP Joule for Consultants」だ。両社のアライアンス締結によりKPMGコンサルティングはJoule for Consultantsの早期アクセスプログラムに参加し、いち早く技術を使いこなしている。

「若手のコンサルタントがSAPの膨大な機能群の中から必要な機能や設定方法の情報を探し出す際だけでなく、ベテランコンサルタントの最新機能に関する知識習得など、作業の効率化や迅速化にとても役立っています」と黒木は話す。

堀川氏は「SAPの製品を提案するパートナー企業に、自らその使い勝手を体験してもらえるというのは非常にありがたいことです。お客様へのより良い提案につながることを期待しています」と語る。

黒木は、「KPMGコンサルティングはSAPのサービスパートナーとしては最後発ですが、業務変革に徹底的にこだわった支援、さらには当社のリスクコンサルティングや先端技術を検証するチームなど、専門性を持ったプロフェッショナルが一丸となり、新たな価値をお客様に提供していきます」と抱負を語る。

左からSAPジャパン 堀川氏、KPMG 黒木

左からSAPジャパン 堀川氏、KPMG 黒木

KPMGコンサルティングはSAPソリューション全般を活用し、企業の業務変革やデジタル変革を包括的に推進していきます。

※SAP、SAPロゴ、記載されているすべてのSAP製品およびサービス名はドイツにあるSAP SEやその他世界各国における登録商標または商標です。またその他の商標情報および通知については、こちらをご覧ください。

※本記事は、2025年6月20日に掲載された『日経ビジネス電子版タイアップ』の記事を転載したものです。転載にあたり、許可を得て一部を編集しています。

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