対話で理解する!リース会計基準(案) 第1回 総論&リースの定義

週刊 経営財務(株式会社税務研究会発行)の2023年7月10日号、2023年7月17日号、2023年7月24日号にあずさ監査法人の解説記事が連載で掲載されました。

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この記事は、「週刊 経営財務 No.3612」に掲載したものです。発行元である税務研究会の許可を得て、あずさ監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。

企業会計基準委員会(ASBJ)が5月2日に公表した「リースに関する会計基準(案)」等は文量も多く内容を理解するのが難しいとの声をよく聞きます。3月決算企業の方は有価証券報告書の提出が終わり、これから確認する方も多いのではないでしょうか。

そこで、本連載解説では、リース会計基準(案)の本質をより理解しやすくするため、ポイントを絞り、会計士と経理課長の対話を通じて、3回にわたって説明していきます。

なお、文言は公開草案に対してよく聞かれるコメントに基づき構成しております。意見にかかる部分は筆者の個人的な見解であることをお断りしておきます。

第1回 総論&リースの定義

ASBJが長らく審議を重ねてきたリース会計の改正プロジェクトも公開草案のリリースで一区切りを迎えました。大型の基準改正ということで、巷でもいろいろ話題に上がっているようです。経理課長のBさんが、公開草案に詳しい会計士のAさんにいろいろな疑問について聞いています。ちょっと何を話しているのか聞いてみましょう。

公開草案が出ました

B(経理課長):A(会計士)さん、お久しぶりです。リースの公開草案出ましたね!

A:はい、出ました。でも、5月のGWの頃だったので、もう2ヵ月以上前ですよ。

B:当時は決算の最中で、正直公開草案どころではなかったです。決算も一息ついたので公開草案を見てみたら、コメント締め切り日が目前で焦っています。影響が大きそうな改正なので慎重に検討したいのに時間がありません。通常、コメント募集期間は120日〜180日とかあるのではないですか? 短い気がします。

A:IFRS®会計基準などでは広く意見を集めるためにコメント募集期間は長く設定されていますが、日本基準ではコメント募集は通常2ヵ月です。今回は多くの会社にとって決算期間中であることから3ヵ月と長めにコメント募集期間が設定されました。8月4日までですからまだ十分間に合いますよ。公開草案の内容について何かご懸念はありますか?

「簡素で利便性が高い」会計基準の開発

B(経理課長):まずは分量にびっくりしました。読みこなすのが大変です。簡素で利便性が高い基準を開発するというのが開発方針と聞いていたのですが。

A(会計士):公開草案に至るまでは紆余曲折があり、それも審議が長引いた理由の1つでもあると私は思っています。当初は文字通りIFRS第16号「リース」の骨子だけを取り入れる予定でした。条件変更などの規定も盛り込まない予定でしたし、IFRS第16号の設例もほとんど取り入れない予定でした。しかし「簡素な基準」とはどういう基準でしょうか?
骨子だけしかなければ確かに見た目は簡素です。一方で、原則だけ示されても具体的にどう適用すればいいのかわからない、会計処理についていちいち監査人と協議するのは面倒、ある程度細則が決まっていてガイダンスが示された方が現場としては楽だ、といった意見もあります。審議の過程ではそのあたりのバランスに配慮して検討を重ねた結果、かなり細かい部分まで書き込まれることになった経緯があります。

B:結局、公開草案はIFRS第16号をほぼ丸写しするような内容になっているのですか?

A:いいえ。まず、今回の改正では、貸手についてはそもそも国際的な基準との整合性は意図されていません。借手についてもIFRS第16号から取り入れていないガイダンスがたくさんあります。取り入れていないガイダンスに従う必要はないわけで、会計処理の出来上がりがIFRS第16号と違ってくることも考えられます。もっとも、実務を考えると、取り入れられなかったものについて、多くの企業ではIFRS第16号のガイダンスが結局参照されることになる気がします。もちろん「このように会計処理したい・会計処理すべきだ」という拘りが作成者サイドにあれば別ですが、それほどではない場合、すでにあるIFRS会計基準のガイダンスをそのまま持ってくる方が自分たちで1から考えるより楽でしょうし、監査人と意見不一致になるリスクも低いですから。

B:なるほど、確かに現場の感覚としては「決まっていればそれに従うだけで済むのに」というのはよくわかります。

A:誤解されがちですが、すべての局面においてIFRS第16号と同じ考え方が取り入れられているわけではありません。基本的にIFRS第16号に従っていれば日本基準にも準拠したことになるような基準が志向されてはいますが、セール・アンド・リースバック取引などは会計処理が違いますので、IFRS適用企業でも注意が必要です。

用語が難しい?

