IPO実現のために必要なタスクとは
IPOを目指す企業は、その実現に向けて、どんなところを押さえておけ ばいいのでしょうか。あずさ監査法人のOBで海外に進出する日系企業のサポートをする株式会社フェアコンサルティングの代表取締役 伴 仁氏を迎え、あずさ監査法人の天羽 啓二がIPOの海外進出支援や支援業務などについて意見を交わしました。
IPOを目指す企業は、その実現に向けて、どんなところを押さえておけ ばいいのでしょうか。
IPOを目指す企業は、その実現に向けて、どんなところを押さえておけばいいのでしょうか。あずさ監査法人のOBで海外に進出する日系企業のサポートをする株式会社フェアコンサルティングの代表取締役 伴 仁氏を迎え、あずさ監査法人の天羽啓二がIPOの海外進出支援や支援業務などについて意見を交わしました。
Point
|
Ⅰ.IPOを目指す会社の海外進出 とは
天羽
私たちの先輩であり、現在は、株式会社フェアコンサルティングのCEOを務めながら、世界中を飛び回っていらっしゃる伴先生をお迎えして、IPOの支援業務についてお話をさせていただければと考えています。
伴氏
私は1998年に、朝日監査法人(現・あずさ監査法人)に入社して、2 年間監査業務をしたのちに、4 年間、IPOの支援業務を担当させていただきました。あずさ監査法人を卒業後は株式会社フェアコンサルティングを立ち上げ、日系企業の皆さまの海外進出、海外でのビジネスのサポートをし、 20ヵ国に35の事務所を展開、公認会計士や専門家を配置し、日系企業のお客様のサポートをさせていただいています。
株式会社フェアコンサルティング 伴 仁氏
天羽
20ヵ国35拠点で展開されているとお伺いし、あらためてものすごいスピードで成長されていると思いました。
伴氏
日本、香港、中国、ベトナムという順番で進出し、アジアを面で押さえてから欧米に拠点を作るという形で進めてきました。あずさ監査法人時代の経験があってこそで、KPMGの皆さまともコラボしながら仕事をさせていただいています。
天羽
私が担当している会社でも海外出を考えているところも多く、その進出の順番も似ているなという気がします。
伴氏
日系企業の進出が多い国から、ということになりますからね。
天羽
IPOを目指される方のなかにも海外進出をお考えの方もいらっしゃると思いますが、 伴先生は最近、どんなことをお感じですか。
伴
日本のベンチャー・スタートアップやIPOを目指す企業には、まずは国内マーケット志向でというところが多いと思うのですが、日本のマーケットの成長性を考えると、どこかのタイミングで海外を目指していかなければなりません。その時に当社がお手伝いできたらいいなと考えています。IPOを目指す会社の、本業以外の業務の足元を支えたいという気持ちで日系企業様のサポートをさせてもらっています。
天羽
海外進出をするとなると、言語も違えば文化も違います。そのあたりのそのインフラの整備はなかなか分からないことが多いです。
伴氏
そうですね。私たちのほうが先にそうした国々に出ているので、言語や文化が違うなかで本業に邁進していただけるようにサポートしていきたいと考えています。
有限責任 あずさ監査法人 天羽 啓二
Ⅱ .上場前から上場後まで求められ るものは
天羽
本日の1つのテーマとして考えているのはIPO実現のためのタスクです。IPOを実現するために上場審査で求められるタスク、上場後に企業に求められるルール、最近の上場審査における注意事項について深掘りをさせていただければと考えています。
図表1 上場審査確認事項
項目 | 具体例 |
---|---|
第1章 株式上場の基礎知識 | ●市場の種類と特徴 ●メリット・デメリット ●上場審査の流れ ●上場スケジュール ●グローバルオファリング |
第2章 上場準備活動の実務 | ●経営管理体制 ●業務管理体制 ●予算統制将来計画 ●会計管理体制 |
第3章 関係会社等の整備 | ●関連当事者取引(関連当事者等との不動産の賃貸借等) ●子会社株式上場の実務 ●MBO |
第4 章 資本政策の実務 | ●ストックオプション ●株価算定 ●従業員持ち株会 |
第5章 業種別上場審査のポイント | ●IT産業の上場審査のポイント ●コンテンツ産業の上場審査のポイント ●バイオ産業の上場審査のポイント |
第6章 上場後のリスクマネジメント | ●ディスクロージャー制度 ●株価リスクとIR戦略 ●上場会社における不祥事対応 ●上場維持基準 |
出所:2025年8月刊行予定『株式上場の実務ガイド<第5版>』( 中央経済社刊)をもとにKPMGジャパン作成
1. 株式上場の基礎知識
