金融犯罪(対策)のパラダイムシフト

KPMGグローバルでは、「金融犯罪のパラダイムシフト」と題したレポートをとりまとめ、金融犯罪領域における昨今の新たな状況を踏まえ、金融機関等において如何にこれに立ち向かうべきか(どのような金融犯罪対策を講じていくべきか)、その重要性やポイントを解説しています。本稿ではその概要をとりまとめました。

金融犯罪(対策)のパラダイムシフト(金融犯罪領域における昨今の新たな状況を踏まえ、金融機関等において如何にこれに立ち向かうべきか(どのような金融犯罪対策を講じていくべきか)

KPMGグローバルでは、「金融犯罪のパラダイムシフト」と題したレポートをとりまとめ、金融犯罪領域における昨今の新たな状況を踏まえ、金融機関等において如何にこれに立ち向かうべきか(どのような金融犯罪対策を講じていくべきか)、その重要性やポイントを解説しています。本稿ではその概要をとりまとめました。原典は、"A paradigm shift in financial crime"をご参照ください。

(なお、本稿において金融犯罪とは、マネーロンダリングの他、贈収賄、汚職、サイバー犯罪、インサイダー取引、人身売買、詐欺等を含む広範なものと整理している)

総論として、急速なテクノロジーの変化やグローバル化の進展が金融システムに大きな影響を及ぼす(及ぼしている)状況下、金融犯罪との闘いが成長と成功にとって極めて重要になっています。金融犯罪を企図する者による、新たで高度なテクノロジーの活用により、犯罪手口も日々変化している結果、従来の対策では対応できなくなっており、(組織や役職員の誠実性の下、)対策を講じる側としてもこれらのテクノロジーを積極的に活用していくことは避けられないとしています。

この点、今後5~10年といった中長期の視点で、勘案すべきトレンドとして、以下を挙げています。

将来的な金融犯罪対策を考えていくうえで勘案すべき6つのトレンド

  1. 地政学的、また経済的な環境(変化)の勘案
    政治的な緊張な、貿易紛争、これらに伴う制裁への対応等。
  2. .対策コストの上昇への対応
    当局や規制の要請の高まりもさることながら、前掲テクノロジーへの対応。(高度な分析やAIの活用や、これを担う要員の確保等を含む)や、外部委託や業務連携等に伴うサードパーティリスク対応への投資コストを勘案する必要がある。
  3. .顧客期待の高まりへの対応
    本人確認(KYC、CDD等)の厳格化の一方、テクノロジーの進展は、これらへの要請に対する負担軽減への顧客期待も当然に増大するため、より利便性があり効率的なeKYC等(電子認証やアプリ導入を含む)の導入を推進する必要がある。
  4. AIの進化への対応
    金融犯罪対策、特に不正検知の領域においては、AI(機械学習を含む)の活用は不可欠となる(例えば、機械学習を用いた疑わしい取引の一次検知や、取引態様や顧客行動等多様なデータを用いた、より高度な疑わしい取引の検知等)。
    他方、AIを用いたモデルには透明性や信頼性も不可欠であり、これらは組織や人による管理や検証によって確保される必要がある。
  5. データ分析と管理の重要性
    不正検知をはじめ高度な取組において、データやデータ分析が鍵となることはいうまでもない。
    この点、統合データベースやデータクレンジング(データの正規化等)・入力統制(入力されたデータの正確性、完全性、正当性をチェックし、誤ったデータがあれば排除すること等)といったデータガバナンスや、高度なデータ分析ツールの導入等が前提として必要となる。
  6. 効率性を阻害する要因の排除や軽減
    データセキュリティやプライバシー(個人情報保護)の問題は、金融犯罪対策の効率性や実効性に大きな影響を及ぼす。
    これらをクリアする、セキュリティ対策技術の導入や、規制当局間また金融機関間の協力が大きな意味を持つ。

 

上記トレンド等を意識した対策にあたっての、ロードマップとして、以下が考えられます。

金融犯罪対策を強化していくうえでの7つのアクション

  1. 基盤的な態勢の戦略的構築
    組織文化の醸成や、TOM(ターゲット・オペレーティング・モデル)の設定、ガバナンス・マネジメント体制の強化、十分な経営資源の確保等。
  2. 顧客管理のデジタル化による強化
    本人確認や継続的顧客管理のデジタル化による高度化(AIスコアリングモデルの導入を含む)と顧客負担の軽減等。
  3. 職員研修と意識醸成への投資
    脅威や規制の変化とテクノロジー活用の進展に対応できる職員の育成(採用、教育研修プログラム等)。
  4. 高度なデータ分析、不正検知ソリューションの導入
    機械学習やAIを活用した不正検知、プロセスの自動化や生成AIに代表される高度なソリューションの導入は、結果として、業務の自動化や効率化に資する。
  5. 計画に基づく変革とその継続
    中長期また継続的な取組となることを踏まえた計画とその管理が必要。そのためには全社的な(組織横断的な)関与が不可欠であり、また、技術や環境、脅威の変化に戦略的に対応できるよう、金融犯罪対策の継続的な変革も重要。
  6. マネージドサービスの活用
    組織内の蓄積された知見や実績や、培われた効率性や実効性を最大限に活用し、効率性の向上と組織内の一気通貫し自動化されたプロセスの構築が必要であり、そのためには、マネージドサービスの活用も選択肢。
  7. 組織をまたいだ協力や連携の重要性
    知見や情報の共有、共同での取組等により、対策の強化が期待される。規制当局、業態団体、金融機関による、官民連携(Public-private partnerships、PPP)等の拡がりや積極的な取組が重要。
    規制機関、金融機関、関連する業界団体による、金融犯罪対策のための共同イニシアティブの開発や、(個人情報保護に配慮し、セキュアードな環境での)情報共有プラットフォームの構築や、ワークショップ、セミナー、研修セッションなどの情報交換や官民での対話も含まれる。

以上みてきたように、金融犯罪対策は、テクノロジーの大きな変化等の中、グローバルで大きな変容が求められており、本邦においても、これらのパラダイムシフトを踏まえた対策と戦略的な取り組みが必要となることは、当然に同様であり、各金融機関や非金融の特定事業者においても、これらのトレンドやポイントをおさえた取組が重要となっています。

なお、本稿に関連する記事として、以下もご参考ください。

預貯金口座の不正利用等防止に向けた対策の一層の強化について

金融犯罪対策とマネロン等対策の統合

執筆者

あずさ監査法人
金融統轄事業部 金融アドバイザリー事業部
マネージング・ディレクター 竹田 淳一

お問合せ