基礎を押さえる監査人とのコミュニケーション

月刊監査役(公益社団法人日本監査役協会発行)2023年9月号にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

月刊監査役(公益社団法人日本監査役協会発行)2023年9月号にあずさ監査法人の解説記事が掲載されました。

この記事は、「月刊監査役(公益社団法人日本監査役協会)754号 2023年9月号」に掲載したものです。発行元である日本監査役協会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

はじめに

本稿は、新任の監査役・監査委員・監査等委員(以下「監査役等」という。)向けに、上場会社の会計監査人設置会社を前提として、監査人とのコミュニケーションにおいて必要となる基礎について、Q&A形式で解説するものです。なお、非上場会社の場合でも、コミュニケーションの回数や内容に多少の違いはありますが、基本的な部分については変わりありません。本稿が監査役等と監査人との有効な双方向のコミュニケーションの実現に役立つことができれば幸甚です。

Q1 監査役等と監査人とのコミュニケーションは、なぜ必要なのでしょうか?

A1 監査役等は、業務監査と会計監査を行うこととされていますが、会計監査人が設置されている会社における監査役等の会計監査は、会計監査人の監査の方法又は結果が相当であるか否かについての意見を表明することで、会計監査を実施します(会社計算規則127条2号)。また、監査役等の会計監査人への報告請求権の行使及び会計監査人の監査役等に対する報告義務の履行(会社法397条、会社計算規則131条)のためにもコミュニケーションが必要になります。

他方、監査人は、監査役等が業務監査で得た知見などを会計監査に活用するため、あるいは財務報告プロセスを監視する監査役等に関連する重要な事項を伝達するためにコミュニケーションを行います。特に、経営者が関与する不正な財務報告を防止し、適切に対応するためには、監査役等との連携が重要となります。このため、監査人が遵守すべき監査基準においても、「監査人は、監査の各段階において、監査役等と協議する等適切な連携を図らなければならない。」(監査基準第三実施基準一基本原則7)と規定され、監査役等とのコミュニケーションは、監査人が監査を行う上で欠かせないものとなっています。

監査人と監査役等は、同一の監査対象に対してそれぞれ異なるアプローチで会計監査を行います。両者の信頼関係をベースに連携し、相互に補完し合うことで、それぞれの監査の有効性や効率性を高めることができる関係にあります。

Q2 監査人の監査は、どのように行われますか?

A2 監査人は、独立の立場から、財務諸表に対する意見又は結論を表明することを目的として、図表1のとおり、一般に公正妥当と認められる監査の基準等に準拠して、(1)会社法に基づく監査((連結)計算書類及び附属明細書の監査)並びに(2)金融商品取引法に基づく監査((連結)財務諸表及び(連結)附属明細表の監査)、内部統制監査(内部統制報告書の監査)及び四半期レビュー(四半期(連結)財務諸表の四半期レビュー)を実施します。

図表1 監査人の監査

基礎を押さえる監査人とのコミュニケーション-1

会社法の監査に加え、金融商品取引法の監査証明には、監査(及び内部統制監査)と四半期レビューがありますが、監査と四半期レビューでは保証水準が異なります。監査は合理的保証といわれ、内部統制の整備・運用状況の評価、実証手続を実施して、適正であるか否かの表明がなされますが、四半期レビューは限定的保証といわれ、質問や分析的手続など、手続が限定され、適正でなかったという証拠が得られなかったことの表明にとどまります。

なお、2024年4月以降、四半期決算短信に一本化することによる四半期報告書制度の廃止に伴い、四半期レビューについても廃止となり、半期報告書の第2四半期財務諸表に対するレビューに変更されることが見込まれていますが、それを盛り込んだ金融商品取引法改正案が今春の通常国会で成立せず、継続審査となりました。成立すれば、証券取引所ルールにより、第1・第3四半期の決算短信について、一部の場合にのみレビューが義務付けられるとともに、任意のレビューの実施も想定されており、現在東京証券取引所において議論が行われていますので、今後の動向に注視が必要です。

