Part1では、XRの技術的革新とさまざまな産業における応用例を通じ、その可能性を探ってきました。Part2では、「新しい現実」を創造するXRが、価値創出や社会課題解決にどのように貢献し、より幅広く社会に受け入れられるためにはどのような課題に取り組む必要があるか、社会的受容と制度的整備という観点から掘り下げていきます。

1.「新しい現実」を創造するXRの未来

XRの未来はどこに向かうのでしょうか。この技術は、単なる視覚体験の拡張にとどまらず、現実世界と仮想世界をシームレスに結び付けることで、社会全体に革新をもたらし、人々の生活を豊かにする可能性を秘めています。

スタートアップや新興企業にとっても、大きなビジネスチャンスを秘めていると言えます。たとえば、スポーツやエンターテインメント分野では、XR技術を活用した革新的な観戦体験が急速に発展しています。最近注目を集めているのが、ボリュメトリックビデオ技術を用いたスポーツ中継です。ボリュメトリックビデオとは、実際の空間を3Dでデジタル化し、そのなかを自由に動き回りながら視覚体験できる技術を指します。

これにより、視聴者がVRゴーグルを通して、従来のテレビ中継では不可能だったアスリートの視点からも、迫力ある映像を楽しむことができます。このような取組みは、物理的な制約を超えて、より多くのファンに臨場感あふれる参加体験を提供することを目指しています。

XR技術の進化により、スポーツ観戦の未来は単なる「見る」体験から、まるで現場にいるかのような「体験する」観戦へと変貌を遂げつつあります。地方創生の柱にスポーツを位置付けるケースも増えてきています。XRを利用することで、競技振興と地域振興の好循環を担う主体に、住民に加えて観光客やリモートでのファン、場合によっては海外に住む日本文化に興味を持つ人々も巻き込むことが可能です。この取組みは、物理的な制約を超え、より多くのファンにリアルな参加体験を提供することを目指しています。

このような体験共有による社会全体へのインパクトはもちろんですが、「体験消費」をもたらす視覚体験の拡張を超え、「価値創造」や「社会課題の解決」へと進化することが、XRの「第二発展期」には重要です。

【体験消費から価値創出へ発展するXR】

エマージングテクノロジーとXRが紡ぐ未来社会 Part2_図表1

2.都市計画やインフラ整備等におけるXR技術の活用

近年、都市計画の分野においてXR技術が注目を集めています。XR技術を活用することで、都市のデジタルツインを仮想空間内に構築し、都市計画のシミュレーションやインフラのメンテナンスをより直感的かつ効率的に行うことが可能です。

具体的には、都市設計者やエンジニアがリアルタイムのデータを基に、仮想空間内で建物やインフラの配置、交通動線の検証、さらには緊急時のシミュレーションを行い、最適な都市運営を目指します。 たとえば、XR技術を使った都市計画シミュレーションでは、交通渋滞やエネルギー使用量の予測、災害時の避難経路の評価が仮想空間内で視覚的に行えるため、関係者が共有のビジュアルを基に協議することが容易になります。

また、インフラのメンテナンスにおいても、XR技術を通じて現場作業をリアルタイムで仮想的に再現し、故障箇所の特定や修繕作業の効率化が期待されます。さらに、将来的には、XR技術が都市のデジタルツインと完全に統合され、5Gや6Gといった超高速通信インフラを活用して、より詳細なリアルタイムデータを仮想空間内でシームレスに視覚化できるようになると予想されています。これにより、都市レベルのデータをリアルタイムでモニタリングし、エネルギー使用の最適化や災害時の迅速な対応が可能となり、持続可能な都市運営がさらに進化すると考えられます。

また、将来的にはバーチャルオフィスの普及が進み、地理的制約に縛られないコラボレーションが当たり前のものとなるでしょう。これにより、世界中の優秀な人材が仮想空間で集い、知見を共有しながら問題解決に取り組む「グローバルXRワークスペース」が実現されるかもしれません。XRワークスペースは、現在のリモートワークとは異なり、2Dの画面越しではなく、3D空間での直感的で没入感のあるコミュニケーションが可能です。

たとえば、XRを活用することで、同僚とリアルタイムで仮想空間内を移動しながら会議を行うなど、複雑なデータや設計を立体的に共有・操作することができます。その結果、距離を感じさせない臨場感あふれる協働が実現し、特にクリエイティブなプロセスやデザインのフィードバックなど、視覚的なコミュニケーションが必要な場面で強力なツールとなるでしょう。

3.XR普及への挑戦~技術革新と社会的受容

XRを活用した非線形な成長を実現するためには、いくつかの課題が存在します。コストやインターフェースの課題が、技術革新に伴い改善されてきている一方で、より重要な課題は社会的な受容と制度的な整備です。

たとえば、データプライバシーやセキュリティに関する懸念は、XR技術が広く普及するために解決すべき重要な問題です。これらを解決するためには、ガイドラインや規制の整備、そして社会全体での理解と受入れが不可欠です。

欧州連合(EU)では、GDPR(EU一般データ保護規則)がXR技術を含むデータ処理全般に適用される重要な原則を提供しています。GDPRの原則は、データ最小化、目的制限、明示的な同意など、XR技術の利用においても重要な指針となっています。また、日本では、エンターテインメントXR協会がVRコンテンツの利用年齢に関するガイドラインを策定しており、子どもへの利用に関しては保護者の同意を求めるなど、具体的な指針を提供しています。

これらの取組みは、XRの普及において信頼性と安全性を確保するために重要な役割を果たしています。ビジネスパーソンや経営者、スタートアップの起業家たちは、これらのガイドラインや規制を理解し、遵守しながら、XR技術の責任ある開発と利用を推進していく役割を担っています。

4.まとめ

XR技術はさまざまな領域で実績を積み重ねることで、社会的受容の課題を解決していくことでしょう。KPMGは、XRをはじめとしたエマージングテクノロジーの利活用による非線形な成長と社会・企業変革の実現を引き続き支援します。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 小久保 慎平

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