まず取り上げるのは株式上場の基礎知識です。IPOを目指すにあたって、日本の株式市場の現状と、上場までのスケジュールについて取り上げています。株式市場については、東京証券取引所は2022年にプライム、スタンダード、グロースという3つの区分に再編成しました。上場基準や、上場を維持するための基準がそれぞれの市場で定められていて、既存の上場企業に関しては経過措置として基準を満たしていない企業でも「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出することで、暫定的に融和された基準で市場に残ることができました。しかしその経過措置は2025年の3月31日で終了し、その後1年の改善期間を設け、基準を満たせなければ監理・整理銘柄に指定されて上場廃止になります。300社近くの企業が2025年4月から改善期間を迎えると整理されていますが、上場を目指される方々は、事前にしっかり理解しておいていただきたいと思います。
次にスケジュールです。IPOのプロセスで、上場申請を行う期が「申請期(N期)」で、申請期の直前期をN-1期、直前々期をN-2期、直前々々期をN-3 期といいますが、ゴールから逆算をして進めていくことがIPOの実現のためには必要です。
2. 上場準備活動の実務
2つ目ではこうした知識を身に着けて上場準備に入っていただくなかで、上場準備活動の実務として経営管理体制、予算制度、会計管理体制についてお伝えします。
経営管理体制については、非上場の会社では上場会社で必要となる会社法や、金融商品取引法、有価証券上場規定などはあまり意識されていないかもしれませんが、上場会社は、一定のルールで運営する必要があるということを認識していただきたいと思います。予算制度について上場会社では、事業計画を作成する際には、業績予想を通じて成長を数値化する必要があります。その際にトップダウンではなく、社員の意見を取り入れた積み上げ方式とすることを意識していく必要があります。予算と実績の比較、そして必要に応じて改善をしていくという計画作りが必要だということです。会計管理体制は、私たちのプロフェッショナル領域ですが、ここは昨今さらに重要な領域になってきていると考えています。近年、投資家の方々は、企業の売上高を示すトップラインが投資判断の重要な要素と捉えるようになりました。収益の認識基準が変更されたことで、顧客との契約で資産に対する支配を顧客に移転する「履行義務」を意識した会計をすることが求められるようになりました。
キャッシュベースで管理する会社様や注文ベースで管理する会社様等においては、収益認識の基準とタイミングの違いから、会計上の数字が異なる結果となることがあります。こうしたことも事前に認識していただくことが重要となります。
3. 関係会社等の整備
3つ目は関係会社等の整備について、特に企業に対して直接的または間接的に影響を及ぼす可能性のある人物や組織=関連当事者との取引の話をしています。非上場の会社様は関連当事者と取引をしがちです。見ず知らずの会社と取引をするよりは安心なので、それはそうなのですが、上場をすると、上場した会社様に出資している株主からみると企業価値最大化という観点からは、うがった見方をされがちなので、やめていただくケースが多くなります。
4. 資本政策の実務
4つ目は資本政策の実務です。これには2つあって、まずは、事業の運営に必要なお金をデット(融資)で調達するのか、エクイティ( 増資)で調達するのかということです。エクイティで調達するならベンチャーキャピタルに出資をしてもらうのか、アライアンスを前提として企業に出資をしてもらうのか、いずれにしても経営に大きく影響することですので事前に絵を描いておくことが必要だと考えています。もう1つが、ストックオプションです。複雑なスキームが増えていて、税制面や会計面で留意すべきことが数多くあります。とくに会計面では、合理的な価値を意味する株価の公正価値の算定は、損益計算書にも反映されるので大切と考えます。非上場の企業が株価の公正価値を算出するには専門家を利用することが求められますので、十分な留意が必要となります。
5. 業種別上場審査のポイント
5つ目として、上場審査はすべての業種が一律ではなく、業種別に上場審査のポイントがあるので確認をいただければと思います。
6. 上場後のリスクマネジメント
上場後のリスクマネジメントも重要です。上場後もIRやタイムリーディスクロージャーなど投資家目線の経営が必要になってくるということを紹介したいと考えています。
Ⅲ.昨今のIPO支援とは
天羽
伴先生のフェアコンサルティングは、顧客の上流、記帳や税務のサポート、海外進出などのサポートがメインになると思うのですが、いかがでしょうか。
伴氏
そうですね。上場準備中の会社様が困っているのは、人の部分やお金の部分で、特に人についてはお困りの会社様が多いですね。
そうした状況のなかで、監査法人でなければできないことと、私たちのような会社だからできることを、しっかりとすみ分けをして、一緒に仕事ができればいいなと思います。また、私は、海外という分野で仕事をさせてもらっていますが、スタートアップ・ベンチャーの企業様のビジネスに、海外という要素を掛け合わせることで、上場後の企業価値をもっと大きくできるような支援も一緒にできればと思っています。
天羽
ありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。