経済産業省担当者によるBEPS2.0国内法制化と今後の税制改正の動向 セミナー報告
BEPS 2.0 Pillar 2グローバル・ミニマム課税制度に関する日系企業の実務対応のポイントについて、税務、会計、DXの観点から解説した内容ついて報告します。
BEPS 2.0 Pillar 2グローバル・ミニマム課税制度に関する日系企業の実務対応のポイントについて、税務、会計、DXの観点から解説した内容ついて報告します。
本稿では、2024年7月26日に開催したセミナー「経済産業省担当者によるBEPS2.0国内法制化と今後の税制改正の動向」として、BEPS 2.0 Pillar 2グローバル・ミニマム課税制度に関する日系企業の実務対応のポイントについて、税務、会計、DXの観点から解説した内容ついて報告します。なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめお断りいたします。
Point
経済産業省経済産業政策局投資促進課課長の浅井 洋介氏は、本講演にて、国際課税制度の最近の動向と地政学を踏まえた今後の国内法制化の動向について解説。
<税務>BEPS2.0国内法制化が進み、今後、初年度の申告に向けての準備が本格化する。過年度のデータから影響額の予測値を算定し、未払税金計算実行の可能性について検討を行う必要があり、税務ガバナンスの強化が必要となる。 <会計>企業が準拠する会計基準(IFRS®会計基準/米国会計基準(US-GAAP)/日本会計基準(J-GAAP))によって、要求される開示内容が異なるため、それぞれの内容に応じて対応し、監査法人と事前に協議しておく必要がある。 <DX>日系企業におけるBEPS 2.0 Pillar 2グローバル・ミニマム課税制度への対応は多大な事務負担を要するため、KPMG BEPS2.0 Automation Technology (KBAT)のようなDX Toolを用いた税務ガバナンス体制を構築する必要がある。 |
Ⅰ.経済産業省担当者によるBEPS2.0国内法制化と今後の税制改正の動向
2023年7月、OECD(経済協力開発機構)はBEPS2.0プロジェクトに関して、BEPS(税源浸食と利益移転)に関するOECD/G20包摂的枠組みに参加する世界138ヵ国・地域(加盟国は143ヵ国・地域)が国際条約の大筋と実施に関する枠組み案の2つに合意したと発表しました。
OECD/G20包摂的枠組みは2021年に合意された国際課税の新しいルールで、第1の柱(Pillar 1:課税権の新たな配分ルール)と第2の柱(Pillar 2:グローバル・ミニマム課税)から構成されます。これら国際税務に関する動きは、これまで「税金は国境越えない」とした国際課税制度の根幹を覆す約100年ぶりの大変革と言われています。
日本では2023年度税制改正(2023年3月28日成立、2023年4月1日施行)において「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」(グローバル・ミニマム課税制度)が創設されました。グローバル・ミニマム課税制度のうちIIR所得合算ルールは、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度より適用されるため、今後、初年度の申告に向けての準備が本格化します。(図表1参照)
そのようなBEPS2.0をはじめとした国際課税制度の最近の動向に伴い、税務関連法令を遵守するため、日系企業が経営課題の1つとしていかに税務ガバナンス体制を構築していくかが重要になってきています。本稿では、2024年7月26日に開催したセミナー「経済産業省担当者によるBEPS2.0国内法制化と今後の税制改正の動向」について解説します。
図表1 グローバル・ミニマム課税導入を踏まえた税務のDXの必要性
Ⅱ.開催概要
本セミナーには、日系大手企業のCFO、執行役員、財務・税務の責任者をはじめとする多くのクライアントにご来場いただき、各講演を熱心に聴講していただきました。
当日は、経済産業省においてBEPS2.0国内法制化の担当部門である経済産業政策局投資促進課課長浅井 洋介氏から、国際課税制度の最近の動向と地政学を踏まえた今後の国内法制化の動向について解説をいただきました。
そしてKPMG税理士法人からは、BEPS 2.0 Pillar 2グローバル・ミニマム課税制度に関する企業実務対応のポイントについて、税務、会計、DXの観点から詳説しました。
Ⅲ.開会のあいさつ KPMG税理士法人 宮原 雄一
開会にあたり、KPMG税理士法人代表宮原 雄一より、BEPS2.0をはじめとした国際課税制度の最近の動向に伴い、税務ガバナンス体制を構築する必要性が高まってきている旨、また、その重要性について提言しました。
Ⅳ.『国際課税制度の最近の動向』 経済産業省 浅井 洋介氏
