AIとエマージングテクノロジーを駆使して非線形な成長を目指す企業のなかで、エクステンデッドリアリティ(クロスリアリティとも呼ばれる、以下、XR)は、新たな成長エンジンとして脚光を浴びています。XRは、バーチャルリアリティ(仮想現実、VR)、オーグメンテッドリアリティ(拡張現実、AR)、ミクストリアリティ(複合現実、MR)を含む技術の総称です。この技術群は、ユーザーエクスペリエンスの向上だけでなく、ビジネスモデルの変革や新しい価値の創出に寄与する可能性があります。
本稿では「「XR」が紡ぐ未来社会」と題して2回にわたり、XRがどのように私たちの社会活動やコミュニティに変革をもたらし、社会全体に新たな価値を提供していくのか、その可能性を探ります。Part1では、技術的な進歩とその実際の応用事例を紹介します。
1.現実と未来をつなぐXRの可能性
【第一発展期でXRが直面した課題例】
これらの課題はユーザー体験の妨げとなり、XRの普及を遅らせる要因となっていました。しかし、技術革新の進展により徐々に解決されつつあります。デバイスの軽量化や性能向上、さらに多様な応用分野の発見が、XRの発展に大きく寄与しています。
たとえば、高解像度・高リフレッシュレートのカメラや深度センサーを搭載し、周辺環境の情報を高精度で取得できるほか、体験者のアイトラッキング機能によるインタラクティブ操作が可能な、高付加価値のXR向けヘッドマウントディスプレイが、リーズナブルな価格で提供されています。このように、ここ数年で技術は飛躍的に進化し、より高度で魅力的なデバイスの登場、コンテンツの質の向上が実現し、コストパフォーマンスの良い技術手段の提供が行われるようになりました。
2.ビジネス分野でのXR技術の活用
さらに、近年では教育分野でのインタラクティブな学習プログラムや、エンターテインメント分野における映画やゲームの没入感ある体験など、新たな応用分野の拡大による技術の成熟とコストの低下を背景に、ビジネス分野での活用が再び注目されています。
製造業では、XR技術を活用したリモートアシスタンスが現場での労働生産性を大幅に向上させる取組みが加速しています。たとえば、ある産業用機器メーカーは、MRを活用した遠隔の作業者サポートツールを導入しました。これにより、専門家と現場作業者がオーディオビジュアル接続を通じて安全に協力し、問題解決のスピードを飛躍的に向上させています。
最近の技術更新により、このようなツールはさらに進化しています。作業空間内に2Dおよび3Dのホログラフィックアセットを効果的に配置できるようになり、作業者は必要な情報を直接現場で確認できるようになりました。また、作業者の自立的な作業を支援する機能が強化され、日常的なタスクの効率が向上しています。さらに、インタラクティブなトレーニング機能の改善により、新しい情報の学習時間が短縮されました。
これらの進化により、XR技術は緊急時だけでなく、日常的な標準作業手順の一部として活用されるようになっています。結果として、作業効率の向上、ダウンタイムの削減、不要な出張の削減、そして従業員の満足度と定着率の向上につながっています。
医療分野でも、XR技術が単なる補助ツールから、不可欠な技術として活用されています。XR技術を用いた手術ナビゲーションの高度化が進み、外科医は患者の解剖学的構造をより正確にナビゲートできるようになりました。同時に、XR技術を活用した没入型の医学教育プログラムが導入され、医学生の学習効果が向上しています。また、入院患者向けのXRプラットフォームも導入され、患者のケア改善に貢献しています。これらの進展は、XR技術と医療の専門知識を融合させた革新的な進歩であり、医療の未来をかたち作るものとなっています。
これらの実例は、XRが単なるエンターテインメント技術にとどまらず、製造や医療など、さまざまな産業の基盤技術として急速に浸透しつつあることを示しています。XRは、効率性、安全性、スキルアップの向上に非常に強力なツールであることが証明されており、企業がXRを導入することで、従業員とその産業の成長を支援する責任ある環境を作り出すことができるのです。
3.まとめ
AI技術と組み合わせることで、XRの可能性はさらに広がりを見せています。たとえば、AIによる画像認識と自然言語処理技術を活用することで、従来はキーボード入力や専用コントローラによるジェスチャー入力だったものが、ユーザーが音声や自然動作で直感的に指示を出すことで、XR空間での対話が可能になります。この取組みは、従来のインターフェースの限界を超え、より直感的かつ自然な操作方法を提供することで、ユーザーエクスペリエンスの向上を目指しています。
このようなインタラクションが実現されることで、トレーニングや教育の現場においても、よりリアルで実践的な学習体験が提供できるようになります。企業研修や顧客サポートなどでも、没入感のあるXR空間を通じて、従来の学びを超えた体験価値を提供できるかもしれません。
XRは、これまでのエンターテインメント領域を超え、製造業や医療、教育、都市設計など、さまざまな社会基盤を支える分野での実績を積み重ねています。AIとの融合により、その可能性はますます広がっています。
Part1では、技術的な進歩とその実際の応用事例を紹介しました。Part2では、XRが切り拓く未来の社会像を具体的に描きつつ、社会的な受容や制度整備など、XRのさらなる普及に向けた課題と展望を詳しく考察していきます。
執筆者
KPMGコンサルティング
マネジャー 小久保 慎平