本連載は、2024年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
第12回(最終回)は、モーターショーの内容や現地でのインタビューを通じて商用車業界の最新トレンドを分析します。
商用CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングサービス、電動化)の現在地
(1)コネクテッド
数年前から架装・トレーラーメーカーが主役となりつつあるこの領域は、現在さらに加速しています。たとえば、トレーラーメーカーが提唱する「トレーラーOS」は、FMS(運行管理業務向けインターフェースシステム)、TMS(輸送管理システム)、WMS(倉庫管理システム)の連携のハブとなり、物流事業者の業務を支える動向が見られます。
また、物流以外の領域にも進出し、農業事業者向けに収穫完了時間予測とトラックのシステム連動による物流の最適化サービスを提供しています。さらに、衛星技術の発展により、コンテナ向けコネクテッド技術の搭載も進み、陸海を横断したサプライチェーンでもサービスが提供されています。コンテナ輸送を担う会社が数多くのコンテナにデバイスを装着し、トレーラーメーカーが起点となって、発着地から到着地までの物流工程の可視化・最適化が進んでいます。
(2)自動運転
限定エリアでの自動運転を見据え、スタートアップ企業の参入が進んでいます。車両の自動運転化は大前提とし、周辺の仕組み整備が進行中です。たとえば、コンテナの自動開閉サービスが登場し、2025年第1四半期から商用化が予定されています。また、空港内での地上支援を行うGSE(グランドサポートイクイップメント)車両の自動運転に向けた実証実験も進められています。
(3)シェアリングサービス
トラックと物流拠点、二次バッテリーと利用者などの求貨求車マッチング以外のサービスが台頭しています。たとえば、ドライバーにシャワーや休憩用途で自社物流拠点を開放し、労働環境の改善と新たな収益創出を図る動きがあります。また、電気自動車(EV)の導入を見据え、拠点設置の充電器もシェアリング対象に加える動きが進んでいます。中古バッテリーのマッチングプラットフォーマーも台頭しており、すでに欧州では自動車業界、エネルギー業界、リサイクル業界でプラットフォーマーを経由したバッテリーの相互流通が進んでいます。
(4)電動化
小型車両ではEVが主流となっていますが、中・大型車両では天然ガスも選択肢に残されています。サーキュラーエコノミー構築を目的に、リサイクル精度の向上によるバッテリー流通総量の維持・拡大に注力する動きが加速しています。中国系メーカーは全行程を自前化し、中国と欧州を横断する円環形成を目指しています。
商用車業界の覇権争い
今後、特に注目するのはコネクテッド領域での覇権争いです。欧州では2000年代初頭から商用車ユーザーの運行管理業務に関するコネクテッド機能が標準化されています。商用車メーカーとしては、“協調領域として差し出した”格好です。現在では、架装・トレーラーメーカーが主力プレーヤーとなり、トレーラーをハブに他業種・他領域との連携を進めています。
「ソフトウェアにより車両価値が決まる」というSDV(ソフトウエアデファインドビークル)の定義に則ると、商用車は「すでに」SDV化していると見るのが正しいのですが、今後、架装・トレーラーメーカーが社会とクルマをつなぐプラットフォーマーとなり、商用車の価値を拡大する主役となるでしょう。
【欧州における商用コネクテッドの変遷】
出所: KPMG作成
電動化の次に来る地殻変動
これらの業界トレンドをどう読み解くべきでしょうか。次の地殻変動はSDV化がもたらす主要プレーヤーの変化です。従来、SDVは自動車メーカーが進めるものとされてきましたが、今後は架装・トレーラーメーカーをはじめとする新たなプレーヤーが参入してくることが予想されます。自動車メーカーとしては、「SDVによる価値の出し方」が他プレーヤーに押さえられることになります。自動車メーカーは、“SDV化”に備え、他プレーヤーと協業しながら価値を作り込む動きが求められるでしょう。
【架装・トレーラーメーカーが起こす地殻変動】
出所:KPMG作成
日刊自動車新聞 2025年3月3日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 宮崎 智也
シニアストラテジーアソシエイト 山田 翔