Q3 監査人の監査のアプローチを教えてください。

A3 監査人は、A2で述べた会社法及び金融商品取引法に基づく財務諸表監査と内部統制監査を効果的及び効率的に実施するため、監査計画の策定、監査証拠を入手するための監査手続の実施、監査証拠の十分性と適切性に関する監査人の判断、意見表明までの監査実施の一連の過程の全てにおいて、両者を一体として監査を実施します。このため、財務諸表監査と内部統制監査を合わせて「一体監査」ということもあります。

また、監査はリスク・アプローチ、すなわち重要な虚偽表示リスク(監査が実施されていない状態で、財務諸表に不正又は誤謬による重要な虚偽表示が存在する可能性)を評価し、その評価に基づいて、監査上の重要性を勘案して監査計画を策定し、それに沿ってリスク対応手続を実施します。このため、監査上の重要性は、監査人が識別したリスクとその評価について、監査役等の業務監査での知見を踏まえ、財務諸表利用者の経済的意思決定に影響を与えると見込まれるかどうかという観点で監査人が職業的専門家として決定します(図表2)。

図表2 一体監査のアプローチ

基礎を押さえる監査人とのコミュニケーション-2

Q4 監査人の責任について教えてください。

A4 監査人は、我が国における一般に公正妥当と認められる監査の基準、すなわち金融庁の企業会計審議会が設定した監査基準と監査基準報告書(「監基報」と呼ばれます。)等の日本公認会計士協会の指針(監査実務指針)に従って監査を実施することが求められています。その監査人の責任は、財務諸表に対する意見の表明(四半期レビューの場合は、結論の表明)です。

また、法令により、又は任意で監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters; KAM)を決定し、報告する責任もあります。KAMとは、監査の過程で監査役等と協議した事項の中から特に注意を払った事項を決定した上で、その中からさらに当年度の財務諸表の監査において特に重要であると判断した事項であり、監査人の監査の透明性を向上させることによって監査報告書の情報価値を高めることを目的として、監査意見とは別に監査報告書に記載することが求められます。

さらに、監査人は、「その他の記載内容」については監査対象ではないものの、通読し、その他の記載内容と財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかの検討を行い、その結果を報告する責任があります。その他の記載内容とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書を除いた部分の記載内容であり、具体的には、会社法監査では事業報告及びその附属明細書、金融商品取引法監査では有価証券報告書の「経理の状況」における監査対象と監査報告書を除いた、財務情報及び非財務情報の部分を指します。

これら監査人の財務諸表監査等の責任は、当然のことながら、経営者又は監査役等の責任を代替するものではありません。図表3のとおり、経営者には財務諸表等の作成責任があり、監査役等には財務報告プロセス等の監視責任があります。とりわけ経営者の財務諸表等の作成責任と監査人の監査意見を表明する責任を明確に区別する必要があり、この考え方を「二重責任の原則」といいます(金融庁「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定について」二2⑷)。

図表3 経営者、監査役等及び監査人の責任

基礎を押さえる監査人とのコミュニケーション-3

Q5 監査人とのコミュニケーションは、どのような頻度で行われますか?

A5 上場会社であれば、例えば図表4 のようなタイミングで定期的にコミュニケーションが行われます。

図表4 監査役等と監査人とのコミュニケーションの実施時期(3月決算会社の場合の例)

基礎を押さえる監査人とのコミュニケーション-4

こうした定期的なコミュニケーションに加え、監査人は、監査期間中に対処が必要となる困難な状況に直面した場合や、不正による重要な虚偽表示の疑義などの監査上の重要な事項、その他監査役等による監視にとって重要と判断した事項を発見した場合には、その都度、監査役等とのコミュニケーションにより、監査を完了するために必要となる監査手続の種類、時期及び範囲についての協議を行います。

また、監査人は、会社法397条1項に基づく取締役の不正行為又は法令・定款違反事実、金融商品取引法193条の3に基づく法令違反等事実を発見した場合(Q12参照)には、法令に基づき速やかに監査役等とのコミュニケーションを実施する必要があります。

また、監査人側のみならず、監査役等が監査人の監査に影響を及ぼすと判断した事項が生じた場合など、監査役等の側からもコミュニケーションの機会が設定されることもあります。双方から機動的にコミュニケーションを実施できる関係構築が重要となります。

Q6 監査人とのコミュニケーションは、どのように行われますか?

