本連載は、時事通信社発行『地方行政』(2025年6月19日号)に掲載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままであり、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。

はじめに:若い世代の所得の増加

 「こども未来戦略」(2023年12月22日閣議決定)に基づき、次元の異なる少子化対策が実施されています。

若者・子育て世代の所得の増加を重視し、こども家庭庁の予算の増額等が盛り込まれており、どのような世帯がどの程度の支援を受けるのかといった経済効果を分析することが必要です。そこで、次元の異なる少子化対策の経済効果を2回に分けて紹介することとし、前編となる本稿では若い世代の所得の増加に関する対策を取り上げます。

1.次元の異なる少子化対策の概要と経済効果の考え方

次元の異なる少子化対策とは、「こども未来戦略」(2023年12月22日閣議決定)で打ち出されたこども・子育て政策であり、少子化・人口減少が進んで持続的な経済成長が懸念されるなか、若年人口が急激に減少する2030年代に入る前に少子化トレンドの反転を目指しています。

次元の異なる少子化対策では、若者・子育て世代の所得の増加を重視し、(I)構造的賃上げ等と併せて経済的支援を充実させ、若い世代の所得を増やすこと(若い世代の所得の増加)と(II)社会全体の構造や意識を変えること(社会全体の構造・意識の変化)、(III)全てのこども・子育て世帯をライフステージに応じて切れ目なく支援すること(切れ目のない支援)を基本理念としています。次元の異なる少子化対策を通じて、こども家庭庁の予算は2022年度の4.7兆円から約5割増加することが見込まれています。

そこで、本稿では、次元の異なる少子化対策から次を取り上げて、結果が公表されている最新の「2019年全国家計構造調査」(総務省)を活用し、世帯の属性ごとに対する支援の2019年から2030年への変化を推計して経済効果を分析します。今回は、次元の異なる少子化対策の(I)若い世代の所得の増加に関する対策を取り上げます(図表1)。

【図表1:次元の異なる少子化対策の基本理念と主な対策】

若い世代の所得の増加_図表1

出所:KPMG作成

2.若い世代の所得の増加に関する対策の経済効果の分析

(1)児童手当

児童手当とは、家庭等の生活の安定と児童の健やかな成長の支援のため、中学校卒業(15歳)までの児童を養育している者に所得制限を設定して年3回に分けて支給していたものです。次元の異なる少子化対策として、2024年10月、児童第3子以降への支給額は月額3万円に引き上げられ、所得制限も撤廃されました。2024年12月から支給が開始されています(図表2)。

【図表2:児童手当の支給額の変化】

若い世代の所得の増加_図表2

出所:「児童手当制度のご案内」(こども家庭庁ホームページ)を基にKPMG作成

児童手当による支援は2019年は2兆3950億円となり、2030年には現在の支給額から3920億円(16.4%)増の2兆7870億円になると見込まれます(図表3)。児童手当の支援を受ける世帯主の年齢は、「35~39歳」(21.8%)、「40 ~44歳」(25.2%)、「45~49歳」(17.3%)が多くなっています。2030年には世帯主が「45~59歳」を中心に、2019年より支援が増加しています。これは、第3子や高校生といった手当の対象となる子どもの増加等が要因であると考えられます。

【図表3:世帯の属性ごとの児童手当による支援】

若い世代の所得の増加_図表3

出所:「2019年全国家計構造調査」(総務省)を基にKPMG作成

(2)児童扶養手当

児童扶養手当とは、父・母と生計を同じくしていない児童の家庭の生活の安定と自立の促進のため、該当する児童について、所得制限限度額を設定して児童扶養手当を支給するものです。
児童扶養手当による支援は2019年には3490億円であり、対象となる児童の減少によって2030年には2960億円と530億円(15.2%)減少すると見込まれます(図表4)。

児童扶養手当の支援を受ける世帯は、世帯主が「女性」で、「35~39歳」「40~44歳」「45~49歳」の「ひとり親と子から成る世帯」が多くなっており、児童扶養手当は主に「35~49歳」のシングルマザーの世帯を支援していることがわかります。

【図表4:世帯の属性ごとの児童扶養手当による支援】

若い世代の所得の増加_図表4

出所:「2019年全国家計構造調査」(総務省)を基にKPMG作成

(3)出産・子育て応援交付金

出産・子育て応援交付金とは、妊娠届け出や出生届け出を行った妊婦等に対し、出産育児関連用品の購入費助成や子育て支援サービスの利用負担軽減を図る経済的支援(10万円相当)を行うものであり、2023年から導入されています。
 
出産・子育て応援交付金は、2023年から実施されているため、2019年には0であり、2030年で2480億円と見込まれます(図表5)。出産・子育て応援交付金の支援を受ける世帯は、世帯主が「25~29歳」「30~34歳」「35~39歳」が中心であり、これらの合計で72.9%を占めています。出産・子育て応援交付金は、主に若い子育て世帯を支援していることがわかります。

【図表5:世帯の属性ごとの出産・子育て応援交付金による支援】

若い世代の所得の増加_図表5

出所:「2019年全国家計構造調査」(総務省)を基にKPMG作成

(4)出産育児一時金

出産育児一時金とは、国民健康保険加入者が出産したとき世帯主に支給されるものであり、2023年以降42万円から50万円に増額されています。出産育児一時金による支援は2019年は3530億円であり、2030年には増額によって3950億円と420億円(11.9%)増加すると見込まれます(図表6)。出産育児一時金の支援を受ける世帯は、世帯主が「25~39歳」が中心であり、出産・子育て応援交付金と同様に、出産育児一時金は主に若い子育て世帯を支援していることがわかります。   

【図表6:世帯の属性ごとの出産育児一時金による支援】

若い世代の所得の増加_図表6

出所:「2019年全国家計構造調査」(総務省)を基にKPMG作成

3.まとめ

2章から、次元の異なる少子化対策の若い世代の所得の増加に関する対策の経済効果では、対象となる児童が減少する児童扶養手当を除き、2019年と比べて拡充・所得制限が撤廃された児童手当と出産育児一時金、新規に導入された出産・子育て応援交付金では、2030年の支援は増加する見込みであることがわかります。

児童手当は規模が大きいほか、第3子や高校生といった対象となるこどもの増加や年齢の上昇等によって、年齢が高い子育て世帯への支援が増えます。また、出産・子育て応援交付金と出産育児一時金は、主に若い子育て世帯を支援しています。

最新の「令和6年全国家計構造調査」は、2025年12月以降に公表される予定です。次元の異なる少子化対策の若い世代の所得の増加に関する対策の経済効果は、この調査結果が公表されたら、アップデートして再度分析することが望まれます。

後編では、「社会全体の構造・意識の変化」と「切れ目のない支援」を取り上げます。

時事通信社発行『地方行政』(2025年6月19日号)掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、時事通信社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。

執筆者

KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 坂野 成俊

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