CFOにとっての課題である税~グローバルな視点と日本企業への示唆~
本稿では、2023年10月18日に開催されたセミナー「 CFOにとっての課題である税~グローバルな視点と日本企業への示唆~」の概要を報告するとともに、BEPS2.0が日系企業に与える3つの大きな影響について解説します。
本稿では、「 CFOにとっての課題である税~グローバルな視点と日本企業への示唆~」の概要を報告するとともに、BEPS2.0が日系企業に与える3つの大きな影響について解説します。
2023年7月、OECD( 経済協力開発機構)はBEPS2.0プロジェクトに関して、BEPS( 税源浸食と利益移転)に関するOECD/G20包摂的枠組みに参加する世界138ヵ国・地域( 加盟国は143ヵ国・地域)が国際条約の大筋と実施に関する枠組み案の2つに合意したと発表しました。OECD/G20包摂的枠組みは2021年に合意された国際課税の新しいルールで、第一の柱(Pillar 1:課税権の新たな配分ルール)と第二の柱(Pillar 2:グローバル・ミニマム課税)から構成されます。そして、KPMGでは第二の柱がすでに50ヵ国・地域で法制化されていることを確認するとともに、EUでは企業の納税情報に関する情報開示を求める要求の高まりを受け、2024年から国別の納税情報等について開示義務を課す制度が始まります。これら国際税務に関する動きは、これまで「税金は国境超えない」とした国際課税制度の根幹を覆す約100年ぶりの大変革と言われています。
そのような状況のなかでCFOが関与すべき経営課題として税務が重要視されつつあり、企業としてグローバルな経営戦略のなかに税務プランニングやコミュニケーションをどのように組み込んでいくか、ということが重要になってきています。
本稿では、2023年10月18日に開催されたセミナー「 CFOにとっての課題である税 ~グローバルな視点と日本企業への示唆~」(ブランズウィック・グループ、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業、KPMG税理士法人共催)の概要を報告するとともに、BEPS2.0が日系企業に与える3つの大きな影響について解説します。
Point
POINT 1 パスカル・サンタマン教授による 基調講演での示唆
前OECD租税政策・税務行政センター局長のパスカル・サンタマン教授は、基調講演で国際課税の歴史には政治的背景が密接に関連していることと、BEPSそのものの議論と各国・地域の対応状況並びに今後の展望について解説した。
POINT 2 BEPS2.0導入後は日本版税務 ガバナンス体制の構築が必要
日本では、令和5 年度税制改正で所得合算ルール(IIR )が法制化され、2024 年4月1日以降後に開始する会計年度から適用開始となる。GloBEルールの国内法制化のポイントは、IIR( 所得合算ルール)、UTPR( 軽課税所得ルール)、QDMTT( 適格国内ミニマムトップアップ税)だが、これらに迅速に対応するには、日本版税務ガバナンス体制の構築が必要である。
POINT 3 BEPS2.0導入後はM&Aの実務が変わる
導入後、M&Aの実務では「IIR等の納税義務・税務リスクの引継ぎ」、「税務デューデリジェンス(DD)の限界/SPA ( 株式譲渡契約書)の重要性」、「買収による国・地域単位の実効税率への影響」を考慮する必要がある。
ハイライト
Ⅰ 開催概要
2023年10月18日( 水)開催の「CFOにとって課題である税~ グローバルな視点
と日本企業への示唆~1」(以下、「本セミナー」という)には、日系大手企業のCFO、執行役員、財務・税務の責任者をはじめとする多くのクライアントにご来場いただき、各講演を熱心に聴講していただきました( 最終登録170名/出席124名)。
本セミナーでは、前OECD租税政策・税務行政センター局長、パスカル・サンタマン教授( 現・ブランズウィック・グループパートナー)にご登壇いただき、「国際課税に関する議論の軌跡とこれからの展望および企業の経営課題としての税務の重要性」という、今最も注目されているテーマについて講演していただきました。そして、こうした国際的な潮流が及ぼす日本国内への影響について、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業とKPMG税理士法人が解説し、ブランズウィック・グループ東京事務所が戦略的なステークホルダー対応やレピュテーションマネジメントのポイントを共有しました。
本セミナー終了後のカクテルレセプションでは、ご参加いただいた100名以上のクライアントと、パスカル・サンタマン教授をはじめとする講演者ならびにKPMGのパートナー、マネジャーとで活発な意見交換が行われ、大盛況のうちに幕を閉じました。
【開催概要】
開催日:2023年10月18日( 水)
開催場所: ANAインターコンチネンタル東京( プロミネンス)
共催: ブランズウィック・グループ、西村あさひ法律事務所、KPMG税理士法人
プログラム:
① 開会にあたって( 東京大学名誉教授 中里 実 先生)
② 開会の挨拶(KPMG税理士法人 宮原 雄一)
③ 基調講演( ブランズウィック・グループ パスカル・サンタマン 教授)
④『 租税紛争リスクへの戦略的対応』( 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 弁護士 伊藤 剛志 氏)
