2024年は混沌とした世の中を象徴するような幕開けとなりました。1月1日に発生した能登半島地震では多くの人々が犠牲になり、いまだライフラインが復旧していない地域もあります(執筆時現在)。また、ウクライナ情勢やイスラエルとハマスの紛争などの地政学リスクも高まりを見せています。世界経済フォーラムの年次総会(通称、ダボス会議)では世界の安全保障は大きなテーマとなっており、気候変動への適応の失敗や、生成AI(人工知能)によるリスクも主要テーマとして議論されました。

このようにリスクが多様化し混沌とした社会を企業が生き抜き発展し続けるためには、レジリエンス(危機や環境変化に打ち克つ組織の能力)が高い組織であることが求められます。
本稿では、このような環境変化への対応を意識した「組織レジリエンス」を高めるためのポイントを解説します。

1.企業が認識すべきエマージングリスクの広がり

近年企業を取り巻くリスクは多様化しており、従前より認識されてきた自然災害、サイバーテロ、自社もしくはサプライヤーによる不祥事などに留まらず、地政学や環境・人権リスクといったエマージングリスクの台頭が見られます。エマージングリスクとは、「予期せぬ環境変化により顕在化する、従来は存在・想定されなかった破壊的な影響をもたらし得る新たなリスク」を指し、例として以下のようなものが挙げられます。

  • 世界的なパンデミック(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような新たな感染症の発生など)
  • 国家間の紛争、摩擦
  • 気候変動による生態系の危機
  • デジタルトランスフォーメーション等による既存概念を覆すような破壊的創造
不確実性の高い世界を生き抜くために求められる組織レジリエンスとは?_図表1

出典:KPMG作成

ユーラシアグループが発表した「2024年10大リスク」では、冒頭が「2024年。政治的にはヴォルデモートの年、恐怖の年、口にしてはならない年である。」と始まり、ウクライナ情勢やイスラエルとハマスの紛争など地政学リスクが筆頭に挙げられています。また、世界経済フォーラムが作成した「Global Risks Report 2024」では、今後10年で異常気象や生物多様性の喪失、天然資源不足といった環境に関するリスクも多く懸念されています。

これらのリスクは同時期に顕在化する可能性もあり、複雑化したリスクが顕在化した場合、予め決められた手順どおりの作業を行うだけでは危機を乗り越えることは困難です。発生した危機に適切に対応し、その危機を糧にさらなる成長を遂げるためには、企業としてのレジリエンス強化が重要です。

不確実性の高い世界を生き抜くために求められる組織レジリエンスとは?_図表2

出典:「World Economic Forum, Global Risks Report 2024」を基にKPMG作成

2.不確実性を乗り切るための組織レジリエンスとは

企業が危機を乗り越えるためには、従来のBCPに関する活動は必要不可欠です。一方で、危機発生時には、従業員一人ひとりの能力や組織が連携する能力が問われます。すなわち、実行者である従業員一人ひとりの危機対応能力を高め、かつ組織が一体となってレジリエンスを向上させることが、危機を乗り越え、さらなる成長を遂げるために必要な要素であると言えます。

KPMGコンサルティングでは、この“想定外の危機や環境変化に直面した際に、「組織の危機対応能力」と「従業員一人ひとりの能力や意識」でそれらを乗り越え、さらなる発展を遂げることができる組織の力”を「組織レジリエンス」と呼んでいます。

【組織レジリエンスとは】

不確実性の高い世界を生き抜くために求められる組織レジリエンスとは?_図表3

出典:KPMG作成

3.組織レジリエンスの要素

組織レジリエンスを向上させるためのポイントは、「(1)パーパスの体現」「(2)適切な目標設定と達成」「(3)外部環境を踏まえた意思決定」「(4)ステークホルダー目線のコミュニケーション」「(5)仕事に対する自律性」「(6)適度な組織の揺らぎ」の6つの要素です(下図参照)。

【組織レジリエンスの6つの要素】

不確実性の高い世界を生き抜くために求められる組織レジリエンスとは?_図表4

出典:KPMG作成

(1)パーパスの体現

パーパスとは、「何のために、社会に対してどのような価値を提供しているのか?」という企業の存在意義を定義したものです。パーパスの浸透を行うことで、社会に対する会社の役割を従業員が意識することにつながり、社会的な責任感およびコンプライアンス意識を高めることが可能です。有事においても、パーパスを従業員一人ひとりが体現できる状態であれば、マニュアルや指示がない想定外の状況においても従業員自身が自律的に企業としての使命を果たす行動を取ることができます。

2005年の米国で発生したハリケーンカトリーナで被災したハンコック銀行では、システムが停止し顧客が口座を保有しているか確認できない状態で、従業員は「顧客への奉仕、地域への奉仕」という企業理念に立ち返り、自行の顧客か否かは関係なく融資することを決断し、有事に事業を継続することができました。

(2)適切な目標設定と達成

危機発生時における事業復旧は遠い目標です。ゴールまでの道のりが具体化されておらず、目の前の果たすべきタスクがわからなくては限りある時間とリソースを有効活用できません。

有事においては、「事業復旧」を意識しながらも、まずは「この部屋に入れるように片付けよう」「この製品のラインだけは動かそう」というように達成可能なレベルの目標をゴールから逆算して設定し、それを一つひとつ達成していくことが早期復旧につながります。