B(経理課長):「全然簡素じゃない」と公開草案を見て思ったのは、用語が難しいというのもあります。
例えば、リース料は借手と貸手の間でやり取りされるものだから借手が支払ったものは当然貸手が受け取りますよね? しかし、「借手のリース料」と「貸手のリース料」は違うという…ここでまず躓きます。国際的な基準でも同じでしょうか?

A(会計士):いいえ。国際的な基準では借手のリース料と貸手のリース料はほとんど同じです。
公開草案では、借手についてはIFRS第16号の考え方を取り入れる一方で、貸手についてはできる限り現行の日本基準の扱いを残そうとしたので借手と貸手で定義が分かれています。

B:しかも、貸手に支払う対価がすべて「借手のリース料」かと思えば、「借手のリース料」に含まれない「借手の変動リース料」があるというではないですか。リース料だけど変動するからリース料じゃない? 複雑すぎて難解です。

A:オンバランスの対象になる支払だけが「借手のリース料」で、それ以外にも借手が貸手に支払うリース料があるということです。このあたりの用語の使い方は国際的な基準と同じなのですが、確かに慣れていないとちょっとわかりにくいかもしれません。

関連基準も一斉に改正

B(経理課長):リースの会計基準と適用指針の公開草案と同時に多くの基準の改正案が出てきたのもにも驚きました。

A(会計士):リース資産→使用権資産、リース債務→リース負債、と読み替えているだけのものも多いです。IFRS第16号が出たときも多くの関連基準が大量に改訂されました。ただし、IFRS会計基準ではIFRS第16号が出たときに企業結合の基準も改訂されたのですが、同様の手当ては日本基準では対応されないようです。

B:それは何ですか?

A:取得企業は被取得企業が保有する資産・負債を時価評価して取り込みます。IFRS会計基準ではここに例外が設けられ、被取得企業が保有する使用権資産とリース負債は時価評価の対象から外されました。企業結合時の被取得企業の使用権資産とリース負債は、IFRS第16号の考え方に基づいて測定します。

B:なるほど。では子会社を取得したときに、日本基準では、子会社が借手となっている原則としてすべてのリースについて、使用権資産とリース負債を時価評価してのれんの評価に反映しないといけないわけですね。真面目に全部やろうとすると大変そうだなぁ。

A:また、IFRS第16号が導入されたときに減損会計をどう適用するのかについてかなり混乱がありました。同じ轍を踏まないという意味では日本基準が改正されるときには使用権資産にどのように減損会計を適用するのか、減損関連のガイダンスが充実されるといいなと思っていたのですが、こちらも改正されなさそうです。実務への影響という意味ではこちらの方が大きいかと思います。

B:減損会計の仕組みが違うので日本基準では問題にならないとみているのでしょうか?

A:減損会計の仕組みは確かにIFRS会計基準とは違います。しかし、ポイントはリース負債の扱いなどで、同じ論点は日本基準でも生じると思います。

B:それはどういう事でしょうか?

A:つまり、使用権資産とリース負債は経済的には一体で、リース契約を譲渡すれば使用権資産とリース負債は一体となって移転します。しかし、関連する負債が計上されている場合の取扱いは現行の減損会計基準上、定めがありません。
IFRS会計基準には資金生成単位(減損会計適用上の最小の資産グループのこと)に関連する負債全般の取扱いは定められていますが、それでも、使用権資産とリース負債にこれをどう適用するか、混乱がありました。
この点、対応を見送った理由について、「今回のプロジェクトはリース会計の見直しであり減損会計に手を付けるのはプロジェクトの範疇を超えるから」と説明されています。今までもファイナンス・リース取引についてはリース資産とリース債務が計上されていたので、実務としては新たな論点ではないとも言われています。

B:ですが、今まではオンバランスされるリースは非常に限定されていましたが、今後は違いますよね。うちの会社でも今まで重要性のあるリース資産を経験したことがありません。オペレーティング・リース取引ばかりですから、リースして使っている資産は減損会計の対象外という認識でした。不安になってきました。

「リース」の範囲が変わる?

