分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点

旬刊経理情報2023年12月20日特別特大号の「12月決算の直前対策」にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

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この記事は、「旬刊経理情報(中央経済社発行)2023年12月20日特別特大号(No.1697)」に掲載したものです。発行元である中央経済社の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

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ポイント

  • ASBJおよびJICPAは、パーシャルスピンオフの会計処理に関する公開草案を公表している。
  • 提案される会計処理は、次のものである。
    • 分離元の個別財務諸表では、子会社株式の個別財務諸表上の帳簿価額でその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する。
    • 分離元の連結財務諸表では、子会社株式の連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額する。
    • パーシャルスピンオフによって解消する一時差異も、連結税効果の対象となる。

はじめに

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」という)は、2023年10月6日に、企業会計基準適用指針公開草案第80号(企業会計基準適用指針第2号の改正案)「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、「自己株式等会計適用指針案)という)および企業会計基準適用指針公開草案第81号(企業会計基準適用指針第28号の改正案)「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」(以下、「税効果適用指針案」という)を公表した。また、同日、日本公認会計士協会(以下、「JICPA」という)も、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正案(以下、「資本連結実務指針案」という)を公表している。自己株式等会計適用指針案、税効果適用指針案および資本連結実務指針案(以下、「本公開草案」という)へのコメント募集は、2023年12月6日までとなっている。

本章では、パーシャルスピンオフの概要および本公開草案の内容について解説する。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを、あらかじめ申し添える。

パーシャルスピンオフの概要

パーシャルスピンオフとは、スピンオフのうち持分の一部を残すものをいう。まず、パーシャルスピンオフの概要を説明する前に、スピンオフから確認する。

スピンオフは、「⾃社内の特定の事業部⾨⼜は⼦会社を切り出し、独⽴させるもの。独⽴した会社の株式は元の会社の株主に交付される」(経済産業省「スピンオフの活⽤に関する⼿引」令和5年8月、以下「スピンオフの手引」という)とされている。その手法としては、分割型分割や子会社株式を株主に現物配当する方法が考えられる。

図表1:スピンオフの手法

分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点-1

分割型分割とは、分離元企業内の事業(図表1左図の事業A)を分社化し、分社化された会社(図表1左図の子会社A)の発行する株式を分離元企業が対価として受け取り、当該株式を分離元企業の株主に分配する取引である。なお、会社法上は、分割型分割の規定はなく、分社型分割とその対価の株式の分配として整理される。また、現物配当は、分離元企業が所有する子会社株式を、分離元企業の株主に現物配当する取引である(図表1右図)。このような、分割型分割もしくは子会社株式の現物配当によって、分離元企業グループから、事業もしくは子会社を切り離すことができる。

スピンオフは一般に、経営資源の選択と集中を可能にし、グループから切り離されることで分離された企業の経営の自由度を高め、コングロマリット・ディスカウント(多角化された企業の企業価値が、各事業の価値の総和よりも低い状態)の解消につながるなどのメリットが挙げられる。

税務上も2017年度税制改正により、一定の要件を満たすスピンオフが適格組織再編として認められ、譲渡益などの課税が緩和された。

一方で、適格組織再編として認められた後も、わが国において実施されたスピンオフは非常に少ない。これは、経産省担当者解説1によれば、スピンオフでは、スピンオフされた企業(図表1の子会社A)とスピンオフを行う企業(図表1の分離元)との資本関係が完全に解消することで、スピンオフを行う企業のブランドやシステムの継続利用および取引先等との関係性維持、スピンオフされた企業の従業員のモチベーション維持などの問題があり、また、スピンオフ後にスピンオフを行う企業はスピンオフされた企業が成長しても、金銭的メリットを享受することができないことなどを、その要因として挙げている。

この状況を踏まえ、2023年度税制改正において、スピンオフをより活用しやすくする環境整備として、持分の一部を残すスピンオフ(パーシャルスピンオフ)も、一定の要件を満たす場合に、適格組織再編に加えられた。

なお、適格組織再編となるスピンオフは、分割型分割と現物配当2の2つの手法が対象だが、適格組織再編となるパーシャルスピンオフは、現物配当による場合のみとなる。よって、事業を適格組織再編としてパーシャルスピンオフする場合には、事業を税務上適格となる分社型分割によって子会社化した後に、当該子会社株式の一部を税務上適格となるように現物配当することが考えられる(税務上は、分割型分割は分社型分割+現物配当という2つの取引ではなく、1つの取引として整理されている)。ここで、分社型分割の適格要件に完全支配関係の継続の見込みがあるが、これは適格株式分配の直前まで完全支配関係の継続が見込まれればよいとされ、パーシャルスピンオフにおいても同様とされる(スピンオフの手引Q27)。

