1.米国およびグローバルの投資動向

KPMG米国が発行している「2025年のヘルスケアおよびライフサイエンス投資の見通し」(2025年1月)によると、76%の投資家が2024年と比較して今年のM&A活動が増加する傾向にあると考え、62%の投資家がバリュエーションの上昇を予測しています。

米国では、2024年第4四半期は、ライフサイエンスとヘルスケアの両方で発表された取引が比較的少ない期間となりましたが、多くのサブセクターでは戦略的投資が強化され、バイオファーマ、ライフサイエンス関連のツールおよび診断、バイオファーマサービスでは、ディール水準が前年比横ばい、または増加しました。

この背景として、特許切れを迎える高収益薬の代替候補としての有望な初期、または後期段階の治療法を持つバイオテクノロジー企業の価値向上や技術の革新があると考えられます。また、一部のバイオファーマサービス企業においては、eClinical専門企業の買収を進めるなど、デジタル化や先端技術分野での競争力を高めています。

しかし、資本市場がAIやデジタルヘルスの進展やライフサイエンス業界の盛り上がりを前向きに捉えている一方、トランプ政権化での規制や政策変化が懸念材料になっています。また、「インフレ抑制法(IRA)」の将来や、メディケアの薬価交渉の行方も疑問視されています。

これらの変化は、特に米国市場に依存する企業にとって、長期的な戦略の再構築を迫る可能性があり、政策動向がどのように業界にインパクトを与えるかが注視されています。米国では、限られた魅力的なターゲット企業をめぐる競争や、買収候補の業績予測の難しさといった課題は依然として存在しますが、多くの企業は経済および業界環境が改善し、自社にとって価値を創出できるターゲット企業を見つけやすくなると楽観視しています。

2.日本の投資動向

日本国内のM&A市場では、米国と同様に特にバイオテクノロジー分野の取引が引き続き活発に行われています。2024年の国内ライフサイエンスセクターにおける総取引額(サブセクター別構成比)では、医療用医薬品が42.5%、バイオテクノロジーが31.5%と、両カテゴリーで7割以上を占めています(図表1)。

【図表1:2024年総取引額 サブカテゴリー別構成比】

ライフサイエンス業界の投資の展望_図表1

出所:※1を基にKPMG作成

※1 Speedaより抽出(抽出条件:2020年1月~2025年1月)
※2 医薬品のカテゴリー定義は次のとおり。
医療用医薬品:低分子医薬品(一般用医薬品、処方薬:後発医薬品、医療用医薬品)、バイオテクノロジー:高分子医薬品(生物学的製剤、バイオシミラ-)

米国同様、過去5年のバイオテクノロジー関連企業の取引は活況で、特に2020年以降バイオテクノロジー企業の買収取引数が多く、取引平均価格も医療用医薬品に並んでいます。今後の傾向について、米国では2024年と比較し76%の投資家が今年のM&A活動の増加、62%の投資家がバリュエーションの上昇を示唆していますが、日本では一部企業の買収により2023年時の総額数字が上振れしているものの、直近5年は大きく増減しておらず、取引件数としても変化は大きくないと言えます(図表2)。

【図表2:国内ライフサイエンス:サブセクター別 取引状況(過去5年間)】

ライフサイエンス業界の投資の展望_図表2

出所:※3を基にKPMG作成

※3 Speedaより抽出(抽出条件:Speedaデータから買収元または買収先が日本のライフサイエンス企業であるケース、かつ取引額が10億円以上のディールのみを抽出、抽出時期:2025年2月)

2020年から2025年1月末における、バイオテクノロジーに関連するM&Aの動向をそれぞれ分析すると、特に国内製薬企業による海外バイオ企業の買収や出資が相次ぎ、新たなパイプラインの獲得や技術基盤の強化を目的とした動きが顕著です(図表3)。

【図表3:バイオが関連するM&Aの動向】

ライフサイエンス業界の投資の展望_図表3_1
ライフサイエンス業界の投資の展望_図表3_2

出所:※4を基にKPMG作成

※4 Speedaより抽出(抽出条件:2020年1月~2025年1月。なおターゲット業界のカテゴリーはSpeedaに記載のカテゴリー分類に基づき分類。製薬企業でカテゴリーを跨ぐ企業に関しては、バイオテクノロジー、医療用医薬品、後発医薬品、一般医薬品の順に優先して分類、抽出時期:2025年1月)

この傾向は日系企業の規模や取り扱う医薬品の種類にかかわらず見られます。一方で、ポートフォリオ整理の最適化を目的とした事業整理の動きも活発化しており、海外バイオ企業の事業売却や、製造拠点の選定と統廃合が進んでいます。国内外の競争環境の変化や、研究開発費の増大を背景に企業が資本とリソースの集中を進める傾向を反映していると考えられます。

また、製薬企業がキャッシュを作るための、MRの人件費の削減、診療科単位での非注力領域のパイプラインの売却など、選択と集中が2025年以降も続いていくと想定されます。

国内におけるM&Aのプレイヤーにも変化が起きています。2023~2024年は国内製薬企業がパイプラインの拡張を目的とした取引を行っていましたが、2025年以降は外資ファンドが買い手となり、日系製薬企業の既存品目や既存のビジネスのプラットフォームの獲得、医薬品周辺企業を買収する動きが見られます。

円安が続く現在の為替も鑑み、長期収載品が多い企業に限らず、幅広いレンジの国内製薬企業が買収対象として検討される可能性があります。今後、外資ファンドを中心とした業界再編を注視する必要があるでしょう。

ライフサイエンス業界の投資の展望_図表4

出所:KPMG作成

3.まとめ

本稿では、米国・国内の投資傾向や今後の動向において注目すべきポイントを整理しました。KPMGでは、M&Aを専門とするFAS(Financial Advisory Services)と、企業の戦略・業務変革を支援するKPMGコンサルティング双方の専門性を活かし、各企業の目的に応じた包括的な支援が可能です。

また、KPMGはグローバルに展開しており、米国をはじめとする各国・各地域の市場動向を踏まえたクロスボーダーでの助言や支援も強みとしています。お気軽にお問い合わせください。

※本稿は、KPMG米国が2024年に発表した「Innovation:Pushing the deal market to adapt and evolve」を翻訳・要約し、日本の見解を加筆したものです。翻訳と英語原文に齟齬がある場合には、英語原文が優先するものとします。

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