KPMGジャパンは、「日本の企業報告に関する調査2024」を実施しました。11回目となる今回は、「マテリアリティ」に加え、「戦略と資源配分」および「報告媒体の位置付け」に焦点を当てています。

1.調査の概要

KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパンは、2012年にその前身組織である統合報告アドバイザリーグループを組成して以来、企業の自発的な取組みである統合報告書の発行を、企業と投資家との対話促進を通じて価値向上に貢献する取組みと捉え、2014年より日本企業の統合報告書に関する動向を継続して調査してきました。その後、調査対象を拡大し、2019年からは有価証券報告書の記述情報を、2021年からはサステナビリティ報告書や企業ウェブサイト上のサステナビリティに関連するページ(これらを総称して以下、サステナビリティ報告)も調査の対象に加えています。

今回は、これまでの調査でもフォーカスしてきた「マテリアリティ」に加え、「戦略と資源配分」、「報告媒体の位置付け」に焦点を当てて調査を実施しました。企業の持続的な価値向上には、中長期の戦略とマテリアリティ分析を通じてマテリアルと判断した項目に、必要な資源配分が求められます。また、有価証券報告書でもサステナビリティに関する考え方等の記述情報が増え、統合報告書との記載内容が重なりつつあるなか、それぞれの報告媒体をどのように位置付けているか確認しました。

2.3つの領域の調査結果の主なポイント

1.マテリアリティ

マテリアリティの記載は、2024年の統合報告書では93%、有価証券報告書では85%となり、実務として広く定着していることがうかがえます。しかし、マテリアリティ評価の前提となる将来の経営環境の見通しを説明している企業は、統合報告書で40%、有価証券報告書で27%にとどまっており、マテリアリティ評価の前提となる企業固有の情報の開示はいまだ十分とはいえない状況にあります。気候変動をはじめとしたサステナビリティ情報の開示においては、リスク・機会の評価の前提となるシナリオ分析に関する情報が求められています。経営環境の見通しに関する説明は適切な解釈を促すコンテクストを提供する観点から有用であり、さらなる説明が望まれます。

2.戦略と資源配分

ビジネスモデル
統合報告書においてビジネスモデル(価値創造プロセス図等)を掲載する企業は90%を占め、自社の事業活動がどのように価値を生み出しているのか、ビジネスモデルの説明を通じて報告がなされています。しかし、自社のビジネスモデルにおいて、どのようなインプットが具体的にどのようなアウトカムにつながるのか、必ずしも明瞭に説明されていません。そのため、企業独自のビジネスモデルがどのように価値を生み出しているのか、十分に理解することが難しい状況が見受けられます。企業独自の価値創造プロセスをより具体的に説明することが望まれます。そのような説明は、戦略と資源配分の説明の解像度の向上にもつながります。

3.報告媒体の位置付け

2023年3月期決算企業より、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、サステナビリティ情報開示の充実が進んでいます。これにより、財務情報とその他の情報を統合し、価値創造の全体像を伝える統合報告書との役割が重なりつつあります。今回の調査からは、54%の企業が情報開示体系図などを用いて、統合報告書と有価証券報告書の位置付けを示していることがわかりました。それぞれの開示媒体の位置付けから見えてくる課題は、調査報告書の中で解説しています。

その他調査トピック

報告の高度化に向けた取組み

  • 統合報告書・サステナビリティ報告書の発行時期
  • 第三者保証を受けている割合(第三者保証報告書の掲載割合)
  • 第三者保証の対象指標
  • サステナビリティ情報関連の内部統制の有無
  • 英語版報告書を発行している企業(2025年1月末時点)
  • 英語版報告書の発行時期(日本語版発行日との比較)
  • 有価証券報告書の英語版の発行時期(株主総会開催日との比較)

気候変動関連情報

  • GHG排出量(Scope1~3)の当期実績開示
  • GHG排出量(Scope3)のカテゴリ別の当期実績の開示
  • GHG排出量(Scope1~3)のバウンダリー
  • TCFD産業横断的気候関連指標カテゴリの開示状況

人的資本・多様性

  • 人的資本に関する方針の記載
  • 自社が直面する重要なリスクと機会、長期的な業績や競争力と関連付けた説明
  • 比較可能性のある指標の記載
  • 独自性のある指標の記載

3.Key Recommendations - KPMGの提言

社会の期待に応える行動を促し、持続的な企業価値向上に寄与する企業報告を目指して、

  • マテリアリティの認識を示し、企業経営における統合思考の実践について説明する
  • 持続可能な価値創造を支える財務資本の活用について説明する
  • 企業報告の目的を明確にして戦略的にコミュニケーションする

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
KPMGサステナブルバリューサービス・ジャパン

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