パーシャルスピンオフを行う企業の個別財務諸表における会計処理

では、パーシャルスピンオフについて、現行基準に照らした場合、どのような会計処理となるのであろうか。

まず、パーシャルスピンオフを行う企業(分離元企業)の個別財務諸表上の会計処理を確認する。パーシャルスピンオフは、子会社株式を株主に現物配当する行為であるが、現物配当を行う場合、「配当財産が金銭以外の財産である場合、配当の効力発生日(会社法第454条第1項第3号)における配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として、配当財産の種類等に応じた表示区分に計上し、配当財産の時価をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する」(企業会計基準適用指針2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」10項)とされる。ただし、分割型の会社分割(按分型)と保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合には、「配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する。」(同項ただし書き)とされる3

つまり、前記の現行の取扱いに照らすと、スピンオフ(分割型分割または保有するすべての子会社株式の現物配当)については、適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する一方で、パーシャルスピンオフに関しては、前記10項の原則どおり時価をもってその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額し、配当財産である子会社株式の帳簿価額と時価との差額を損益として認識することとなる。

この点について、次の自己株式等会計適用指針案第38-2項に挙げられた理由から、パーシャルスピンオフの場合も、上記10項ただし書きのスピンオフ(分割型の会社分割(按分型)と保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合)と同様の取扱いとすることが適当と考えられた。

自己株式等会計適用指針案第38-2項(抜粋)

一部の持分を残す按分型の完全子会社株式の配当が株式数に応じて比例的に行われ、スピンオフとして当該完全子会社の事業を分離・独立させる目的で行われる場合には、既存の株主以外の第三者が取引に参加していないことから、取引の趣旨を踏まえ総体としての株主の観点から取引全体を俯瞰すると、株式配当の実施会社を通じて保有していた完全子会社を自ら直接保有することとなる組織再編であると考えられる。この場合、総体としての株主にとっては当該完全子会社に対する投資が継続していると考えられるため、共通支配下の取引である組織再編に類似した状況と考えられる。


そこで、自己株式等会計適用指針案では、10項ただし書きの適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する対象に、「保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合」を加えることが提案されている。

なお、適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する対象に追加される取引は税務上適格となるパーシャルスピンオフと同じ範囲ではないことに注意が必要である。(図表2)

図表2:現物配当の個別財務諸表上の会計処理

分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点-2

パーシャルスピンオフを行う企業の連結財務諸表における会計処理

次に、提案されるパーシャルスピンオフを行う企業(分離元企業)の連結財務諸表上の会計処理を確認する。

(1)基本的な考え方

資本連結実務指針案では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、パーシャルスピンオフを行う企業の連結財務諸表においても、連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するのが適切と考えられた。ただし、連結財務諸表上の帳簿価額と個別財務諸表上の帳簿価額には差額(投資の修正額)が生じ得ることから、子会社株式に係る個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額の差額の取扱いが提案されている。(図表3)

図表3:資本連結実務指針案

分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点-3

(2)投資の修正額ごとの取扱いの提案

連結財務諸表において、投資の修正額が生じるのは、次の3つ場合であり、資本連結実務指針案では、それぞれの取扱いを提案している。

  1. 個別財務諸表上で子会社株式の取得原価に含まれる付随費用
  2. 支配獲得後の子会社株式の追加取得等の際の持分変動額と対価の差額
  3. その他


1.個別財務諸表上で子会社株式の取得原価に含まれる付随費用
子会社株式の取得にかかる付随費用は、個別財務諸表上では帳簿価額に含まれるものの、連結財務諸表上では支配獲得時に費用処理されているため、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差が生じる。そのため、パーシャルスピンオフの会計処理を連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するために、個別財務諸表で計上したその他資本剰余金またはその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額について、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正することが提案されている(図表4)。

図表4:配当した部分に対応する付随費用相当の調整

分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点-4

2.支配獲得後の子会社株式の追加取得等の際の持分変動額と対価の差額
追加取得時等には、個別財務諸表上は追加投資額分の帳簿価額が増加するが、連結財務諸表上は追加取得等により増加した親会社持分額分の帳簿価額が増加するので、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差が生じる(当該差額は、連結財務諸表上資本剰余金として会計処理されている)。そのため、パーシャルスピンオフの会計処理を連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するためには、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金またはその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額について、当該差額部分に対応する額を調整することが提案されている。

