本連載は、2025年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
1.はじめに
アフターサービスのビジネスモデルは現在、自動車のソフトウェア化やコネクテッド化により、かつてないほどの変革期を迎えています。従来、ディーラー入庫を前提としていた修理はリモートで行うことが可能になり、一部の新興メーカーは半数以上をリモートで修理しています。また、リモートで修理ができないハードウェアは整備士が出張対応し、ユーザーはディーラーでの長い待ち時間やディーラー入庫にかかる負担から解放されるなど、自動車保有におけるエクスペリエンスは様変わりし始めています。
一方で、アフターサービスにおいては整備士不足も大きな課題となっており、たとえば日本ではここ18年間で整備士を目指す若者がほぼ半減していると言われています。アメリカにおいても新たな整備士の輩出は退職者数の半分程度にとどまっており、この傾向は今後も続くと予想されています。従来のディーラー入庫を前提としたアフターサービスのビジネスモデルでは、このような状況に対応しきれず、ユーザーのさらなる負担だけでなく自動車会社自身の負担も増大していくため、改革が求められています。
2.新たな付加価値の提供
【図表1:ユーザーの期待に応えるためのアフターサービスの取組み例】
出所:KPMG作成
また昨今、ユーザーはコネクテッドカーを通じて多様な情報を自動車会社へ提供するようになりましたが、対価として適切なサービスをタイムリーに提案されることを期待するようにもなっています。そのニーズに応えるためには、収集した情報の一元管理や関係者間での分析データ共有のためのデータ基盤が重要ですが、ビジネスモデルやKPI(重要業績評価指標)などの戦略をいかに効果的にその基盤へ落とし込めるかで、未来の競争力は大きく変わってくると思われます。
3.自動車修理プロセスの改革
アフターサービスの改革では、修理プロセスの効率化も重要な課題です。修理時間はユーザーが支払う工賃や待ち時間に直結するだけでなく、整備士不足が進むディーラー経営に対しても深刻な問題であり、効率化は待ったなしと言えるでしょう。修理において、整備士が原因推定を間違えると修理時間が長期化するため推定精度は非常に重要ですが、整備士教育等だけでは精度向上に限界があります。さらに、自動車の構造が大きく変化している現状では、ノウハウの蓄積も十分でなく、推定の難易度は高まっていると言えるでしょう。
その状況を打破するため、生成AI活用による「効率的なノウハウの蓄積」やマルチモーダルAI活用による「映像・図表解析」等により、推定の精度・速度を向上させる動きが活発化し始めています。さらに、その先に見えているAIエージェントによる「自律的なソフトウェア修理」やロボティクスによる「ハードウェア修理」などの導入ロードマップも立て、未来のアフターサービスを着実に構築していくことが、今必要とされているのではないでしょうか(図表2)。
【図表2:AI活用による自動車修理プロセスの改革領域(仮説)】
出所:KPMG作成
4.おわりに
日刊自動車新聞 2025年7月7日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社 の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 大熊 恒平