個人重視の製品とサービス

未来の需要と顧客ニーズは、個人を中心とした「ハイパー・パーソナライズ」された製品とサービスの時代に移行しています。個別化医療は、汎用的な治療から対象を限定した治療への移行を通じて、個人重視の製品とサービスに対するニーズを満たすものです。このアプローチにより、個人の細胞や遺伝子に合わせた最適な治療を提供でき、従来は不可能だった病気の治療も可能になります。製品提案方法も変化し、顧客の要望に応じた個別製造が可能になります。アディティブマニュファクチャリングやIoTの活用により、製品が要求に応じて製造され、医療現場での製造も実現します。その結果、所要時間が短縮され、個々の患者に合った提案が可能になるでしょう。

製造サプライチェーンは将来的に、個別化治療とパーソナライズされた製品の提供に適応するものの、サービスとセットになった製品を統合して利用可能にするための複雑さに直面します。リーディングカンパニーはコンパニオンアプリやゲーミフィケーション、健康モニタリングなどのサービスを提供し、バリューチェーンのシェアを拡大することが可能です。製造業者は新機能の拡充や提携、買収を通じて自社の価値を高め、業界をまたいだ機能を活用するようになります。将来的に、サービスを組み込んだ製品は、ライフサイエンス業界のサプライチェーンで重要な役割を果たすでしょう。業界リーダーは自社の能力を最適化し、提携や買収の機会を見極めることで、顧客機会を創出していく必要があります。

プラットフォームを活用したビジネスモデル

未来のライフサイエンス業界の製造サプライチェーンでは、製品とサービスが変化するだけでなく、パーソナライズされた製品とサービスを提供するための新しいビジネスモデルが出現します。ヘルスケアとMeコマースにおける消費者主義により、未来のサプライチェーンはプラットフォームベースのエコシステム(PBE)を通じて支えられることになります。エコシステム内の参加者同士のオムニチャネル体験とシームレスに統合されたサプライチェーンが実現され、1つのプラットフォーム内で多様な新たな機会が生まれます。

未来のサプライチェーンの進展は、製造業者だけでなくエコシステム全体を通じて進行し、クラウド上でソリューションとサポートを受け、リアルタイムでフィードバックを得ることが可能です。これにより新しい製品やサービスの開発が進み、この流れは、新たなテクノロジーによるオムニチャネルの形式により加速されます。オムニチャネルは、さまざまな形式(ソーシャルメディア、電子メール、ビデオ、ポータルサイト、チャットボット、フォーラム、電話、専用フォーム、対面など)が組み合わさって10のチャネルを形成し、各チャネルで大きな変化が生じています。例えば、医師の診断前のスクリーニングをサポートするAI搭載のチャットボットの出現や、FAQへの対応を行う基本的なチャット機能の導入があります。

これらは、未来のサプライチェーンの大きな強みとなります。顧客中心のプル機能により、外部フィードバックとサポートのループが製造業者に依存せずに問題解決を行い、プッシュ機能によって、製造業者は品質管理やネットワークの拡大を大規模に、即時かつ効率的に達成できます。

デジタル化されたオペレーションモデル

現在新たに誕生しているインダストリー4.0のテクノロジーは、ライフサイエンス4.0のデジタル化されたオペレーションモデルの時代をもたらします。パーソナライズされた製品やサービスのための新しい複雑な時代において、人工知能(AI)と機械学習(ML)は商業的な実現可能性を確保するために欠かせないオペレーションの中核要素となるでしょう。

未来に備えるオペレーションは、ハイパー・パーソナライズされた製品やサービスに対応するために、高度に自動化、細分化、遠隔化していきます。ライフサイエンス業界では、製品に関する厳格な規定と品質管理の制約によって、製品の遠隔化の普及は制限されています。ただし今後は、早期市場化と商業的な実現可能性へのニーズに後押しされ、製造業者の新たな処理能力と製品設計の技術面の準備が進むにつれて、オペレーションの遠隔化が促進されると考えられます。

品質管理もAIを活用して改善されます。現場の生産ラインに組み込まれたリアルタイムのフィードバック機能により、問題や不適合に速やかに対応することができます。またこれは、未来の製品設計に役立つとともに、品質向上と生産量の増加をもたらし、製造過程の改善につながります。未来のリーディングカンパニーは、デジタルの強みを活かして品質管理を合理化し、オペレーションリスクとコストの最適化を図るでしょう。

ブランド力に応じた価値提供

データセキュリティの脅威は、組織が直面する最大の課題の1つです。今後、業界のリーディングカンパニーは、データ暗号化の新基準やクラウドセキュリティ、新たなテクノロジー(ブロックチェーンの追跡台帳など)を用いて、データセキュリティの向上を図り、バリューチェーンのパーソナライゼーション、接続性、セキュリティの間のバランスの確保を目指すでしょう。またESGは投資家および顧客からますます注目を集めている分野であり、リーディングカンパニーは、サプライチェーンにおける排出量削減や、サプライチェーン全体の製品トレーサビリティ向上などにも注力する必要があります。

ライフサイエンス企業が未来に備えるには

1.貴社の最大の強みを活用し守りましょう
データは未来の通貨であり、データ資産を強化し保護する取組みが必須です。

  • 未来のニーズに対する貴社のデータ戦略、機能、有用性の見直しを行いましょう
  • 戦略的提携による価値提供、新たな収益の創出機会、AI搭載のコグニティブなバリューチェーンとオペレーションなど、データの価値を活用する機会を見出しましょう
  • 強力なデータ基盤を構築しましょう。成熟度を高める計画を立て、AI/MLの取組みが確実に実現され、事業化され、維持されるようにしましょう

2.破壊を起こす側となるか、巻き込まれるかのどちらかです
ライフサイエンス業界のリーディングカンパニーの85%が、デジタルトランスフォーメーション(DX)はエコシステムにおける役割に変化をもたらすだろうと述べています。なんらかの変革プランは、時代に乗り遅れないための競争にとって必要不可欠です。

  • 貴社の戦略を明確化し、変革の明確な目標を設定して経営陣に共有しましょう
  • 貴社の未来のビジネスモデル、価値提供、製品とサービス、オペレーションモデルを定義しましょう
  • 「人中心」を維持したまま、貴社の能力と機能に見合った規模の変革となるようにしましょう

3.貴社は孤立無援ではありません
未来のライフサイセンス業界のサプライチェーンは複雑化しているため、中核機能の強化に注力しつつ、提携や買収を通じて機能の拡張を行う必要があります。そのためには、以下のような戦略が考えられます。

  • バリューチェーン全体の急速な拡大を可能にするために、テクノロジー・ハイパースケーラーを活用する機会を模索するなどの業務提携を行う
  • ヘルスケアのエコシステムの統合、調達、アクセスを向上させるために、病院との官民連携を行う
  • 患者と医療の専門家にとって成果、理解、信用が向上するよう、患者と専門家によって彼ら自身のために設計されパーソナライズされた提案を提示するために、患者と専門家が共同で設計を行う

英語コンテンツ(原文)
Future-ready supply chain: Life Sciences

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