なお、これにより、子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金は、パーシャルスピンオフ後も連結貸借対照表上で資本剰余金として計上され続けることとなり、パーシャルスピンオフ以外の取引によって支配を喪失して連結範囲から除外する場合の取扱いとも整合的となる(図表5)。

図表5:配当した部分に対応する追加取得時の差額の調整

分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点-5

3.その他
そして前記1、2以外の場合、たとえば、支配獲得後に子会社が獲得した包括利益の持分相当額分の連結財務諸表上の帳簿価額が増減し、個別財務諸表上の帳簿価額との間に差が生じる。この差額は、連結財務諸表上利益剰余金やその他の包括利益累計額に計上されている。

資本連結実務指針案では、パーシャルスピンオフによって持分が減少するのに伴い、利益剰余金やその他の包括利益累計額に計上されたこの差額のうち配当した部分に対応する額を連結株主資本等変動計算書(SS)上で、利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上することが提案されている。このとき、その他の包括利益累計額は純損益に振り替えることはしないものとされている。

なお、パーシャルスピンオフによって残余持分が子会社株式および関連会社株式に該当しなくなる場合、この残余持分は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価する(企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」29項)ため、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額との差額のうち残余持分にかかる差額も、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する(図表6)。

図表6:3.その他の場合で、残余持分が子会社株式及および関連会社株式に該当しなくなる場合

分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点-6

配当対象となる子会社株式に係る連結税効果の取扱い

最後に、提案される配当対象となる子会社株式に係る連結税効果の取扱いを確認する。税効果適用指針案では、パーシャルスピンオフによって解消する連結固有の一時差異も「連結固有の将来減算一時差異又は連結固有の将来加算一時差異」として扱うことを提案している。

これは、単なる定義の問題である。連結固有の将来減算一時差異または連結固有の将来加算一時差異は、一時差異の解消時に連結財務諸表における利益を減額または増額されるものとして定義されているが、自己株式等会計適用指針案および資本連結実務指針案で提案される会計処理では、損益を認識せずこれらの定義に該当しないため、このような提案がなされている。

なお税効果の認識にあたっては、税効果適用指針案第124-3項では、企業会計基準適用指針28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」8項(3)の定めに従って税金の見積額を繰延税金資産または繰延税金負債として計上することとされ、「税制適格となる場合には将来の税金の見積額はゼロとなる一方、税制非適格となる場合には配当により税務上損金算入されることにより減少する税金の額又は配当時に追加で納付が見込まれる税金の額が税金の見積額となる」ことが明示されている(図表7)。

図表7:税効果適用指針案

分離元企業における現物配当の会計処理等 パーシャルスピンオフ対応改正会計基準案の要点-7

適用時期

本公開草案は、最終基準公表日後ただちに適用し、最終基準適用日前に行われたパーシャルスピンオフについて最終基準適用日における会計処理の見直しおよび遡及的な処理は行わないことが提案されている。

おわりに

スピンオフは、事業ポートフォリオの最適化を図る手法の1つであるが、わが国における利用例は非常に少ない。段階的に分離・独立させたい、分離元企業との関係を残したいというニーズに対応することで、スピンオフをより活用しやすくする環境整備の一環として、パーシャルスピンオフ税制が創設された。すでに、パーシャルスピンオフによる子会社の分離を検討していることを公表している企業グループも見受けられるため、今後の活用も想定される。

このような環境下で、会計基準がパーシャルスピンオフに対応することは歓迎すべきことと考える。しかし、本公開草案は、枝葉の会計技術的な規定が目立ってしまっている結果、全体像が見えづらく一読しただけでは理解が難しいものになってしまっている。本稿が本公開草案への理解の一助となれば幸いである。

1 大西謙佑・林優里著「「『スピンオフ』の活用に関する手引」改訂のポイント」(『旬刊経理情報』2023年8月10日号(No.1685)

2 税務上は適格株式分配であるが、本稿では「現物配当」としている。

3 配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する対象には、前記の他、企業集団内の企業へ配当する場合、および、市場価格がないことなどにより公正な評価額を合理的に算定することが困難と認められる場合がある(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針第10項ただし書き(3)(4))。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
シニアマネジャー 公認会計士
鈴木 和仁(すずき かずひと)

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