平時においても、曖昧な目標設定では従業員が何をすべきか判断がつかなくなり混乱を招いてしまいます。業務効率が低下し、組織としての目標達成に支障が生じます。一方で過度に高い目標を設定すると従業員へのプレッシャーが高まり、その目標を達成する事を動機とし、不正のリスクが高まります。従業員が何をするべきか明確に把握しやすく、かつ過度なプレッシャーを与えない適切な目標設定を行うことが必要です。

(3)外部環境を踏まえた意思決定

有事では短時間で難易度の高い意思決定が数多く求められます。そのような状況下で社内の事情だけを鑑みた意思決定を行ってしまうと、外部との連携で失敗するという事例も散見されます。有事こそプロアクティブに調達先、顧客、そして社会インフラなどの被害状況といった外部環境の変化を的確に捉え、その内容を意思決定の際に考慮することが重要です。

有事の際にはさまざまな情報媒体で断片的に情報が開示されるため、外部環境の情報収集はテレビ・ラジオといったメディアに限らず、SNS、株主業界団体・他社の開示情報、NGO・NPOからの発信・要請など複数の情報ソースを把握し、幅広く確認することが重要です。

(4)ステークホルダー目線のコミュニケーション

有事の際には、自社が「稼働しているか」「被害はどの程度なのか」などステークホルダーが自社の情報を積極的に収集しようと心がけます。そのため、ステークホルダーの立場に立って正確かつ迅速に情報を伝えることが重要です。

地震や風水害などの自然災害の対応に限らず、不祥事が発生した際においても、ステークホルダーの立場に立ったコミュニケーションが有効です。誠意をもって事実を正確に伝えることでステークホルダーからの信用の低下を最低限に抑えることができます。ステークホルダーの「困っていること」や「自社に求めている情報」は何か?という視点で情報をプロアクティブに収集し、その期待に応える情報発信をすることでステークホルダーの信頼を獲得することができます。有事の混乱のなか、平時から意識していないことを急に実施しようとしても難しいため、平時からステークホルダーとのコミュニケーション方針を整備し、その方針に基づいて行動することがポイントとなります。

(5)仕事に対する自律性

被災中は役職員など意思決定を行う人員が不足し、一人ひとりにタスクを明確に割り振り、指示を出すことが困難なケースもあるため、従業員一人ひとりが自分の役割を考えて行動することが求められます。平時から従業員にオーナーシップを根付かせることに加え、現場の判断を経営層が尊重し、「仮に失敗しても経営層が責任をとる」という明確なメッセージを普段から発信し、従業員の心理的安全性を確保することが重要です。

組織の倫理観を醸成する観点からも自律性の向上は重要です。組織は集団心理が働くことからミスや不正に対して責任感を失う場合があります。そのような組織の風土は不祥事の発生を招いてしまうことから注意が必要です。各部署のOBなど失敗の経験が豊富な社員から監視や助言が得られる体制を構築することで自律性を向上させ組織の責任感を向上させることができます。

(6)適度な組織の揺らぎ

有事の際、被害の状況により役員や部長といった上位の意思決定者が現場で必ずしも稼働できないケースも多くなります。そうした場合には、平時のルールに固執せず、柔軟に対応体制を変更することが重要です。危機対応のセオリーは、現場で判断を下しスピーディーに行動することです。そのためには、現場での判断を可能にする体制を平時から作っておくこと、また社内だけで対応しようとするのではなく、必要に応じてサプライヤーや外部の専門家、地域等と共助・連携しながら対応を進めていくことが肝心です。

異動や外部の人材の起用がない組織である場合、各組織の業務が属人化している状態を招き、他の人や組織が見ても内容を把握することが難しくなります。そのような組織では不正や不祥事が起きやすい状態になりがちなため、注意が必要です。

平時から、組織もしくはプロジェクトに敢えて異なる価値観や視点を持った人材を採用することにより、「組織を安定させすぎない」ようにする、適度にローテーションを行い風通しの良い文化を醸成するなど、組織設計における工夫が求められます。

4.まとめ

ここまで組織レジリエンス向上のポイントについて解説しましたが、自社・自組織の「組織レジリエンス」がどの程度のレベルにあるかを自ら判断することは難しいため、客観的な第三者から評価を受ける、従業員アンケートを行いレジリエンスに対する認識を把握するなど、立ち止まって定点観測を行うことも重要です。

どのような組織にも危機は必ず発生します。発生することを前提として、発生した時にいかにレピュテーション棄損や事業影響を最小限に抑えるかという観点で平時からレジリエンスを高めておくことが重要となります。

レジリエンスの高い組織は、危機を乗り越えることで、さらに強い組織へと変革できます。本稿で紹介した組織レジリエンスを構成する6つの要素を参考にしていただき、自社の立ち位置・課題を把握のうえ、継続的にレジリエンスを高める活動を実施することで、不確実性の高い社会で生き残る強い組織に変革する一助となれば幸いです。

執筆者

KPMGコンサルティング
アソシエイトパートナー 土谷 豪
シニアコンサルタント 片山 はるな
コンサルタント 福井 良祐

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