新規事業創出の課題と解決策:アセットと市場ニーズの適切な組み合わせを見つける

第2回でも生成AIによる新規事業アイデア創出を取り上げましたが、今回はAIの組み合わせというテーマについて解説します。

急速に変化するビジネス環境のなかで、新たな事業機会を探求することは、あらゆる産業において重要な経営課題となっています。新規事業の立ち上げには、コンセプトの立案から実行までさまざまな困難が伴いますが、クライアント企業との対話から、特にアイデア創出に課題を抱えている企業が多いように感じます。

よく耳にする悩みは、既存事業の延長線上にしかアイデアが浮かばないというものです。企業の担当者は、自社の技術や製品について詳しく、それらを活用したアイデアが自然と生まれます。しかし、それらのアイデアが異なる領域の課題や市場ニーズとどのように結びついて新しいビジネスになるのか、十分に考えることができる人材は多くありません。
逆に既存事業からの脱却を図るあまり、事業アイデアが自社のアセットとかけ離れた「飛び地」になってしまうというケースもあります。この場合は、新しい領域に参入したとしても、競争優位が築けず、成長に至らないという結果になります。

これらの課題は、自社のアセットと市場の課題をうまく組み合わせられないことが根本的な問題です。かつては、異なる領域に精通した知識を持つ人材がこの課題を解決する役割を果たしていましたが、そのような人材は稀少であり、優れた事業アイデアの創出は個人に依存してしまうことが問題となっています。さらに近年は、検討すべき領域が広範囲にわたり、膨大な情報から適切な組み合わせを見つけることが人間にとって困難になっています。
そこで、新規事業創出の取組みのなかで、AIによるアイデア創出が試みられています。

「テキストマイニング」とは

テキストマイニングは、大量のテキストデータから有用な情報や知識を抽出するプロセスです。自然言語処理(NLP)、統計学、AIなどの技術を組み合わせて、テキストのパターン、構造、関係性を解析します。たとえば、顧客のフィードバックから製品の感想を分析したり、医療記録から疾患の傾向を発見したりすることが可能です。この技術により、人間が手動で行うのが困難な大規模なテキスト解析が効率的に行えます。
AIによるアイデア創出に用いられる手法の1つにこのテキストマイニングがあります。その具体的な活用方法について、次章で解説します。

テキストマイニングを活用した新規事業アイデアの創出

テキストマイニングは、自然言語で書かれた文書からパターンや関係性を分析し、有益な情報を抽出する手法です。この技術を使えば、文書間の関係性をヒートマップやグラフネットワーク(図表1参照)などを用いて視覚的に表現することができます。以前は日本語のテキスト分析は困難でしたが、AIの進歩により容易になりました。テキストマイニングを使って、自社アセット情報と市場課題やトレンド情報の関係性を可視化し、新しい組み合わせを見つけることで、新たな事業アイデア創出が可能となります。

【図表1:グラフネットワークのイメージ(「自律船舶」という言語からの分析例)】

AIの組み合わせで人の想像力を超える_図表1

生成AIによるアイデア創出

生成AI(例:ChatGPT)はプロンプトに基づいて文章や画像を生成するAIアルゴリズムです。生成AIの主なメリットは2つあります。まず、技術的知識がなくても簡単に成果物を得られる操作の容易性があります。特にChatGPTは自然な会話ができるため、対話を通じてアイデアを得ることができます。次に、画像生成AI等を活用することで現時点では存在しないイメージも容易に得られるという点です。それによって、具体的なイメージを持ったアイデア形成に役立てることができます。

一方、デメリットも存在します。生成AIは汎用的なツールであり、特定の用途に向けて高品質な結果を得るためには適切なプロンプトの設計が必要です。また、新規事業担当者には一定の習熟度が求められ、生成結果の根拠が明確でない場合は、根拠を確認する必要があります。

AIツールの組み合わせによる効果的な事業アイデア創出

上記で述べたようにAIを活用した分析手法は、個別に特徴を持ちます。図表2に検索ツールも加えた各AIツールのアイデア創出に関する特徴を示します。図表2から、複数手法を組み合わせた効果の最大化を検討してみます。たとえば、テキストマイニングで自社の強みと市場課題の組み合わせを分析し、浮かび上がったキーワードについてGoogleなどの情報検索で深掘りして事業テーマを特定し、生成AIを用いてそのテーマに基づく具体的な事業アイデアを生成するといった組み合わせが考えられます。

【図表2:各AIツールの特徴の比較】

アイデア創出の各段階 テキストマイニング Googleなどの検索ツール ChatGPTなどの生成AI
新しい組み合わせからの着想 人間が想定しなかった組み合わせも発見可能 × 想定していない組み合わせを探すことはできない × 想定していない組み合わせはプロンプトに入力できない
着目したキーワードについて情報の深堀り 元データを参照することである程度可能 決まったキーワードからの情報検索と閲覧は非常に有効 情報の提示は可能だが、検索ツールほどの一覧性はなく、虚偽が混じる可能性がある
キーワードに基づくアイデアストーリー案作成 グラフを辿ることでストーリーのヒントは得られる × 情報検索に特化 キーワードに基づく案出しは実現可能

AIは能力を拡張するツールであり、いち早い取組みが大きな能力差を生み出します。AIの有用性を実感するためには、静観するのではなく、新規事業などで積極的に活用することが重要です。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング
マネジャー 山本 良太

高速進化するAIがもたらす未来

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