東京証券取引所、「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」等を公表

2024年3月28日、東京証券取引所は「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」等を公表しました。

2024年3月28日、東京証券取引所は「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」等を公表しました。

1.経緯

2022年6月及び12月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下「DWG」という)報告において、金融商品取引法上の四半期報告書(第1・第3四半期)を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」する方向性が示されるとともに、「一本化」の具体化における各論点の方向性が示されました。

DWG報告を受け、東京証券取引所(以下「東証」という)は、2023年6月に「四半期開示の見直しに関する実務検討会」を設置し、DWG報告で示された「一本化」の具体的な方向性に沿った実務の実現に向けて検討を重ね、2023年11月に「四半期開示の見直しに関する実務の方針」を公表しました。

また、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)(以下「改正金商法」という)が2023年11月に成立し、四半期報告書(第1・第3四半期)が四半期決算短信に「一本化」されることが確定しました。

これらを踏まえ、東証は、四半期開示の見直し等に関して、所要の上場制度の整備を行うために、2023年12月18日に「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直しに関する上場制度の見直し等について」を公表し、パブリック・コメントを実施(2023年12月18日~2024年1月17日)した後、2024年3月28日に「金融商品取引法改正に伴う四半期開示の見直し等に係る有価証券上場規程等の一部改正について」等(以下「本改正」という)を公表しました。

なお、東証の公表にあわせて、名古屋証券取引所、福岡証券取引所及び札幌証券取引所も、同様の改正を行っています。

2.概要

本改正の主な内容は以下のとおりです。

(1)第1・第3四半期決算短信の取扱い

開示事項

第1・第3四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表又は四半期連結財務諸表(以下「四半期財務諸表等」という)について、以下の2つの財務報告の枠組みを選択することができます。

  • 適正表示の枠組み
  • 準拠性の枠組み

適正表示の枠組みは、会計基準並びに財務諸表等規則及び連結財務諸表規則に従い会計処理及び開示を行うものです。この場合には、改正前の四半期報告書と同水準の四半期財務諸表等を作成することとなります。

一方で、準拠性の枠組みの場合、会計基準等に従って会計処理を行うものの、開示については、以下表において○が付された最低限開示することが求められる事項を除き、省略が認められます。

本表 項目 見直し後 (参考)見直し前
第1・第3四半期決算短信 四半期決算短信 四半期報告書
BS
PL
CF 2Qのみ○
主な注記 継続企業の前提
株主資本の金額に著しい変動があった場合の注記
連結・持分法の範囲の変更
会計方針の変更、会計上の見積りの変更、修正再表示に関する注記
四半期特有の会計処理
連結範囲外の子会社等(重要なもの)
追加情報
四半期BS・PL・CF・SS関係 CFのみ〇
(本表を開示した場合は不要)
金融商品関係
有価証券関係
デリバティブ取引関係
企業結合関係
収益認識関係
セグメント情報
一株当たり情報
重要な後発事象

企業集団の事業の運営において重要であり、かつ、前事業年度末から著しい変動が認められる場合に注記が必要。また、企業集団の総資産や総負債の大部分を金融資産や金融負債等が占める場合を除き、第1四半期及び第3四半期は省略可。一方、IFRS®会計基準では、これらにかかわらず注記が必要(IAS第34号「期中財務報告」第16A項)。

出典:本改正及びDWG(令和4年度)資料2事務局参考資料(2022年10月5日)を基にあずさ監査法人作成

そのうえで、投資者のニーズに応じて、上場会社の判断により、以下に例示する「投資判断に有用と考えられる情報」を、会計基準に基づき開示することが可能です。

  • 連結キャッシュ・フロー計算書
  • 財務諸表に係る注記(貸借対照表関係の注記、損益計算書関係の注記、金融商品関係の注記、有価証券関係の注記、デリバティブ関係の注記、重要な後発事象の注記等)

なお、四半期財務諸表等の作成方法については、「四半期財務諸表等の作成基準」が有価証券上場規程施行規則の別添として規定され、その他作成にあたっての留意事項は、「決算短信・四半期決算短信作成要領等」において定められています。