B(経理課長):公開草案ではリースとされる取引の範囲が拡大すると聞きました。リースの定義は前とあまり変わっていないような印象を受けたのですが。

A(会計士):確かに定義そのものはそれほど大きく変わっていません。しかし、リースの識別に関するガイダンスが充実されました。公開草案では、リースとは「使用権」つまり「資産を使用する権利」を貸手が借手に譲渡し、その対価を貸手が受け取る契約とされています。ここで、どういう契約が借手に「使用権」を移転する契約なのかを定めたものが「リースの識別」です。ポイントは、大まかにいうと、資産をどのように使うかを借手が決めることができ、かつ、その資産を使用することで生じる経済的な利益を借手が占有できるという点です。またその前提として、どの資産を使用する権利なのかが明確に特定されている必要があります。
今までは賃貸借契約、とかリース契約、という名称の契約だけがリースと思われていたかもしれませんが、今後は違ってきます。公開草案の設例にも、従来であれば電力購入契約として会計処理されていたと思われる契約について「これは発電所のリースを含む契約である」という分析結果があります。サービスを購入していると思っていても、サービスの提供を受けるためには特定の資産が必要だという場合には、そのサービス契約にはリースが含まれているかもしれません。

B:難しいです。まじめに考え始めると、何でもリースを含む契約に見えてきます。引越業者を頼んで一定量の荷物を載せられるトラックを手配すると、これはトラックのリースを含みますか?

A:いいえ、大型・中型どのトラックをどう組み合わせて依頼された荷物を運ぶかは引越業者が決めますし、終日同じ車を使わず午前と午後で違うトラックを使うことも引越業者の自由です。引越サービスの提供にどのトラックを使うかは決まっていない、つまりこういう場合には資産が特定されていませんのでリースにはなりません。
「リースの識別」は公開草案にもフローチャートが付いていて、これに沿って検討します。とはいえ、実際には判断が必要になるところも多く、検討が非常に難しい場合もあると思われます。従来はリースが含まれていようがいまいが、オペレーティング・リース取引であれば、サービスの場合とさほど会計処理に違いはありませんでした。今後はリースかサービスかは大きな違いとなります。

B:IFRS第16号が適用された時に、IFRS適用企業では「リースの識別」の検討は大変でしたか?

A:企業によりますが、重要な論点だったことは事実で、実際IFRS第16号には多くの設例がついています。

B:IFRS第16号の設例は日本基準公開草案には一部しか取り入れられなかったと聞きました。はっきり言うとIFRS第16号の設例での分析にASBJは同意していないってことですよね?

A:いや別にそういうことではないです。
まず、IFRS第16号の設例の一部は特定の状況を前提としていますが、実際には事実と状況が違えば結論は異なってきます。にもかかわらず、設例は検討プロセスを見せることが目的なのに、「これはリースだ」「リースでない」という結論だけが独り歩きするかもしれません。このような点が懸念された設例は取込みが見送られました。
また、IFRS第16号にあるガイダンスの一部はそもそも詳細過ぎるとして日本基準の公開草案には取り入れていませんので、取り入れなかったガイダンスに対応する設例は取り入れていません。

B:なるほど、確かにIFRS第16号のすべてを取り入れたわけではないですからね。ちなみに具体的にどのようなガイダンスが取り入れられなかったのですか?

A:いくつかありますが、大きいものではまず「使用を指図する権利」についてです。リースに該当するためには、借手が「使用を指図する権利」を持っている必要があります。そのため、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法をだれが意思決定するかの考慮が重要です。意思決定と一言で言っても、ハイレベルなものから日々の操作に関するものまでいろいろあります。そのため、どういう意思決定について、誰がその権利を持っているかの検討が必要かについて、IFRS第16号には例示があります。しかしながらこれは取り入れられませんでした。
また、「対象資産の特定」という観点では、貸手、つまり資産を提供しているサイドに資産を他の資産と入れ替える、つまり代替する実質的な権利が残っている場合には、リースの対象となる資産は特定されていないとされています。資産が特定されていなければ、契約にリースは含まれないという結論になります。これらの検討についてのIFRS第16号での詳細な定めも日本基準には取り入れられませんでした。

B:取り入れない方が自由で弾力的な判断ができるのか、取り入れた方が基準の趣旨がわかりやすいのか、微妙ですね。実際に基準を適用してみないと、どっちがよいのか何とも言えないような気がします。

今回の会話のまとめ

  • 公開草案はIFRS第16号の丸写しではない。
  • 借手と貸手で用語の定義(リース期間など)が一部異なる。
  • 関連基準の改正にも注意。
  • 減損会計の適用実務には懸念も。
  • 新たに「リースの識別」の概念が加わる。

執筆者

有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
植木 恵(うえき めぐみ)

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