1.グローバル
世界的なイグジット環境の停滞や、市場の不確実性から低調に推移
2024年第3四半期のベンチャーキャピタルによる投資は、世界的にイグジット環境が依然として停滞していることや、市場の不確実性から世界中の投資家が投資を抑制したことにより、取引総額・件数ともに低調に推移しました。
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2024年第4四半期に注目すべきトレンド
米国大統領選挙以降、2025年にはイグジット活動が回復するのではという楽観的な見方が広がっています。またベンチャーキャピタルは金利の引き下げを考慮して案件を検討しているため、M&A活動が最初に活発化する可能性があります。引き続き注力が予想されるAI分野では、法規制についても今後注視する必要があります。代替エネルギーソリューション分野への投資家の関心は、世界的なエネルギー需要の急増により、今後1年間に高まる可能性があります。
2.米国
次期大統領の政策方針が明確になるまで大きな投資決定を控える動きも
2024年第3四半期の米国におけるベンチャーキャピタルによる投資は、投資活動が季節的に鈍化することが予想されたこともあり減少しました。また、米国大統領選挙の影響を受け、米国の一部のベンチャーキャピタルには、次期大統領の政策方針がより明確になるまで大きな投資決定を控える動きが見られました。
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2024年第4四半期に注目すべきトレンド
米国大統領選挙後、今後の不確定要素が解消されマクロ経済状況が改善すれば、2025年の早い時期に回復する可能性があると楽観的な見方が広がっています。過去2年間にわたって低調だったことから、IPO市場が2024年第4四半期から2025年にかけて再度活発化することを期待して多くの注目が集まることが予想されます。分野別では、AIと防衛テックの両分野が2024年第4四半期も引き続きベンチャーキャピタルにとって魅力的であると予想されます。また、ヘルスケアとバイオテクノロジー分野も引き続き投資家に注目されると考えられます。
3.南北アメリカ
米国における投資がやや軟化、カナダは堅調、一方ブラジルは大幅減少
2024年第3四半期の南北アメリカにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、米国における投資がやや軟化したこともあり、2024年第2四半期から2024年第3四半期にかけて10億ドル超のメガディールが6件から2件に減少しました。米国は引き続きこの地域のベンチャーキャピタルによる投資の大部分を占めますが、カナダは、特に2021年第1四半期から2022年第1四半期の期間を除くすべての四半期と比較すると堅調に推移しました。一方、ラテンアメリカのベンチャーキャピタルによる投資は低調で、特にブラジルでの投資は前四半期比で大幅に減少しました。
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2024年第4四半期に注目すべきトレンド
特に米国とカナダにおいて前四半期比で比較的堅調に推移すると予想されます。AIに加え、ヘルスケアやバイオテクノロジー、クリーンテクノロジーなどの分野も引き続き大型投資が行われる可能性があります。また、企業がサイバーセキュリティの脅威に先手を打とうとするため、今後サイバーセキュリティ分野への投資は増加する可能性があります。ブラジルでは、政府の税制改正が完了しマクロ経済要因が安定するにつれて、今後数四半期でベンチャーキャピタルによる投資が回復するという楽観的な見方が大勢を占めています。
4.欧州
ベンチャーキャピタル投資は低調に。宇宙分野への注目が高まる
2024年第3四半期の欧州におけるベンチャーキャピタルによる投資は、8月の取引が夏季休暇の影響で鈍化したこともあり低調に推移しました。欧州では当四半期、ドイツの防衛テック企業Helsing(4億8,400万ドル)のほか、フランスのゲーム会社のVoodoo(3億8,600万ドル)、ドイツのIsar Aerospace(2億7,900万ドル)、英国のフィンテック企業Form3(2億2,000万ドル)など、1億5000万ドル超の大型案件が10件ありました。欧州では、ドイツのIsar AerospaceとイタリアのD-Orbit(1億6,600万ドル)に代表されるように、宇宙分野にも投資家の注目が集まりました。
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2024年第4四半期に注目すべきトレンド
ベンチャーキャピタルによる投資は、第4四半期も低調に推移すると予想されますが、イグジットの環境が改善されれば投資が回復するという期待もあります。AIと防衛テックはベンチャーキャピタルによる投資先として注力される分野であり続けるとみられ、また、医療とバイオテクノロジー分野は地域全体で多様な投資を誘引し続けると予想されます。一方、ベンチャーキャピタルからの高い関心を集めるAI分野は、規制当局が特にデータプライバシーとセキュリティの観点からAIソリューションの開発・利用方法の精査を強めているため、今後数四半期の動向を注視する必要があります。
5.アジア
取引活動の鈍化と10億ドル超メガディールの不在により、5四半期連続で減少
2024年第3四半期のアジアにおけるベンチャーキャピタルによる投資は、取引活動の鈍化と10億ドル超のメガディールがなかったこともあり、5四半期連続で減少しました。フィリピンを拠点とするフィンテック企業Myntの7億8,800万ドルが、アジアにおける当四半期最大の案件となり、中国のBaichuan AI(6億8,800万ドル)のほか、同じく中国のICLeague(4億1,500万ドル)とシンガポールを拠点とするSilicon Box(3億6,200万ドル)の半導体メーカー2社による大型案件が続きました。上位取引の5件目は、インドを拠点とするクイックeコマース企業Zepto(3億6,000万ドル)でした。
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経済の低迷が続くなか、日本における投資は引き続き堅調に推移
2024年第3四半期の日本におけるベンチャーキャピタルによる投資は、株式市場の混乱や追加利上げの憶測などの厳しい市場環境にもかかわらず堅調に推移しました。ベンチャーキャピタルの多くはレイターステージへの投資を控える一方、シードステージとアーリーステージでの資金調達は政府による大規模な支援などもあり、当四半期は順調に推移しました。
2024年第4四半期に注目すべきトレンド
中国のベンチャーキャピタルによる投資は、AIや半導体分野のような政府の優先分野を除いて、比較的静かな状態が続くと予想されます。一方インドでは、ベンチャーキャピタル市場が回復しており、次の数四半期でベンチャーキャピタルによる投資額が増加し始めるという根強い楽観論があります。日本のベンチャーキャピタルによる投資は第4四半期も安定した状態を維持すると予想され、AIをはじめ、ディープテック、バイオテクノロジー分野は引き続き注目を集めると考えられます。
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Venture Pulse 2024 日本語抄訳版
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