⑤『 BEPS2.0が日系企業にもたらす実務上の影響とその対策法』(KPMG税理士法人 小出 一成)
⑥『 CFOにとっての課題としての危機対応とレピュテーションマネジメント』
(ブランズウィック・グループ 宇井理人 氏)
Ⅱ 基調講演 パスカル・サンタマン教授
パスカル・サンタマン教授は、OECD租税政策・税務行政センター局長として、2012年から10 年以上にわたり国際課税プロジェクトをリードしてきました。そして、不可能とも言われた多国間交渉をまとめ、世界のGDPの9 0%以上を占める国々の合意を実現しました。昨年からはブランズウィック・グループ パリ事務所にパートナーとして参画し、税務関係を含む政策・規制に関わる重要課題について、グローバルな視点から企業にアドバイスを行っています。
サンタマン教授の講演は、OECD租税政策・税務行政センター局長に就任され
てからの過去とBEPSを含む国際課税の変遷について振り返りながら、国際情勢の変化、G20における合意、リーマンショックと金融危機、そしてウクライナ情勢まで、国際課税の歴史には政治的背景が密接に関連していることと、BEPSそのものの議論と各国・地域の対応状況について解説されました。
第1の柱については、現在、米国の署名の問題が取りざたされていますが、その背景に何があるのか、今後どのような変遷が予想されるかなど、貴重な意見を述べられました。また、日本とOECDとの親密性、共同性についてもお話いただきました。
Ⅲ BEPS2.0が日系企業にもたらす実務上の影響とその対策
KPMG税理士法人からは、BEPS2.0 対策プロジェクトリーダーである小出 一成がBEPS2.0導入後に日系企業に与える3つの実務的な大きな影響について解説しました。
1 .税務ガバナンス体制構築の必要性
BEPS第2の柱( グローバル・ミニマム課税)に関して、日本では令和5 年度税制改正で所得合算ルール( IIR )が法制化され、2024年4月1日以降に開始する対象会計年度から適用開始となります。今後、世界中で法制化が進むにつれて長い闘いが始まることになると思われます。
全世界共通の「GloBEルール」の国内法制化のポイントは、IIR( 所得合算ルール)、UTPR( 軽課税所得ルール)、QDMTT( 適格国内ミニマムトップアップ税)の3 つです。これらの非常に煩雑な作業・計算を短期間で終わらせる必要がありますが、従前の体制のままでは企業の事務負担が大きく、処理しきれないと考えます。この課題を解決するには、日本版税務ガバナンス体制の構築が必要です。
主な要素として、①CFOを主導とした税務部中心の税務ガバナンス体制構築(デュアルレポーティング型)、②税務を「事業」として事業計画、重要な投資案件を含む意思決定時の関与の社内規定・整備、③J-CFC( タックスヘイブン対策税制)およびCbCR( 国別報告書)、GloBE情報申告業務の高度化とアウトソーシングの検討、④税務申告に関するグローバルで統一されたツールの選定と導入が必要と考えます。なお、これらについては、すでに対応済の日系大手企業も複数存在します。
2. M&Aの実務が変わる
今後は、主に①IIR等の納税義務・税務リスクの引継ぎ、②税務デューデリジェンス(DD)の限界/SPA( 株式譲渡契約書)の重要性、③買収による国・地域単位の実効税率への影響を考慮する必要があります。特に③では、バリュエーションにおける考慮、買収後の事務負担も念頭に置かなければなりません。
つまり、M&Aの実務においては、買収先の評価に詳細のIIR租税負担を考慮する必要があるものの、時間的な制約から難しくなると考えられます。したがって、これまで以上にSPAの重要性が増加することになります。
3. 税務DX、税務データマネジメントの 重要性
KPMG税理士法人では、BEPS2.0 への対策法として、グローバル・コンプライアンス・マネジメント・サービス(GCMS )を提供しています。GCMSは各種計算・申告業務をはじめとしたコンプライアンス業務と、KPMG Digital Gatewayを利用した税務ガバナンス構築支援を掛け合わせたサービスです。KPMG Digital Gatewayには組織図、質問票、自動化、タスク管理、文書管理、レポート機能が備わっており、情報収集から申告書対応まで一貫して対応可能であり、さらには可視化も実現します。また、KPMG Digital Gatewayを起点に世界各国のKPMGの拠点と連携し、各国・地域の最新状況を踏まえた形でサービスを提供いたします。
GCMSをご利用いただくことにより、グローバルな一貫性、標準化と自動化、継続的改善、現地の専門知識、リアルタイムの可視性、一元化( 地方分権型から中央集権型へ)、柔軟性と拡張性、これらの実現が期待できます。
Ⅳ カクテルレセプション
セミナー実施後のカクテルレセプションでは、パスカル・サンタマン教授を中心に、多くの参加者がBEPS2.0 の準備状況について議論を重ねていました。それは、これまでに経験したことがないほど活発かつ有意義な時間でした。
今後、BEPS2.0 は確実に日系企業の税務実務に影響を与えるCFOアジェンダとなるはずです。そのようなときに、BEPSの最重要人物であったパスカル・サンタマン教授をお招きしてセミナーを実施できたことは非常に感慨深く、そして意義のあるものであったと実感しております。本セミナーの内容をセミナー資料と併せて配信いたします。
執筆者
KPMG税理士法人
パートナー 小出 一成