ブルーエコノミーとは、海洋、沿岸、淡水域の生態系を包括的に活用し、経済的価値を最大化しつつ、生態系保護や持続可能な開発を目指す概念のことを指します。環境的・経済的・地政学的価値を両立させることで、持続可能な経済発展に重要な役割を果たします。
この概念が注目される背景には、気候変動や海洋資源の枯渇といった環境問題の深刻化、洋上風力発電など新産業の創出、および海洋資源を巡る地政学上の競争の激化が挙げられます。
こうした状況を踏まえ、世界各国が包括的な海洋計画を策定し、環境保全と経済成長を両立した施策を実施しています。日本でも、洋上風力発電やスマート養殖をはじめとする新たな市場領域への挑戦が始まっており、モノづくり大国としての技術的基盤を活かしてビジネスチャンスを捉える戦略が求められています。
本稿では、ブルーエコノミーの基本的な概念と、日本や諸外国の取組みについて説明します。
目次
1.ブルーエコノミーとは
【ブルーエコノミーの包含する業種】
出所:各公表データを基にKPMG作成
2.ブルーエコノミーの成長
ブルーエコノミーは今後も着実な成長を見込むことができる市場と考えられています。OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)の統計によると、2030年までにこの領域の総付加価値額は3兆ドルに達するとの試算があり、2010年時点での総付加価値額の約2倍に相当すると予想されています。最も成長が期待される領域は洋上風力発電で、2010年から2030年にかけて総付加価値の合計が約80倍に拡大すると予想されています。また、AIやビッグデータ等、最新の技術を活用して海洋資源を効率的かつ持続可能に利用する養殖業と、水産加工業の総付加価値の合計がそれぞれ約3倍に増加するとの試算があります。
3.なぜ今、ブルーエコノミーが重要なのか
ブルーエコノミーは以下の3つの価値を両立させることで、持続可能な経済発展を実現していくために重要な役割を果たすと考えられています。
(1)環境的価値
水資源は、生物の生命維持や人類の経済活動に不可欠な存在であり、海洋面積が広大であることからも、持続可能な環境資源としての価値が大きいという認識が広がりつつあります。たとえば、企業活動は炭素循環機能等の海洋環境が大きく寄与する生態系サービスに依存しています。企業活動による影響が複合的に作用し生態系サービスが劣化すると、事業活動への支障が生じるリスクや、それを未然に防ぐための法規制や市場の変化等の移行リスクの発生が考えられます。
近年、自然関連財務情報開示タスクフォース(以下、TNFD)等により、企業が自然関連リスク・機会の情報を開示するための枠組みが公表され、海洋・淡水系においても、自然資本・生物多様性保全に向けた取組みの評価や推進を企業に求める流れが加速しています。このことから、ブルーエコノミーの発展を通じて、環境保全と経済成長を両立させることが期待されているといえます。
(2)経済的価値
海洋にはエネルギー、食品、医薬品、観光など多様な経済的価値があり、新たな産業の創出も期待されています。また、海洋エネルギーや海洋バイオテクノロジーなどに伴う、投資や研究開発が活発化してきています。
日本においては、新たな市場領域への挑戦として洋上風力発電や、AI/IoT技術を利用したスマート養殖などの取組みが進められています。このほかにも、ブルーエコノミーにおいてイノベーションの源泉となり得る技術的基盤があり、多様なビジネスシーズが存在していると考えられます。また、世界有数の海岸線と排他的経済水域(以下、EEZ)が存在することからも、潜在的な利用可能性が高いと考えられています。
(3)地政学的価値
歴史的に見ても、重要な取水源や海域での権益が争点となり、戦争や国際紛争に至った事例も多数存在しています。日本は、周囲360度が海に囲まれた島国であることから、海洋環境における安全保障面での安定が歴史的経緯からも常に重要な論点であり、今後もそうあり続けると考えられます。
【ブルーエコノミーを構成する3つの価値】
出所:KPMG作成
4.諸外国のブルーエコノミーに関する取組み状況
【各国の海洋計画と概要】
地域 | 国名 | 政策/戦略 | 概要/取組み |
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ヨーロッパ | フランス | 国家海洋沿岸戦略 (SNML) |
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イギリス | 英国海洋戦略 |
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アジア | 中国 | 第14次5カ年海洋生態環境保護規画 |
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インド | Blue Economy Policy |
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北米 | アメリカ | CMSP (Coastal and Marine Spatial Planning:沿岸及び海洋空間計画) |
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出所:各公表データを基にKPMG作成
5.日本のブルーエコノミー政策の現状
日本では第4期海洋基本計画に基づき、包括的な海洋政策の実施・管理が行われています。この計画においては、「海洋の安全保障の強化、海洋資源開発等新たな産業の育成や既存産業のさらなる発展、環境関連技術開発、持続可能な開発目標(SDGs) に係る国際的な取組に向けた積極的な貢献等によるオーシャントランスフォーメーション(OX)の実現」を主たるミッションとして位置付けています。本計画は、(1)総合的な海洋の安全保障、(2)持続可能な海洋の構築、という2つの柱を中心に据えて、(3)着実に推進すべき7つの主要施策を掲げています。このことから、経済的・環境的・地政学的価値の統合を図っていることがうかがえます。
【第4期海洋基本計画の概要】
出所:ページ末尾記載の各公表データを基にKPMG作成
6.今後の展望
本稿については、下記のウェブサイトを参考にしています。
・OECD 「The Ocean Economy in 2030」
・内閣府「海洋基本計画」
執筆者
KPMGコンサルティング
パートナー 足立 桂輔
マネジャー 三宅 恵満生
シニアコンサルタント 青木 佑太朗
コンサルタント 髙尾 昌平