企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表

2024年3月22日に、パーシャルスピンオフの会計処理に関して、企業会計基準委員会から改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」および改正「税効果会計に係る会計基準の適用指針」が、日本公認会計士協会から改正「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」が公表されました。

パーシャルスピンオフの会計処理に関して、企業会計基準委員会から改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」および改正「税効果会計に係る会計基準の適用指針」が…

企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、2024年3月22日に、改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下、改正自己株式等会計適用指針)および改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、改正税効果適用指針)を公表しました。

また、同日、日本公認会計士協会(以下、JICPA)も、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正(以下、改正資本連結実務指針)を公表しました。

改正自己株式等会計適用指針、改正税効果適用指針および改正資本連結実務指針(以下、本適用指針等)は、2023年10月に公表された公開草案へのコメントを踏まえ検討された結果、最終基準化されたものです。

経緯

企業の事業部門を分離・独立させるスピンオフの手法としては、分割型分割や子会社株式を株主に現物配当する方法があり、税務上も一定の条件を満たす場合、適格分割型分割・適格株式分配として認められていました。

上記の適格株式分配は完全子会社株式のすべてを現物分配するスピンオフが対象となりますが、2023年度税制改正で、完全子会社株式の現物分配の際に一部持分(20%未満)を残すパーシャルスピンオフで一定の要件を満たす場合も、適格組織再編に加えられました(2023年度末までの時限措置。なお、2024年度税制改正にて、要件の変更はあるものの、適用期限が2028年3月31日まで延長。)。

これを受けて、パーシャルスピンオフに関する会計処理を検討することが企業会計基準諮問会議からASBJへ提言され、当該提言を受けて検討し改正されたのが、改正自己株式等会計適用指針と改正税効果適用指針です。なお、パーシャルスピンオフに関する会計処理では、JICPAの実務指針にも影響するため、同時にJICPAから改正資本連結実務指針も公表されています。

企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-1

※会社法上および会計上は「現物配当」という用語が用いられるため本稿では基本的に「現物配当」としていますが、税務上は「現物分配」という用語が用いられるため、税務上の説明箇所では「現物分配」としています。

内容

I.概要

  

企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-2

本適用指針等では、子会社株式の一部を分離元企業の株主に現物配当する場合の分離元企業(子会社株式を配当する企業)における会計処理のうち、次の3つの論点を対象としています。

企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-3

まず、パーシャルスピンオフを実施した場合の分離元企業の個別財務諸表上では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当し、残余持分が子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産たる子会社株式の適正な帳簿価額でその他資本剰余金又はその他利益剰余金を減額します。

次に、連結財務諸表上でも、上記と同様に連結財務諸表上の子会社株式の帳簿価額で純資産を減額することとし、連結財務諸表上の帳簿価額と個別財務諸表上の帳簿価額には差額があるため、この差額の取扱いが規定されています。

そして、パーシャルスピンオフによって解消する連結財務諸表における一時差異も、「連結固有の将来減算一時差異又は連結固有の将来加算一時差異」と同様に取り扱い、パーシャルスピンオフが税務上非適格となる場合、繰延税金資産・負債の認識の検討が必要となることが明確化されています。

II.分離元企業の個別財務諸表上での現物配当の取扱い

改正自己株式等会計適用指針第10項は、「配当財産が金銭以外の財産である場合、配当の効力発生日(会社法第454条第1項第3号)における配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として、配当財産の種類等に応じた表示区分に計上し、配当財産の時価をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する。」とし、一定の場合には、「配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもって、その他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する。」(同項但書)としています。

この一定の場合に、「分割型の会社分割(按分型)」および「保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合」に加えて、「保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合」も追加されました。

よって、スピンオフだけでなくパーシャルスピンオフに関しても、上記但書に該当する場合、適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金またはその他利益剰余金を減額する対象となります。

○改正自己株式等会計適用指針第10項但書

企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-4

III.分離元企業の連結財務諸表上での現物配当の取扱い

改正資本連結実務指針では、上記IIの保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、分離元企業の連結財務諸表においても、連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するのが適切と考えられました。

ただし、連結財務諸表上の帳簿価額と個別財務諸表上の帳簿価額には差額が生じ得ることから、配当部分に相当する子会社株式に係る個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額の差額(投資の修正額)の取扱いが規定されました(後述A)。

なお、パーシャルスピンオフは、子会社株式の持分の一部を残すため、残余持分にかかる個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額の差額(投資の修正額)の取扱いについても規定されています(後述B)。

企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-5

なお、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差(投資の修正額)が生じるのは、次のような場合です。

