本連載は、2024年4月より日刊自動車新聞に連載された記事の転載となります。以下の文章は原則連載時のままとし、場合によって若干の補足を加えて掲載しています。
躍進するハイブリッド車(HV)
KPMGで実施した第24回グローバル自動車業界調査 (世界30ヵ国と地域1041人の自動車業界および周辺業界のエグゼクティブが回答)において「もしR&D(研究開発)予算を倍増できるとしたらどの技術に追加分の予算を割り当てるのか」を尋ねたところ、新パワートレイン技術が最も多くの回答を集めました。次いで、ADAS(先進運転支援システム)、そして先端コンピューティングと続いています。さらに新パワートレイン技術のなかにおける上位3つを見てみると、先進電池技術、リチウム電池そしてハイブリッド技術との結果になりました(図表1)。
【図表1:技術への投資】
欧州自動車工業会によると電気自動車(EV)のシェアは2022年の12.1%から2023年には14.6%に増加、ハイブリッド車(HV)のシェアも同様に22.7%から25.8%に増加しています。米国アルゴンヌ国立研究所によると、米国におけるEVのシェアは2022年の5.4%から2023年には7.2%となり、HVのシェアは同様に5.5%から7.6%となっています。
日本自動車販売協会連合会によると、日本の軽を除く乗用車におけるHVの2023年販売シェアは55.1%(EVは1.8%)であり、EVが販売シェアを伸ばすと同時に、HVも販売シェアを伸ばしているのがわかります。しかし、事実はHVの方が欧州、米国、および日本で売れています(図表2)。
【図表2:各国でのパワートレイン新車販売シェア】
2023年12月7日、「中国自動車産業のグリーン・低炭素発展のためのロードマップ1.0」が中国自動車工業会と中国自動車技術研究センターから発表されました。2060年までにカーボンニュートラルを目指す中国の国家目標に合わせ、自動車産業のグリーン・低炭素化を目的としています。
この発表で、NEV(新エネルギー自動車)の具体的数値目標(2025年:45%、2030年:60%)と同時に注目されたことがあります。それは内燃機関に対しての初めての言及です。具体的には、内燃機関車は今後も相当な期間、自動車産業において重要な役割を果たすとされ、ハイブリッド技術に重点を置き、自動車の省エネ技術と燃費を全面的に向上させることが示されました。
全車HVを前提とした燃費の数値目標(2030年新車の平均燃費3.0リットル/100キロメートル、2035年は2.0リットル/100キロメートル、WLTC)も設定されています。2023年はメディアなどにおいてEVの報道が目立ちましたが、経営、販売、そして政策はHVを選択しつつあると言えるでしょう。
バイオ燃料の可能性
国際エネルギー機関によると、バイオ燃料であるバイオエタノールの最大生産国は米国と言われており、その後ブラジル、インドと続いています。2023年9月にインドで行われたG20(金融世界経済に関する首脳会合)でバイオ燃料に関する新しい動きがありました。米国、ブラジル、インド等の19ヵ国と12ヵ国の国際機関が参加する「グローバルバイオ燃料アライアンス」が設立されたことです。バイオ燃料技術の進歩、持続可能なバイオ燃料使用の増加、バイオ燃料の基準設定と認証、バイオ燃料の安全で安価な供給を確保するための知識ハブとなることを目的としています。
バイオ燃料の国際的な動きが加速するなかで、インドの自動車市場で大きな変化が起こっています。圧縮天然ガス(CNG)とガソリンの2つをエンジンの燃料とする、バイフューエル車の新車販売シェアの増加です。インド道路交通省によると、2023年におけるCNG車の販売台数は前年比約40%増となり、シェアは約9%となりました。
CNG車の人気の理由は2つ挙げられます。1つがガソリン、ディーゼルと比べてCO2排出量が少ないこと、そして総保有コスト(TCO)が安いことです。このCNGをバイオ燃料として生産する動きがあります。
インドには約3億頭の牛が生息していると言われています。この牛から毎日排泄される糞尿を使ってバイオメタンガスを製造することができますが、このバイオメタンガスをCNGとして活用しようとする試みがあります。シミュレーションでは、インド約3億頭の牛から排泄される糞尿を使って、年間約3,300万台の乗用車の燃料(バイオメタンガスを使ったCNG)が供給可能と算出されています。この台数はインドの乗用車保有台数全体の約80%をカバーできる計算です。
改めて注目される内燃機関
自動車の電動化のなかで販売が伸びるハイブリット車、インドで販売が拡大しているCNG車、どちらも内燃機関であり、その内燃機関のCO2削減のためにバイオ燃料、e-フューエル(合成燃料)および水素の活用が進んでいます。
改めて2024年は内燃機関の可能性に注目する必要があると言えるでしょう。
日刊自動車新聞 2024年4月1日掲載(一部加筆・修正しています)。この記事の掲載については、日刊自動車新聞社 の許諾を得ています。無断での複写・転載は禁じます。
執筆者
KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 轟木 光