監査役等と監査人との連携強化の50年を振り返って

「月刊監査役」2024年6月号(公益社団法人日本監査役協会発行)にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

「月刊監査役」2024年6月号(公益社団法人日本監査役協会発行)にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「月刊監査役」2024年6月号に掲載したものです。発行元である日本監査役協会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

日本監査役協会におかれましては、本年に設立50周年を迎えられたこと、心よりお慶び申し上げます。私は、公認会計士、監査法人の構成員として監査業務に携わっていますが、監査の計画説明、結果報告といった形で、監査役等の皆様とのコミュニケーションの機会をいただいています。

もとより「コミュニケーション」という用語は、双方向であることを含意していると思われますが、監査人が準拠すべき一般に公正妥当と認められる監査の基準に含まれる、監査基準報告書260「監査役等とのコミュニケーション」では、我が国において取締役会とともに「ガバナンスに責任を有する者(those charged with governance)」に該当し監査人とのコミュニケーションの対象とされる、監査役等との「有効な双方向のコミュニケーション(effective two-way communication)」の重要性が規定されており、コミュニケーションの双方向性が強調されています。監査役監査基準においても、「監査役及び監査役会は、会計監査人と定期的に会合をもち、必要に応じて監査役会への出席を求めるほか、会計監査人から監査に関する報告を適時かつ随時に受領し、積極的に意見及び情報の交換を行うなど、会計監査人と緊密な連携を保ち実効的かつ効率的な監査を実施することができるよう、そのための体制の整備に努める」と規定しています(監査役監査基準48条1項)。日本監査役協会と日本公認会計士協会による「監査役等と監査人との連携に関する共同研究報告」では、監査役等と監査人がそれぞれの職責を果たす上での相互連携の在り方が示され、双方向性を担保する形となっています。

監査役等と会計監査人との連携について歴史をひもとくと、1972(昭和47)年に日本監査役協会の前身である監査役センターの会計監査基準起草委員会が起草した「会計監査基準(試案)」まで遡ります。具体的には、「会計監査基準(試案)」1条1項に「監査役は、会計監査人と緊密な連係1を保ち、かつ、会計監査人の監査を活用しつつ、自らの監査成果を達成するよう努める」と規定されていました。その後、当該規定は日本監査役協会によって1975(昭和50)年に制定された監査役監査基準に引き継がれ、全部で6項から成る連係に関する規定が設けられました(監査役監査基準21条)。この頃から既に相互の意思疎通など双方向のコミュニケーションに関する規定があったものの、専ら監査役による会計監査人の監査の方法又は結果の相当性評価の必要性に基づくものであり、監査人側からの必要性は余り意識されていなかったようです。

監査役等と監査人との連携強化が大きく進んだのは、2000年代に入ってからでした。監査人に対して、財務諸表監査を通じたコーポレート・ガバナンスの充実・強化への貢献が期待され、監査役等との相互連携の強化に取り組むことが求められるようになりました。そこで、2004(平成16)年には現在の監査基準報告書260につながる監査基準委員会報告第25号「監査役若しくは監査役会又は監査委員会とのコミュニケーション」が公表され、監査人への監査役等とのコミュニケーションに関する要求事項が定められました。その後の金融商品取引法や会社法関連制度、監査基準、コーポレートガバナンス・コード等の連携に関する累次の制度改正も、こうした流れを後押しする形となりました。

会計監査の観点からは、的確な企業及び企業環境や内部統制の理解に基づくリスク・アプローチ、とりわけ重要な虚偽表示リスクの識別・評価がカギとなります。また、監査人の職業的懐疑心は、経営者が誠実であるとも不誠実であるとも想定しないという中立的な観点とされています。不確実性の高い企業環境の中で、経営者が推し進める戦略には正の側面だけでなく、必ず負の側面があります。経営とはそうした性質のものであるからこそ、経営者とは異なる立場の監査役等ともコミュニケーションを行うことで、企業及び企業環境や内部統制の理解を深め、より的確なリスク評価に基づく監査を行い、ひいてはコーポレート・ガバナンスに貢献できるように思います。

監査役等と監査人との連携は、50年にわたる日本監査役協会の歴史とともに、特に2000年代からのコーポレート・ガバナンス強化の流れの中で強化されてきました。次の新たな時代においても、監査役等と監査人との有効な双方向のコミュニケーションは重要であり続けることでしょう。両者の役割は違っても、コーポレート・ガバナンスへの担い手として共に進化し、企業の持続的な成長に寄与する存在であり続けることを期待したいと思います。

 

【注】
1 「連係」という用語は、一緒に手を携えて監査をするのではなく、係わり合って監査するといった趣旨から用いられていたが、2015(平成27)年の改正監査役監査基準において、共同研究報告等で使用されている「連携」と使い分けることの実益と混乱を考え「連携」に統一された(2015(平成27)年改訂監査役監査基準前文 II 3.(4))

【参考文献】
秋坂朝則編著(2016)『監査役監査と公認会計士監査との連携のあり方』同文舘出版。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー/公認会計士 
和久 友子(わく ともこ)

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