企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-6

A)投資の修正額のうち配当部分に相当する額

  • 原則的な取扱い
    投資の修正額は、たとえば、支配獲得後に子会社のその他包括利益が増減した場合、増減したその他の包括利益の持分相当額分の連結財務諸表上の帳簿価額が増減し、その結果、個別財務諸表上の帳簿価額との間に生じる差です。この差額は、連結財務諸表上、利益剰余金やその他の包括利益累計額に計上されています。改正資本連結実務指針では、パーシャルスピンオフによって持分が減少するのに伴い、利益剰余金やその他の包括利益累計額に計上されたこの差額のうち配当した部分に対応する額を連結株主資本等変動計算書(SS)上で、利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって取り崩すこととされています。このとき、その他の包括利益累計額は純損益に振り替えることはしません。
    なお、投資の修正額のうち、「子会社株式の取得原価に含まれている付随費用」と「支配獲得後の子会社株式の追加取得時の持分相当額と対価の差額」のみが、例外的に異なる取扱いがなされます。
  • 例外的な取扱い:子会社株式の取得原価に含まれている付随費用
    子会社株式の取得にかかる付随費用は、個別財務諸表上は帳簿価額に含まれるものの、連結財務諸表上では支配獲得時に費用処理されているため、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差が生じています。そのため、パーシャルスピンオフの会計処理を連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するためには、個別財務諸表で計上した配当に係るその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額について、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正します。
企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-7
  • 例外的な取扱い:支配獲得後の子会社株式の追加取得時の持分相当額と対価の差額
    追加取得時には、個別財務諸表上は追加投資額分の帳簿価額が増加しますが、連結財務諸表上は追加取得により増加した親会社持分分の帳簿価額が増加しますので、個別財務諸表上の帳簿価額と連結財務諸表上の帳簿価額とに差が生じています(当該差額は、連結財務諸表上、資本剰余金として会計処理されています)。そのため、パーシャルスピンオフの会計処理を連結財務諸表上の帳簿価額で純資産を減額するためには、配当により個別財務諸表で計上した配当に係るその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額について、当該差額部分に対応する額を修正します。
    なお、追加取得時の当該差額として計上された資本剰余金は、パーシャルスピンオフ後もそのままの金額が、資本剰余金に計上され続けます(改正資本連結実務指針第46-2項、第66-8項)。改正資本連結実務指針第46-3項では、「子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額については、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を連結株主資本等変動計算書において修正する。」とありますが、これは追加取得時に生じた資本剰余金を修正することを求めているわけではありませんので、ご注意ください。
企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-8

B)投資の修正額のうち残余部分に相当する額

  • 残余持分が、支配を喪失して関連会社となる場合
    残余持分が関連会社となる場合、持分法適用となります。そのため、投資の修正額のうち残余部分に相当する額は、持分法による投資評価額に修正されます。
  • 残余持分が、支配を喪失して関連会社にも該当しなくなる場合
    残余持分が支配を喪失して関連会社にも該当しなくなる場合、当該投資は個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価します。よって、投資の修正額のうち残余持分に係る差額も、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって取崩します。
企業会計基準委員会等、改正「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表-9

※図のAについて、例外的な取扱いによる部分は省略

IV.配当対象となる子会社株式に関する連結税効果の取扱い

改正税効果適用指針では、パーシャルスピンオフによって解消する連結財務諸表上の一時差異も「連結固有の将来減算一時差異または連結固有の将来加算一時差異」に準ずるものとして同様の取扱いをすることとしています。

この場合、改正税効果適用指針第124-3項では、同適用指針第8項(3)の定めに従って「税金の見積額」を繰延税金資産または繰延税金負債として計上することとされ、「税制適格となる場合には将来の税金の見積額はゼロとなる一方、税制非適格となる場合には配当により解消する連結財務諸表固有の一時差異に係る税金の額が税金の見積額となる」ことが明示されています。

なお、税制非適格となる場合に発生する法人税、住民税及び事業税等については、損益に計上するものとされています(改正税効果適用指針第124-5項)。

V.適用時期

適用時期は次のとおりです。

  1. 公表日(2024年3月22日)以後適用
  2. 本適用指針等適用日前に行われたパーシャルスピンオフについて、本適用指針等適用日における会計処理の見直しおよび遡及的な処理は行わない

なお、上記で解説した改正資本連結実務指針の取扱いは、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)を行う場合のみならず、保有する子会社株式の全てを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)を行う場合にも適用されます。後者に関して、今回定められた改正資本連結実務指針の取扱いと異なる会計処理を行っていた場合でも、パーシャルスピンオフと同様に、改正資本連結実務指針の適用日において会計処理の見直しおよび遡及的な処理は行わないこととされています。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
会計プラクティス部
シニアマネジャー 鈴木 和仁

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