A6 監査役等と監査人とのコミュニケーションは、会合、口頭又は文書による情報交換や、監査役等が監査人の監査現場に立ち会うといった形で行われます。会合は、当事者が一堂に会して双方向のコミュニケーションを行うのに最も有効な手段といえます。以前は監査人が会社に訪問して対面で実施することが一般的でしたが、コロナ禍を経て、リモート会議も併用されるようになりました。リモート会議は、双方向のコミュニケーションという観点からは対面会議と遜色なく、場所を問わず、移動時間を要しないことから日程調整の面で比較的実施が容易であるなどのメリットがあります。

また、コミュニケーションの対象者という点では、監査役等に関しては、常勤者のみならず社外者も含めた監査役会等に、監査人に関しては、業務執行社員に伝わるようにコミュニケーションを行うことが求められます。

以上を踏まえつつ、有効性・効率性の観点から双方にとって最適なコミュニケーション手段を選択することが重要です。

Q7 監査人とのコミュニケーションの内容は、どのようなものですか?

A7 監査の進捗に応じて、図表5に示した内容のコミュニケーションが行われます。

図表5 監査役等と監査人とのコミュニケーションの内容

基礎を押さえる監査人とのコミュニケーション-5

Q8 監査事務所の品質管理システムの整備・運用状況に関するコミュニケーションとは、どのようなものですか?

A8 監査事務所の品質管理システムとは、職業倫理の遵守及び独立性の保持など、監査事務所が監査業務の質を主体的に管理し、合理的に確保するための仕組みをいいます。品質管理システムのコミュニケーションは、監査計画段階、システムの変更時、監査結果の報告段階と年間を通じて実施されます。

会社法監査においては、監査役等は、「会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制」(会社計算規則131条各号に掲げる事項)について、会計監査人から通知を受け、会計監査人が会計監査を適正に行うために必要な品質管理の基準を遵守しているかどうか、会計監査人に対して適宜説明を求め確認を行わなければならないとされています(監査役監査基準32条等)。「会計監査人の職務の遂行が適正に行われることを確保するための体制」とは品質管理システムを指すため、品質管理システムの整備・運用状況に関するコミュニケーションはこの会社計算規則131条への対応を兼ねて実施されます。

監査人の品質管理基準とは、企業会計審議会による「監査に関する品質管理基準」をいいますが、2021年11月16日に、国際監査・保証基準審議会(IAASB)の国際品質マネジメント基準第1号(ISQM1)等の新設・改訂を踏まえて、リスク・アプローチに基づく品質管理システムを導入するために改訂されました。大規模監査法人については2023年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間、それ以外の監査事務所については2024年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間に係る財務諸表の監査から実施されます(早期適用も可)。

また、品質管理システムの整備・運用状況に関するコミュニケーションの一環として、監査人から監査役等に対し、規制当局又は日本公認会計士協会による懲戒処分等の内容、監査事務所の品質管理システムの外部レビュー又は検査の結果が伝達されます。

Q9 独立性に関するコミュニケーションとは、どのようなものですか?

A9 監査役等は、会計監査の適正性及び信頼性を確保するため、会計監査人が公正不偏の態度及び独立の立場を保持し、職業的専門家として適切な監査を実施しているかを監視し検証しなければならないとされています(監査役監査基準31条2項等)。その監査人の独立性は、精神的独立性と外観的独立性から構成されます。

監査人は、独立性に関する指針に準拠して策定された監査事務所の方針及び手続に従い、独立性に関して監査役等とコミュニケーションを行わなければなりませんが、上場会社については、以下の事項が含まれます。

(1)監査対象期間に関連した報酬金額など、独立性に影響を与えると合理的に考えられる事項
(2)識別した独立性に対する阻害要因を除去する又は許容可能な水準まで軽減するために講じられたセーフガード

セーフガードとは、日本公認会計士協会の倫理規則に定める基本原則の遵守に対する阻害要因を許容可能な水準にまで効果的に軽減するために講じる、個別の、又は複合的な対応策のことをいい、阻害要因としては、(1)自己利益、(2)自己レビュー、(3)擁護、(4)馴れ合い、(5)不当なプレッシャーの5つがあります。

