ジェネレーティブ AIによる新規事業アイデアの創出

第1回の記事では、ChatGPTなどのジェネレーティブAIはその特性上、高度なビジネスタスクにそのまま応用することは難しく、あくまで複雑な問題を解くための1ピースとして、他のソリューションと組み合わせて利用することが重要だとお伝えしました。
今回は新規事業アイデア創出というユースケースを取り上げ、より具体的な考察を展開したいと思います。

ChatGPTにビジネスにかかわる「相談」をすると、その応答性能の高さのために、私たちユーザーはこのAIがある種の専門知に基づいて体系だった応答を返してくれているような印象を受けます。しかし実際には言語予測タスクをこなしているだけであり、したがってその応答はユーザー自身の問いから予測できる範囲に限定されるということを念頭に置かなければなりません。

たとえばここで、水のろ過装置を製造する完成品メーカー向けに、自社技術を活用した新規事業アイデアを考えるケースを想定してみます。新規事業になじみのあるビジネスパーソンならば、一口に「ろ過装置」と言っても、アイデアの考案にあたって複数のアプローチがあることに思い至るでしょう。

(1)ろ過装置そのものを活用する事業
(2)ろ過装置を構成する部品(ろ過膜など)を活用する事業
(3)ろ過装置を製造する技術(セラミックス加工技術など)を活用する事業

新規事業に限らず、あらゆる高度なビジネスタスクを着実に遂行するためには、上記のような思考のフレームワーク、いわば見取り図のようなものを常に俯瞰しておくことが重要です。
さて、ChatGPTに対して以下のような“無邪気な”プロンプト(指示文)を投げると、どのような答えが返ってくるでしょうか。以下、筆者が実際に行ったトライアルを紹介し、結果について解説します。

プロンプト
ろ過装置を活用した事業アイデアには何がありますか?

応答

  • 水の浄化:ろ過装置を使用して水を浄化する事業。家庭用の水道水フィルターや、地域の浄水施設の構築などが含まれます。
  • 大気の浄化:ろ過装置を使用して大気中の汚染物質や有害な微粒子を除去する事業。屋内空気浄化装置や都市部の大気浄化施設の開発などが考えられます。(後略)

これらは先のフレームワークのうち、「(1)ろ過装置そのものを活用する事業」のアイデアに限られます。このように、ChatGPTの応答はユーザーのクエリの範疇を超えた示唆出しはできないことがわかります。ではどのようにすれば抜け漏れのない回答が得られるでしょうか。以下を試してみます。

プロンプト
ろ過装置を活用した事業アイデアを考案してください。事業アイデアは表形式で出力し、縦軸を以下のカテゴリとし、横軸に事業の対象となる業界をとってください。

(1)ろ過装置そのものを活用する事業
(2)ろ過装置の構成部品を活用する事業
(3)ろ過装置を製造する技術を活用する事業

応答

飲料水業界
(1)ろ過装置そのものを活用する事業 飲料水の浄化・ボトリング事業

(後略)

今度は事前に想定していたフレームワークに沿った回答を得ることができました。ただし回答の中身が薄くなってしまうので、次のように掘り下げる必要がありそうです(回答は省略しますが、出力された各事業アイデアを具体化できました)。

プロンプト
ろ過装置を活用した事業アイデア「飲料水の浄化・ボトリング事業」について、具体的な事業内容を示してください。

以上の短いトライアルからわかるように、またプロンプトエンジニアリング※1の文脈でもよく指摘されるように、ユーザー側がクエリを工夫することで、ChatGPTからの回答の形式をコントロールすることはある程度可能です(あくまで形式に限った話で、コンテンツの質の話ではありません)。そういった点では、ユーザーが質問の仕方に注意する限り、スポットでの論点出しや壁打ちに用いるのは十分に効果的と言えそうです。

一方で、ChatGPTは抽象(フレームワーク)と具体(個々のコンテンツ)の間を行ったり来たりしながら文章ベースで情報探索をしなければならないことから、冒頭に挙げた全体のフレームワーク=見取り図を得るという点においては大きな課題が残ります。この用途においては、事業アイデア出しに特化したフレームワーク、画面などのUIを実装したAIシステムを導入するのが望ましいでしょう。すべてをChatGPTでカバーしようとするのではなく、目的に応じてソリューションを組み合わせて使用することが大切です。

※1 AIを効果的に利用するためにAIに対するプロンプトを最適化するスキルを指す。

※本文中に記載されている会社名・製品名は各社の登録商標または商標です。

執筆者

KPMGコンサルティング
シニアコンサルタント 千葉 一摩

高速進化するAIがもたらす未来

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