経済産業省においてBEPS2.0 国内法制化の担当部門である経済産業政策局投資促進課に所属されている浅井 洋介氏の講演では、KPMG税理士法人が実施した過去2 年間の経済産業省BEPS2.0 調査委託事業、「令和5 年度および令和4 年度の内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業( 諸外国等における経済の電子化を踏まえた課税の動向およびそれを踏まえたわが国の国際課税制度の在り方等に係る調査研究事業)」の結果も交えながら、BEPS 2.0 Pillar 2グローバル・ミニマム課税制度実施に向けた国際課税の動向について解説いただきました。
BEPS 2.0 Pillar 2 グローバル・ミニマム課税制度の導入に伴い、日系企業にとってグローバルで税務ガバナンス体制を構築する重要性が一層増していることから、情報収集等の定型業務を税務DXによって効率化するだけでなく、得られた情報を活用して税務リスクの早期発見や税務コンプライアンスコストの削減など、グループ全体の税務ガバナンスの見直しや企業価値の向上に結びつけることが有効である、強調されました。
なお、令和6 年分の経済産業省委託事業につきましても、3 年連続にてKPMG税理士法人が受託し実施します。
Ⅴ.BEPS 2.0 Pillar 2 企業実務対応のポイント解説 KPMG税理士法人 小出 一成
KPMG税理士法人からは、BEPS2.0 実務対策プロジェクトリーダーである小出一成が、BEPS 2.0 Pillar2 グローバル・ミニマム課税制度に関する日系企業の実務対応の3つポイントについて解説しました。
(1)<税務編>グローバル・ミニマム 課税制度の概要
2023年度税制改正(2023年3月28日成立、2023年4月1日施行)において「グローバル・ミニマム課税制度」が創設されました。グローバル・ミニマム課税制度のうち、IIR所得合算ルールは、2024年4月1日以後に開始する対象会計年度より適用されるため、今後、初年度の申告に向けての準備が本格化します。
税制改正に対する実務上の対策として、移行期間CbCRセーフハーバー適用による対象事業体特定と影響額の簡易試算の実施( 過年度データから予測値算定)、各国ETR( 実効税率)計算に際しての入手情報の特定と未払税金計算実行に向けたスタディの実施( 実行可能性の検討)、アウトソーシングとDX Tool導入を合わせた税務ガバナンス体制の構築( 内製化の限界と税務ガバナンス強化)が重要になります。(図表2参照)
図表2 税務編 実務対策のチェックポイント
BEPS2.0 Pillar 2 |
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出所:KPMG作成
(2) <会計編>グローバル・ミニマム 課税制度の開示
改訂IAS®基準では、 BEPS 2.0 Pillar2グローバル・ミニマム課税制度法人所得税に関連する当期税金費用(収益)の区分開示を要求しています。J-GAAP上では四半期対応は不要とされていますが、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき当該法人税等の合理的な金額を見積り計上することが必要です。一方で、US-GAAP上では、いまだ特段BEPS 2.0 Pillar2グローバル・ミニマム課税制度に関する開示の明確な指針は出ていませんので、これまでどおりの対応が必要と考えます。
(3)<DX編>DX Toolを用い た税務ガバナンス体制構築の必要性
日系企業におけるBEPS 2.0 Pillar2 グローバル・ミニマム課税制度への対応は多大な事務負担を要します。そして、会計監査および適時開示に備えるため、世界で最も申告期限が短い国の1つである日本では、非常に短期間で複雑な税額計算を期末後すぐに終えなければなりません。この困難を乗り越えるためには税務業務の階層化が必要であり、日系企業の税務ガバナンスを変えていくためには、企業トップマネジメントのマインドセットの変革が重要だと考えます。KPMG税理士法人ではTax Reimaginedと題し、DX Tool を用いた税務ガバナンス体制構築のご提案を行っています。また、そのDX Toolとして、KPMG Digital GatewayおよびBEPS2.0 Pillar 2の自動計算が可能なKPMG BEPS 2.0 Automation Technology(KBAT )1を提供しています。
Ⅵ.質疑応答
各講演後は、経済産業省の方へも直接質問できる大変貴重な機会ということで、閉会間際まで積極的な質疑応答が行われました。閉会後も、クライアントとKPMGパートナーが活発に意見交換し、大変盛況のうちに幕を閉じました。
【開催概要】
「経済産業省担当者によるBEPS2.0国内法制化と今後の税制改正の動向」
開催日:2024年7月26日( 金)
開催場所:経団連会館
主催:KPMG税理士法人
プログラム:
① 開会の挨拶(KPMG税理士法人 宮原 雄一)
② 『国際課税制度の最近の動向』 ( 経済産業省 浅井 洋介 氏)
③『 BEPS 2.0 Pillar 2 企業実務対応のポイント解説』 (KPMG税理士法人 小出 一成)
セミナー録画および資料リンク
執筆者
KPMG税理士法人
Clients & Markets担当
BEPS2.0実務対策プロジェクトリーダー
小出 一成/パートナー