このたび、世界のエネルギー市場とエネルギートランジションの動向を概観する年次統計資料である「Statistical Review of World Energy 2025年版」が公開されました。本資料は、英国のThe Energy Instituteが70年以上にわたり発行している歴史ある年次統計であり、前年における世界のエネルギー消費・生産・取引・排出量に関する最新データを、包括的かつ無償で提供しています。
KPMGは、Kearneyとともに共同作成者として参画しており、今回の統計では、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大や低炭素化の進展によるエネルギーミックスの変化に加え、資源供給や政治的リスクといった地政学的要因も分析しています。事業計画やシナリオの策定、事業機会の把握やサプライチェーン上のリスク評価などにご活用ください。
2025年版のハイライト
1. 拡大し続ける世界のエネルギー需要、CO2排出量は4年連続で過去最高値を更新
2024年には、エネルギー効率が頭打ちとなった一方で、世界のエネルギー需要はすべてのエネルギー源で拡大し合計約2%増加した結果、CO2排出量は前年比で約1%増加し、4年連続で過去最高を更新しました。
2. 地政学的情勢を背景としたエネルギー取引の再構築
2024年には、地政学的リスクや市場リスクの高まりを背景に、各国がエネルギー安全保障の観点からLNGと再エネの双方を強化し、エネルギー取引や流通の見直しが進みました。
3. 石油:構造的な需要は頭打ち(ピークオイル)か
2024年における世界の石油需要は、依然としてエネルギー全体の34%を占め、前年比で微増(+0.6%)したものの、長期・構造的には需要成長の鈍化、もしくは減少(ピークオイル)へと転じる可能性が高まっています。
4. 天然ガス:再エネと並ぶ主力エネルギーへ進化
2024年、天然ガスの消費量は過去最高を記録し、エネルギー安全保障の強化や、再エネと共存可能な柔軟で低炭素なエネルギー源としての地位を一層強めました。
5. 石炭:高い競争力と供給安定性を備え、アジア新興国での需要は大幅拡大
2024年、石炭は地政学的リスクや供給安定性への配慮から再評価され、中国やインドをはじめとするアジア太平洋地域で、依然として堅調な需要が見られました。
6. 重要鉱物:中国が生産・埋蔵量ともに優位性を維持
レアアースやリチウムを含む重要鉱物の世界における生産量は拡大しているものの、中国がサプライチェーンの中核を占める構図に大きな変化は見られません。
7. バイオ燃料:アジア主導の成長と欧州の減退で地域差が拡大
2024年、世界のバイオ燃料需要は前年比3%増の日量220万バレル(Mboe/d)と過去最高値を更新した反面、地域ごとに成長の差が浮き彫りとなりました。
8. エネルギー由来の炭素排出量:中国とインドが世界排出増加の主因に
2024年の世界のGHG排出量は、中国とインドの影響が大きく、特に中国は全体の約3分の1を占めるなど、最大の排出国であり続けています。
9. 電力:急速な電化進展の一方で、供給インフラへの課題も顕在化
世界の電力需要は、再エネやEV、データセンターの拡大を背景に前年比4%増となり、エネルギー全体の需要増加を上回りました。これにより、将来の電化社会に向けた潮流が一層鮮明となっています。
10. 風力・太陽光発電:成長続くも、地域間格差と構造的制約がさらなる拡大の壁に
風力と太陽光は、2024年における世界の電力需要増加の8割以上を担う電源となったものの、中国主導の一極集中とインフラ・投資面の課題が、今後の持続的拡大の制約となる可能性が高いでしょう。
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