倫理規則に関しては、2022年7月25日に、監査人の独立性の規制強化を図る改正が行われており、社会的影響度の高い事業体(Public Interest Entity; PIE)である会社の監査役等にも影響する事項が含まれています。具体的なPIEの定義は以下のとおりであり、上場会社は(1)イに該当するため、PIEとして扱われます。


PIEの定義

(1)公認会計士法上の大会社等(公認会計士法24条の2、公認会計士法施行令10条)

会計監査人設置会社(最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が100億円未満、かつ、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が1,000億円未満の株式会社を除く。)

金融商品取引法監査対象会社(資本金5億円未満(又は売上高10億円未満)、かつ、負債総額200億円未満の非上場会社を除く。)

銀行、長期信用銀行、保険会社、信用金庫連合会、労働金庫連合会、信用協同組合連合会、農林中央金庫、会計監査人監査の対象となる独立行政法人等

(2)会計事務所等が追加的にPIEとして扱うこととした事業体


また、PIEの監査役等に影響する事項は、以下のとおりです。1)については、業務の受嘱前(継続監査の場合、前年度監査の結果報告時など)のみならず、業務の状況に重大な変更があった場合など適時に実施することが求められています。

1)報酬に関し、監査役等とのコミュニケーションが求められる事項の拡充

  • 会計事務所等及びネットワーク・ファームに支払われる監査報酬の金額
  • 監査報酬の水準によって生じる、独立性に対する阻害要因が許容可能な水準にあるか否か、及び講じた又は講じる予定のセーフガード
  • 会計事務所等及びネットワーク・ファームが監査業務の依頼人及びその連結子会社(独立性の評価に関連すると知っている又は信じる理由がある場合には非連結子会社を含む。)に提供する非監査業務に係る報酬の金額
  • 監査報酬に対する非監査報酬の割合によって生じる自己利益又は不当なプレッシャーという独立性に対する阻害要因が許容可能な水準にあるか否か、及び講じた又は講じる予定のセーフガード
  • PIEである監査業務の依頼人に対する報酬依存度が15%を超える場合、その旨、その状況が継続しそうかどうか、及び講じるセーフガード
  • 5年連続して報酬依存度が15%を超える場合、例外規定に従って監査人を継続することについての提案(例外規定を適用する場合)

2)非保証業務の提供に関し、監査役等による事前の了解の要求

監査人である会計事務所等は、会社、その子会社又は親会社等に非保証業務を提供する場合には、監査役等に対して情報提供を行った上で、事前に了解を得なければならないこととされています。上場会社については、従前から非保証業務及び報酬に関するコミュニケーションは行われていましたが、これは監査役等による監査人の独立性の評価をより一層効果的に行うことを可能とするための要求事項です。

Q10 監査計画段階においては、どのようなコミュニケーションが必要ですか?

A10 監査計画段階では、監査人が計画した監査の範囲とその実施時期の概要について、コミュニケーションが行われます。これには、監査人により識別された特別な検討を必要とするリスクやそれ以外に識別している重要な虚偽表示リスクが高い領域に関するコミュニケーションが含まれます。

ここで、特別な検討を必要とするリスクとは、虚偽の表示が生じる可能性と当該虚偽の表示が生じた場合の金額的及び質的影響の双方を考慮して、固有リスクが最も高い領域に存在すると評価したリスクをいいます(図表6)。

図表6 特別な検討を必要とするリスク

基礎を押さえる監査人とのコミュニケーション-6

監査基準報告書の要求事項に従って特別な検討を必要とするリスクとして取り扱うこととされた重要な虚偽表示リスク、例えば、収益認識や経営者による内部統制を無効化するリスクなどの不正による重要な虚偽表示リスクであると評価したリスク、企業の通常の過程から外れた関連当事者との重要な取引も、特別な検討を必要とするリスクに含まれます。

計画した監査の範囲とその実施時期の概要についてコミュニケーションを行うことで、監査役等はリスクや重要性について監査人と協議し、監査人に追加手続の実施を要請する可能性がある領域を認識することになるかもしれません。また監査人も、監査役等とのコミュニケーションを通じて企業及び企業環境をより理解することができます。

なお、監査人は、予期しない出来事が生じた場合や監査手続の実施結果が想定した結果と異なった場合には、改訂されたリスク評価の結果に基づき、監査の基本的な方針及び詳細な監査計画並びにこれらに基づき計画したリスク対応手続の種類、時期及び範囲を修正することが必要な場合があります。こうした場合には、期中の四半期レビュー報告時など適時なタイミングにおいて、計画修正に関するコミュニケーションが実施されます。

Q11 監査・四半期レビューの結果の報告段階においては、どのようなコミュニケーションが必要ですか?

