1.調査分析の限界

少子高齢化が及ぼす地方自治体への影響

2025年6月4日、厚生労働省は2024年の人口動態統計を発表した。出生数は2024年に68万6,061人と過去最低を更新し、合計特殊出生率は1.15へと低下した。70万人を割るのは、国立社会保障・人口問題研究所の想定より14年早い。日本の人口は2024年10月時点で1億2,380万人まで減少し、14年連続の減少となっている。この“急速な少子高齢化”は、医療・年金・介護の社会保障費を膨張させる一方、労働力人口を縮小させ、地方財政の持続性を脅かしている。

さらに、高齢化と都市部への人口集中により地方のインフラ維持が困難化し、公共交通の縮退、教育・医療サービスの空洞化が進む。自然災害リスクも複合的に高まっており、気候変動に伴う線状降水帯の頻発や大規模地震への備えは、限られた財源の中で同時解決を迫られる課題である。加えて、2025年度から本格化する地方自治体基幹業務システムの統一・標準化(ガバメントクラウド導入)も、人材・予算不足の自治体には大きな負荷となっている。

図表1:出生数および合計特殊出生率の年次推移

図表01

厚生労働省 『令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況』結果の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/dl/kekka.pdf)を基にKPMGジャパン作成

根拠に基づいた政策立案と、調査分析の限界

これらの複雑な政策課題に際し、求められるのはEBPM(Evidence-Based Policy Making)だ。定量・定性データを横断的に分析して効果を検証しながら機動的に政策を修正する仕組みであり、人口動態や医療レセプト、地域経済データなど多層的なビッグデータを連携・統合し、政策立案から実装、評価までを循環させるデータ駆動型ガバナンスへの転換が急務となっている。

その一方で、公共政策の立案では、従来国勢調査や各府省の統計調査など質問紙(紙・オンライン)を主体とした調査手法が主流となってきた。これら一般的な調査分析は、回答の記述分析(平均や相関など)に重点を置いているが、今日の複雑かつ多様な課題においては、十分な示唆が得られないこともある。加えて、社会的望ましさバイアスが強い政策テーマでは実態との乖離が拡大する傾向にある。

2. 調査プロジェクトをワンストップで実施できる意義

複雑な課題に対応する一気通貫の分析体制

こうした複雑かつ多層的な政策課題に対応するためには、EBPMの実効性を高める調査・分析体制の再構築が不可欠である。例えば、調査データを追加データソースでさらに補完し、高度な分析手法を駆使することで、より正確な予想を行うだけでなく、少子化解決に向けた適切な政策提言を行うことができる。また、従来の質問紙調査の限界を補完し、より迅速かつ精緻な意思決定を支えるには、調査設計からデータ収集・分析・調査フィードバックとフォローまでを一貫して行う仕組みが求められる。

KPMGではこのような複雑な課題解決に際し、従来の調査分析技術では得られなかった深い洞察を引き出すための、一気通貫の調査分析ソリューションを提供している(以下の通し番号は、図表2内の各項目番号に対応)。

  1. 研究目的に即した分析に求められる、綿密かつ検証性の高い調査設計を実施。
  2. クライアントの既存の社内、社外データやドメイン知識、目的に応じて取得した調査データなど複数のデータを組み合わせたることにより、構造化データ・非構造化データを問わず分析。
  3. 統計モデル、機械学習モデル(人工知能)、生成AI等、データの特性に応じた最適な手法を用いることで、データの間の複雑な依存関係を発見。
  4. 包括的な調査分析により、さまざまなシナリオでの将来のビジネス成果を予測することに加えて、推奨される最適なビジネスアクションを提案。

図表2:KPMGの包括的な調査分析シナリオ

図表02

示唆を踏まえた最適施策の導出

複数のデータソースを統合することで、調査回答と他のデータ間の複雑な関係が解き明かされ、より包括的な分析が可能となる。これにより、特定のマーケティング戦略による売上予測など、さまざまなシナリオにおける将来のビジネス成果を予測可能だ。さらに、推奨される行動を導き出し、より高い売上などにつながるビジネスアクションを特定することも可能となる。

さまざまな種類のデータに対応

また、さまざまな種類のデータに対し、分析技術として統計モデルや機械学習モデル、そして生成AIを活用する。売上や成長率といった数値データ、セグメントや製品名などのカテゴリデータ、顧客の嗜好や態度を示す順序尺度のほか、自由記述式の調査回答を構造化データに変換し、感情分析やトピックモデリング(調査回答からトピックを抽出し、回答をカテゴリデータ化)によって回答者の感情やトピックを抽出することも可能だ。

調査設計から示唆導出まで包括的かつ一貫した支援

加えて、調査において適切な結果を得るには、データ収集方法や分析手法を含む、調査設計そのものが極めて重要だ。KPMGでは、専門知識を有する担当者がクライアントのニーズを満たすよう、分析に必要なデータ収集方法を検討し、調査設計、データ収集、分析、示唆の導出からその後の実行までを一貫して支援する。これら幅広いデータと高度な調査分析技術を活用し、さまざまなシナリオに基づく将来予測や、最適な企業行動の提言を、視覚的に分かりやすいレポートによって提供している。

実績

KPMGアドバイザリーライトハウスの調査分析技術は公共セクターでも広く利用されている。各公的機関が所掌する公共政策の効果をさらに高めるための課題の特定と改善策の検討において、複雑で高度な分析を提供可能だ。調査結果は統計学の専門知識がなくても理解できるよう、視覚情報や補足情報を用いて分かりやすく報告される。クライアントはこれまで見落としていた観点からの洞察を得ることができ、課題に対してより有効な対策をとることが可能となっている。

もちろんこれらの分析技術は政策立案と公共セクターのみに限ったものではない。何を予測したいか、何を達成したいかに応じて、調査プロジェクトの設計を変えることで、さまざまな業種・機能に適用でき、業務改善の示唆を提供し得る。

3. まとめ

ビジネス課題を解決するには、調査回答の中に潜む複雑な事実を解明し、従来の調査分析技術では得られなかった深い洞察を得ることが重要となる。経営層自らがデータドリブンな意思決定の基盤を見直し、調査設計から分析・実行までを一貫して支援できるパートナーとの連携を検討することで、ビジネス調査結果の分析がさらに強化され、課題解決・業務改善に大いに寄与すると考えられる。

執筆

株式会社 KPMGアドバイザリーライトハウス
アドバンスドアナリティクス部
Stephen Witter

有限責任 あずさ監査法人
パブリックセクター・アドバイザリー事業部
青木 哲也

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