はじめに
パンデミックからの回復とともに、アジア太平洋地域の消費者は、インフレ、生活費の困窮 、サプライチェーン問題に関連した商品供給の不安定性などの多くの困難に立ち向かっています。
KPMGはGS1と共同で、アジア太平洋地域における14市場の消費者7,000人を対象にした調査を行い、消費者のさまざまな傾向や期待をふまえ本レポートを発行しました。各市場の回答者の約半数はZ世代(18歳から24歳)で構成されています。また、調査に加え、市場をリードする小売業者、ブランド、eコマース(電子商取引)市場の上級経営幹部へのインタビューも本レポートでは取り上げています。
明らかなのは、シームレスコマースの時代が到来し、オンラインとオフラインの両方のチャネルが同地域において変わらずトレンドである一方、従来の小売ビジネスモデルでは、今日の多くの消費者の期待に応えられない可能性が高いということです。小売業者やブランドは、こうした流れに適応しなければ、取り残される結果になりかねません。
本レポートを、アジア太平洋地域における小売業界の指針としてご一読いただければ幸いです。
アジア太平洋地域におけるシームレスコマースの主要な6つのトレンド
小売業界の将来の成長と形成に重要なZ世代
この世代は、他の世代と比べ 、ライフスタイルや優先事項に対する態度が大きく異なり、前例のない変化が見られ、特にオンラインショッピングの行動、サステナビリティへの関心、リテールテックの利用において顕著です。
アジア太平洋地域の消費者全体では、最も試されているリテールテックとしてモバイル決済が挙げられましたが、Z世代で最も人気があったものはソーシャルコマースであり、特に中国、ベトナム、インドネシア、フィリピンでその傾向が強く見られました。
プラットフォームが後押しするシームレスコマースの到来
かつては単なる流行語に過ぎなかったオムニチャネルは、現在ではさまざまなプラットフォームやサービスをシームレスに統合する、より包括的なアプローチへと進化しています。
この動きはパンデミックによって加速しており、小売業者は、テクノロジー、AIソリューション、サプライチェーンの効率化に大規模な投資を行い、ますますデジタルに精通する消費者層の需要に対応しています。
AIによるよりよい顧客体験の実現と販売の促進
AIはすでに、美容、家具、アパレルなどのさまざまな分野でショッピング体験を豊かにするという重要な役割を果たしています。
継続的な市場のサポートがあれば、AIは小売店の業務効率を大幅に改善し、ショッピングプロセスの重要なポイントで消費者体験を細かく最適化することが可能です。
顧客を知る
価格に敏感になりつつも最適なエクスペリエンスを求める消費者に価値あるサービスを提供するためには、企業はまず、適切かつ重要なタイミングでテクノロジーを導入する方法を検討する必要があります。
これにより、テクノロジーがシームレスなオムニチャネル体験を推進する重要な要素となります。
デジタル決済の継続的な増加
デジタルウォレットは、東南アジアで定着しつつありますが、オーストラリア、ニュージーランド、日本、シンガポール、韓国などの先進国ではデビットカードやクレジットカードが依然として主流です。これらの違いを適切に把握し、対象地域に合わせた現地の決済オプションを提供することにより、小売業者は地域的にも国際的にもリーチを拡大することができます。
止まらないサステナビリティの勢い
サステナビリティは、マーケティングの追加的な要素ではなく基本的な要素です。ブランドには多様性、倫理、社会的責任が核として組み込まれている必要があり、アジア太平洋地域の消費者の65%がサステナビリティに追加料金を支払ってもよいと考えています。
これは小売業界の未来であり、地球環境 を最優先するのために世代によってもたらされるものです。規制当局や投資家もこうした動きに応じていますが、これは消費者からの圧力が最も大きくなっているほかありません。
Case Study:AEON
イオンリテール株式会社 執行役員 経営企画本部長 間渕 和人様
「消費者の支出抑制は、消費者の購買意思決定に明らかに影響を与えています。」
AEONは消費者の買い物習慣の変化に対応するため、さまざまな価格設定での商品提供や、顧客のロイヤルティを向上させる取組みを行っています。一つの例として、プライベートブランド商品のラインアップの拡大と低価格商品の訴求だけでなく、「環境に優しく、安全で持続可能性のある」ことの重要性を強調していることが挙げられます。
「FMCGメーカーによる直販モデルの進展や、ドラッグストアによる食品カテゴリの拡大など、小売フォーマットの複雑化が進むなかで競争力を維持するために、顧客体験を向上させるさまざまな取組みを実施しています。」
AEON Retailでは、コスト削減と同時にサービス向上や顧客との関係構築の実現を目指し、デジタルイニシアティブの探求を行っています。これには、店舗でのセルフチェックアウトや非接触決済施設の導入、独自のモバイルアプリの提供などが含まれます。
また、過去数年間、AEONは各小売ブランドにおいて独自のオンライン展開を追求し、オンライン販売の拡大を図ってきました。同社グループでは、OCADOの自動倉庫管理能力を活用したオンラインスーパーマーケット事業も立ち上げています。
AEON内部の業務においては、需要予測、サプライチェーン最適化、バックオフィス業務など、AI技術の活用によってデータの使用を改善し、業務効率の向上を実現しています。顧客対応においても、品揃えの最適化や柔軟な配送サービス、UIの向上など、AI技術を活用したさまざまな取組みを進めています。一方、AEONがデジタル化を進展させ、その利点を最大限に活用するためには、組織内におけるデータのサイロ化を克服する取組みも必要となっています。
「多様な消費者のニーズに対応するために、物理店舗と同様にeコマースにおけるリージョナルシフトへの適応も課題となっています」
消費者は、インフレや消費支出の抑制下にありつつも、依然として新鮮で高品質な商品を求めています。AEONは、物理店舗の強みを活かし、eコマース上においても地元の農家や企業との連携強化が重要です。
「私は、eコマースチャネルには成長余地があり、特に日本の食品セクターにおいてはその余地が大きいと考えています。AEONは、今後物理店舗においてもテクノロジーの活用によるイノベーションを進め、業務効率化と顧客体験の強化を目指し、eコマースにおいてもそれらを活用したシナジーの向上を目指していきます。これには、各地域の消費者の購買ニーズに沿った商品の提供や、消費者と生産者を直接つなぐ仕組みの構築などが考えられます。」