公認会計士又は監査法人によるレビュー

第1・第3四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等に対する公認会計士又は監査法人(以下「公認会計士等」という)によるレビューを受けることは原則として任意とされます。

一方で、会計不正等が起こった場合等、財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合には、取引所の規則により、公認会計士等によるレビューが一定期間義務付けられます。具体的には、以下の要件のいずれかに該当した場合、要件該当以後に開示される第1・第3四半期財務諸表等に対して公認会計士等によるレビューを受けることが義務付けられます。なお、要件該当後に提出される有価証券報告書及び内部統制報告書において、以下の要件のいずれにも該当しない場合には、レビューの義務付けは解除されます。

  • 直近の有価証券報告書、半期報告書又は四半期決算短信(レビューを受ける場合)において、無限定適正意見(無限定の結論)以外の監査意見(レビューの結論)が付される場合(注1)
  • 直近の内部統制監査報告書において、無限定適正意見以外の監査意見が付される場合
  • 直近の内部統制報告書において、内部統制に開示すべき重要な不備がある場合(注1)
  • 直近の有価証券報告書又は半期報告書が当初の提出期限内に提出されない場合(注2)
  • 当期の半期報告書の訂正を行う場合であって、訂正後の財務諸表に対してレビュー報告書が添付される場合(注2)

    (注1)直近の有価証券報告書、半期報告書若しくは四半期決算短信(レビューを受ける場合)又は内部統制報告書の訂正を行い、訂正後の報告書等において要件に該当する場合を含む。

    (注2)財務諸表の信頼性の観点から問題がないことが明らかな場合として、当取引所が認める場合を除く。

レビューの有無、レビュー有りの場合は義務又は任意について、決算短信のサマリー情報において開示する必要があります。レビューを受ける場合には、レビュー報告書の添付が必要です。


開示タイミング

第1・第3四半期決算短信は、決算の内容が定まり次第開示することが求められており、半期報告書の法定提出期限に準じて、各四半期末日後45日以内に開示することが原則となります。第1・第3四半期決算短信の開示時期が、四半期末日後45日を超えることが見込まれる場合又は45日を超えることとなった場合には、直ちにその理由及び決算の内容の開示時期に係る具体的な見込み又は計画について開示する必要があります。

レビューを受ける場合に「決算の内容が定まった」と判断する時点の考え方は、以下のとおりで、レビューを任意で受ける場合には、公認会計士等とも協議の上、開示タイミングをどうするか決定する必要があります。

  • レビューを義務で受ける場合は、原則としてレビューが完了した時点
  • レビューを任意で受ける場合は、各上場会社による判断(レビュー完了前又はレビュー完了次第のいずれか。レビュー完了前とする場合は、レビュー完了後に改めてレビュー報告書を添付した決算短信の開示が必要)

(2)第2四半期・通期決算短信の取扱い

第2四半期・通期決算短信は、半期報告書・有価証券報告書に対する速報という位置付けのままであり、見直し前の取扱いが維持されます。

第1・第3四半期決算短信について規則によりレビューが義務付けられる場合であっても、第2四半期・通期決算短信はレビューや監査の対象外です。

(3)上場規則の実効性の確保

四半期報告書の廃止に伴い、東証における上場規則の実効性向上の観点から必要な見直しが行われるものです。

  • 上場会社に対する調査及び調査結果の報告の要請(会計不正等の疑義が生じた場合などに適用することを想定)
  • 公認会計士等との情報連携の強化(会計不正の概要を早期に把握するための仕組みを構築する観点から、公認会計士等に対して事情説明等を求める場合の上場会社の協力義務について適用範囲を拡大)

3.施行日

本改正は、改正金商法の施行日(2024年4月1日)から施行されます。上記2.(1)「第1・第3四半期決算短信の取扱い」については、2024年4月1日以後に開始する四半期会計期間に係る第1・第3四半期決算短信から適用されます。

執筆者

会計プラクティス部
マネジャー 秋本 祐哉

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