本連載は、「自動車産業変革のアクセルを踏む~取り組むべきデジタルジャーニー~」と題したシリーズです。
第3回となる本稿では、データ活用による戦略とアクションを解説し、未来の競争力強化と持続的な成長を目指すためのポイントを紹介します。
1.デジタル社会における顧客価値の変化
近年のデジタル社会においては、自動車産業に限らずあらゆる業界のバリューチェーンにおいて、データの取得が可能になりつつあり、同時にデータの効率的な収集、分析を支えるテクノロジーも急速に進化しています。消費者のニーズは高度に多様化し、出力や燃費といった自動車の性能に加えて、安全性や快適な車内環境、環境負荷の低減など、自動車の所有や走行を通じて得られるライフタイムバリューへ、消費者の価値基準はシフトしています。
こうした自動車産業の大きな変革のなかで、企業の多くはデータやテクノロジーの効果的な利活用が、自社の競争力の強化に欠かせないと認識し、その取組みを進めています。しかし重要なことは、収集したデータを分析し、いかに自社の戦略を最適な意思決定につなげるインサイトを導き出し、それを具体的なアクションに結び付けていくかということです。
2.データに基づくインサイト主導型戦略
KPMGのグローバルDXフレームワーク「KPMG Connected Enterprise」では、企業が推進すべきデータに基づくインサイト主導型戦略とそのアクションについて、定義しています。各論においては、企業の経営戦略やDX成熟度によってさまざまですが、ここでは自動車業界におけるデータ戦略の立案、推進にあたり、考慮すべきポイントをいくつか紹介します。
(1)データ収集や分析に係る戦略が、自社ビジネスの成長の基軸となっているか?
企業のデータ戦略は、自社ビジネスの成長に直結している必要があります。そのためには、顧客、ユーザーを起点として、企業のフロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスをシームレスに連携させ、顧客への提供価値の最大化を目指した、企業活動全体の仕組みを構築することが重要です。このような取組みは、自動車業界において多く見られる部門や業務ごとの個別最適な取組みから脱却し、データ主導で導き出されるインサイトや戦略オプションの幅を広くすることが出来ると考えられます。
(2)データ分析のケイパビリティは、自社ビジネスが属するエコシステムを包含しているか?
企業の責任は、自らが提供するサービスや製品のみにとどまらず、バリューチェーン、サプライチェーン全体において責任を負う時代に突入しています。自動車業界においても、各企業は資源の採掘から製品の破棄に至るまでの過程において、製品の品質や安全性はもちろん、環境対応、人権への配慮、地域社会への貢献など、あらゆる責任を負っています。
また同時に、自社ビジネスが属するエコシステムを俯瞰することは、企業の社会的責任の充足だけでなく、新たなビジネスチャンスの創出にもつながるでしょう。
(3)顧客起点であるか?全方位的に顧客を見ているか?
データ戦略は顧客起点であるべきです。あらゆる顧客チャネル、タッチポイントにおいて、リアルタイムかつ多次元的な視点で顧客理解を深めることで、カスタマージャーニーをパーソナライズし、タイムリーでアクセスがしやすい顧客体験の提供を可能にします。これにより、企業は顧客満足度の向上と、目的が明確化された効率的なカスタマー戦略の推進が実現されます。
(4)情報セキュリティ、個人情報管理について、明確かつ詳細なポリシーを持っているか?
デジタル社会の発展と自動車のコネクテッド化がさらに進めば、企業におけるデータの利活用はより活発となり、セキュリティリスクも高まります。自動車業界では、自社の機密情報や社内外の個人情報管理はもちろん、ユーザー、サプライヤー、パートナー、そして共同開発から得られるデータの保護にまで責任は及ぶでしょう。情報セキュリティに関する明確なポリシーとアップデート、そして適切な情報開示は、企業のデータ戦略の基盤として見なされています。
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執筆者
KPMGコンサルティング
シニアマネジャー 石井 奨