A11 監査結果の報告段階では、監査上の重要な発見事項についてコミュニケーションを行います。図表5にあるように、必ずコミュニケーションが行われる事項としては、経営者確認書の草案と監査報告書の内容についてです。

経営者確認書とは、特定の事項を確認するため又は他の監査証拠を裏付けるため、経営者が監査人に提出する書面等による陳述をいいます。経営者確認書については、草案全体がコミュニケーションの対象となりますが、監査基準報告書による必須の確認事項が定められているため、それ以外の追加的な確認事項や変更した確認事項については、個別に説明がなされることが一般的と思われます。

また、監査報告書については、監査契約締結時に想定された様式及び内容と異なる場合や、実施された監査に関する追加的な情報を含む場合に、その状況を監査役等に報告することとされています。上場会社等向けの監査報告書においては、KAMが含まれるため、KAMの内容が報告されます。

該当があれば報告されるものの例として、未修正の虚偽表示や内部統制の重要な不備があります。監査人は、未修正の虚偽表示の内容とそれが個別に、又は集計して監査意見に与える影響について、監査役等に報告しなければなりません。未修正の虚偽表示のうち重要な虚偽表示がある場合には、監査役等が経営者に重要な虚偽表示の修正を求めることができるように、未修正の重要な虚偽表示であることを明示して報告することとされています。

また、監査人は、監査の過程で識別した内部統制の重要な不備を、適時に、監査役等に報告しなければなりません。内部統制の重要な不備とは、監査人が職業的専門家として、監査役等の注意を促すに値するほど重要と判断した内部統制の不備又は不備の組合せをいいます。内部統制監査の観点からは、内部統制の監査の過程で発見した内部統制の開示すべき重要な不備について、会社法監査の終了日までに、経営者、取締役会及び監査役等に報告することが求められています。開示すべき重要な不備とは、単独で又は複数組み合わせて、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備をいい、経営者が発見したものも含みます。したがって、会社法監査終了日時点での監査人の報告は、内部統制監査の経過報告として実施されます。

Q12 会社法397条1項に基づく不正行為又は法令・定款違反事実の報告、金融商品取引法193条の3に基づく法令違反等事実の通知義務について教えてください。

A12 会計監査人が、取締役の職務執行に関して、不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実を発見したときは、遅滞なく監査役等に報告しなければならないとされています(会社法397条1項・3~5項)。他方、監査役等は、この報告等を受けた場合には、監査役会において審議の上、必要な調査を行い、取締役会に対する報告又は取締役に対する助言若しくは勧告など、必要な措置を適時に講じなければならないとされています(監査役監査基準48条5項等)。

また、金融商品取引法監査の場合には、監査人は、会社における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(法令違反等事実)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、監査役等に対して書面等により通知しなければなりません(金融商品取引法193条の3第1項、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令7条)。ここで法令違反等事実とは、飽くまで財務書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実であり、法令違反はその例示にすぎないことに留意が必要です。

当該制度は、監査人がこうした手続をとることにより、会社の自主的な是正措置を促そうとするものですが、それでもなお、法令違反等事実が財務書類の適正性に重大な影響を及ぼすおそれがあること及び企業により適切な措置がとられないことがあると認める場合で、重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、監査人は、当該事項に関する意見について当局へ申出を行うことになります(金融商品取引法193条の3第2項、財務諸表等の監査証明に関する内閣府令9条)。このため、監査人から法令違反等事実に関する通知を受けた場合は、その内容及び監査役等の対応等について意見交換をするとともに、監査役等は必要な措置を講じる必要があります。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
和久 友子(わく ともこ)

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